みなさんは、この本の装丁やタイトルを見て、どういったストーリーを想像するでしょうか。
“ランチにお酒”というと、”昼からビール””昼からシャンパン”
なんて贅沢…!!!美味しそうな料理とお酒の、ほんわかなストーリーを思い浮かべる方もいらっしゃると思います。
もちろんそれも正解なのですが、それだけではないのです…。
今回は、原田ひ香さんの『ランチ酒』を紹介させて頂きます。
ランチ酒の感想(ネタバレ)
主人公 犬森祥子という人物
ランチの店を選ぶ基準、『酒に合うか合わぬか』だ。夜の仕事をしている彼女にとって、ランチは1日の最後の食事となる。
ならば、酒を飲んでリラックスしてから家に帰り眠りにつきたい…。
犬森祥子は、同級生であった亀山太一が営む”中野お助け本舗”、通称”見守り屋”に勤める31歳。
勤務時間は、夜22:00~朝5:00(希望があれば昼前まで延長も可能)夜の仕事といえば、夜の仕事である。
仕事内容は文字の通り、依頼者の家に行き見守る仕事。
何をしていてもいいが、絶対に寝ないこと。一晩中起きていることに仕事の意味がある。
これが、この仕事の基本なのだ。そうして、昼前に仕事を終えてランチを食べ、中野坂上の1人で住むマンションへと帰るのだ。
祥子はなぜ、この仕事に就いたのか…?
少しずつ、少しずつ祥子自身の抱えているものが、明かされていく…。
この作品では、16章に分けて依頼者と祥子について書かれています。
章のタイトルは、その日のランチの場所、食べたもの。
それに加えて合わせて飲んだお酒もいくつか紹介していきたいと思います。
さまざまな依頼者たち
- 第一酒 武蔵小山 肉丼×番薯考(ばんしょこう 芋焼酎)依頼者:横井華絵キャバクラに勤め、3歳の娘を育てるシングルマザー
- 第三酒 丸の内 回転寿司×北の勝(根室唯一の地酒)依頼者:小山内学まだらな認知症の母、元子と暮らす月刊誌の編集長
- 第六酒 御茶ノ水 牛タン×ビール依頼者:小山内学再び
- 第七酒 新宿 ソーセージ&クラウト×ハウスワイン4依頼者:矢代愛華神経質に細かいことを気にしてしまう漫画家
- 第十二酒 代官山 フレンチレストラン×ワインマリアージュ依頼者:―—―
以上、一部にしかすぎませんが、依頼者は新規、リピーター、そして職業もさまざまであり、
仕事の間、子供を見ていて欲しい、老犬を見ていて欲しい、認知症の母を見ていて欲しい、自分の話を聞いて欲しい…など依頼内容もさまざまなのです。
傍から見れば、何不自由ない暮らしが、うまくいかないこともあるの。
一見、華やかな暮らしや職業をしていても、何かしらを抱えて生きていて、見守り見守られている。
読まれていてお気付きになったと思うのですが、依頼者が空白な章がこの他にもいくつかあります。
日々働いている中で依頼者に寄り添いつつ、助けられたり、考えさせられたりと祥子自身の問題とも向き合ってゆく。
そんな様子がそれらの章で書かれています。
祥子もまた、抱えているものがあり 見守り見守られているのです。
つらいのは自分の境遇や運命じゃない。それはいい。
一番つらいのは、他の人を傷つけているということー。
だから泥酔したい。
私は生きているし健康だ。元気出そう。
へこたれてなんかいられない。さあ今日も生きないと。
祥子が美味しい料理を食べること、美味しいお酒を飲むことにはこんな想いがあり、単純に仕事終わりの自分へのご褒美の”ランチ酒”ではないのです。
それでも生きてゆく
この作品は、1つずつの章の中に、美味しい料理、お酒の描写と同時にそれぞれが抱えているもの、不安…。
それでも生きてゆく、という優しい光のようなものが含まれているように感じます。
人は皆、多かれ少なかれ悩みや不安を背負って生きていて、努力すればどうにかできることもあれば、どうしようもないこともある。
それでも生きているのだから、誰かを見守ったり見守られたりして、美味しいものを食べて飲んで、生きる糧にしてゆく。
そんなことを教えられた気がします。
みなさんも この作品を読了後には、優しい光に包まれたような明るく穏やかな気持ちと共に、胸が熱くなっていることでしょう。
原田ひ香さんの作品をいくつか読んで毎回感じることは、料理や食べるときの描写が、とても素敵だということ。
そして、食べ物小説のような温かさの中に、垣間見える陰。
この書き方が絶妙であり、私自身、この作品から原田ひ香さんにハマってゆきました。
章のタイトル部分の”第〇酒”。という書き方。たまらない!!
ぜひ、みなさんも、原田ひ香ワールドを覗いてみてください。
主題歌:UB40/Red Red Wine
この作品と曲を合わせるとしたら、UB40の”Red Red Wine”です。
まず、Red wineという時点でぴったりだと思うのですが、和訳をすると歌詞の中に、
でも記憶は消えてくれない、そう忘れられないんだ
でも間違いだったよ。そして見つけたんだよ。たったひとつ忘れさせてくれるものを
というフレーズがあります。
これは、ワインに向けて言っておりワインのことなのです。
この甘いメロディーと甘い声もお酒にはもちろん、この作品にも合っていると思います。
そして私の思い入れのあるお店で流れていたこともあり、迷うことなくこちらを選曲しました。
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