『ドクター・デスの遺産』原作小説あらすじと感想【顔の見えない医師を追え!安楽死をめぐるクライム・サスペンス】

『ドクター・デスの遺産』書影画像

今回、犬養と高千穂が挑む相手は、正体不明の医者「ドクター・デス」。

末期患者の安楽死を提唱し、自殺装置を開発した「死の医師」ことジャック・ケヴォーキアンがモデルです。

苦しむ患者に「安らかな死を与える」安楽死は、法律的に認められるべき方法だと思いますか?

遺族から感謝される医師は、極楽へ導く救世主でしょうか。

あるいは、欲望のままに殺害する快楽殺人者にすぎませんか?

闇に包まれたドクター・デスの真意を探るべく、最強のバディが立ち上がります。

こんな人におすすめ!

  • 安楽死に関心がある人
  • 現在の社会福祉に疑問点がある人
  • 新鮮なバディものに出会いたい人
  • 善悪で割り切れない問題に果敢に取り組みたい人

あらすじ・内容紹介

ねえ、聞いてよ。悪いお医者さんが来て、お父さんを殺しちゃったんだよ」

不可解な事件を知るきっかけは、1人の少年の通報だった。

「犬養隼人」シリーズ第4弾。

直情的な刑事、犬養隼人と冷静沈着な刑事、高千穂明日香。

対照的な2人が正体不明の医師と対決する。

ネットで安楽死を持ちかけ、猟奇的な連続殺人を行う「ドクター・デス」。

末期患者を苦しませることなく安らかな死を提供し、遺族から感謝される謎の人物だ。

2人は正体を突き止めるために遺族の元を訪ねるが、捜査を嘲笑うかのように類似事件が発生。

自分で死ぬことを選択することって、そんなに悪いことですか。

自身も難病を抱える娘を持つ犬養は、安楽死や尊厳死の価値観に苦悩する。

ドクター・デスのモデルは、末期患者を自作の装置で安楽死させた「ジャック・ケヴォーキアン」。

死の医師」と呼ばれた実在の人物である。

安楽死は許される死なのか。

終末期医療や尊厳死、被害者が存在しない殺人の是非を問う。

倫理観を揺さぶるクライム・サスペンス。

『ドクター・デスの遺産』の感想・特徴(ネタバレなし)

「顔の見えない」不気味な医師

「いったい、ドクター・デスというのはのっぺらぼうか何かか」

「そこそこ目撃情報があるっていうのに、似顔絵一つ作れやしない」

ドクター・デスは、顔の見えない医師です。

交錯する目撃情報のなかでかろうじて一致したのが、「頭頂部が後退した小男」という特徴だけ。

証言は相反する特徴ばかりで、内容は二転三転して収拾がつきません。

彼には実体がないのです。

特徴があまりにもなさすぎて不気味です。

人間ではなく、幽霊と言っても差しあたりがないでしょう。

「妙な話なんですけど、印象があまりないんです。わたしと同じ背格好だったから背が低かったのは確かで、頭の天辺も禿げていました。でも顔の形とか目鼻立ちがはっきりしていなくて……。」

重い心臓病を患い、嘱託殺人で殺された岸田正人。

彼の母、聡子から聞いた特徴です。

彼女もまたドクター・デスの容貌を漠然としか覚えていませんでした。

顔のパーツがはっきりしておらず、記憶に残らないのです。

顔のパーツが記憶に残らなければ、特徴がつかめません。

特徴がつかめなければ、似顔絵を書いて有力な情報を得られません。

案の定、捜査は頭打ち状態に追いやられます。

安楽死の間で揺れる患者家族、娘の命と葛藤する犬養

安楽死は病身の家族を持った者にとって、甘美な誘惑だ。

頭を振り払って拒絶しても、ふとしたはずみに頭をもたげてくる忌まわしい誘い

『貴方は愛する人の終末期治療に悩んでいませんか?医師から絶望的な診断を下され、経済的にも精神的にも追いつめられ、辛い日々を送っていませんか?

(中略)ドクター・デスは営利目的ではなく、この<死ぬ権利>を主張し、積極的安楽死を推進するために行動しています。

ドクター・デスは、貴方の大切な方に安らかで苦痛のない死を約束します。

費用はかかりますが、安楽死に誘うための実費、具体的には薬剤と装置に関わる実費しかいただきません。(中略)法よりも、世間よりも、その人が大切な方はご連絡ください』

彼は末期患者の家族の心に付け込み、安楽死へ誘います。

ネットを通じて志願者をおびき寄せ、頃合いになれば連絡を取る。

相当な執念がなければできない芸当です。

苦しまずに楽になれる」と吹聴し、誘導する行為はさながら洗脳のようです。

実に狡猾で慎重な犯人ですね。

犬養にも病気療養中の娘がいる。離婚して別居した頃は疎遠だったが最近、ようやく父娘間のわだかまりが解けつつあるので、余計に子供の心情に関心が行くようになった。

父親を殺すように仕向けたのが母親だと知ったら、あの幼い目はどう歪むのだろう。

犬養の娘、沙耶香ちゃんは数年前から尿毒症を患い、人工透析を繰り返しています。

その都合上、事件と他人事ではいられません。

刑事の自分を最優先するか、子を持つ親としての自分が先か。

犬養は究極の選択を余儀なくされます。

「ストーカーが増えたのは教育のせいだとか、イジメが増えたのは社会のせいだとか、何でもかんでも外部環境のせいにしやがる。挙句の果てには犯人も格差社会の犠牲者だなんて吐かしやがる。ふざけるなってんだ。人を傷つけるのも殺すのも、みんなそいつの責任に決まっている。劣悪な家庭環境にいる人間が全員犯罪者になる訳じゃない。恵まれない人間が全員捻くれる訳でもない。それと一緒で、終末期医療が進んでいないから積極的に安楽死を勧めるなんてのも、結局は屁理屈に過ぎないのさ。ドクター・デスは末期患者の味方でもなければ終末期医療の先導者でもない。二十万円ぽっちの報酬で人を毒殺して回る、ただの連続殺人鬼だ」

上司の麻生は竹を割ったような性格で、微塵も悪を許しません。

病気の娘を持つ犬養とは、混じりあうことがありません。

それでも犬養は全面的に同意することができない。

ドクター・デスの真意はともかく、安楽死に加担した家族の弱さを責める気には到底慣れない。

犬養が麻生の全否定に難色を示すのも仕方ありません。

事件を解決することが先だと分かっていても、頭に娘の姿がよぎります。

委託殺人が犯罪とはいえ、依頼した家族に同情を抱いてしまう。

そこに刑事としての彼はいません。

1人の父親としての苦悩です。

警察官としては、きっとそれが全うな反応なのだろう。背景や理由がどうあれ、人の命を奪う行為は紛うことなき犯罪だ。だが父親としての犬養は優柔不断になる。仮定の話は好きではないが、もし沙耶香が余命いくばくもない病状に至った時、身近にドクター・デスがいたとしたら、犬養には彼の誘惑を断ち切れる自信がない。

警察官としての使命が第一な麻生と、弱さを抱えながら仕事をする犬養では、事件に対する考え方の重みが異なります。

高千穂の助けもあって、何とか正気でいられる犬養ですが、心の中は無力感と焦燥で埋め尽くされています。

安楽死は殺人行為なのか?

安楽死は難しい課題です。

自分が難病を患う患者なら、真っ先に楽になりたいと望むでしょうし、高額な医療費を支払いながら生きながらえていたくありません。

当然のことながら負担がかかります。

一方で、家族の視点ではどうでしょう?

愛する人の声が聞きたい。

家族が生きている姿を見ていたい。

それが切実な願いではないでしょうか。

その一方で、「介護に疲れた」「辛そうで見ていられない」ともがき苦しむ姿に目を背ける家族もいます。

「早く楽にしてあげたい」と待ちわびる人もいるでしょう。

ドクター・デスのような医師は、必要悪なのかもしれない。
一瞬でも存在を疑ってしまう自分がもどかしく、ふがいないです。

まとめ

何度も言いますが、安楽死は殺人です。

到底許される行為ではありません。

犯罪行為を肯定しているわけではないことをご了承ください。

誰一人先生を憎む人はいませんでした。それでも先生は罪に問われるんでしょうか

主要人物が言った言葉を引用して終わりにしたいと思います。

病で苦しむ終末期患者を楽にしてあげるために、薬品を使用して安らかな死を提供したドクター・デスは、本当の意味で殺人者と言えるのでしょうか。

善人か悪人かの判断は、読者の解釈にゆだねます。

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