世間を騒がせる、〈目潰し魔〉による連続傷害殺人事件。
その捜査に奔走する刑事・〈木場修太郎(きば しゅうたろう)〉は、捜査線上に浮かんできた友人、〈川島新造(かわしま しんぞう)〉の存在に困惑する。
手掛かりを求めて川島に接触する木場だったが、川島は〈蜘蛛に訊け〉という言葉を残し、失踪を遂げる。
一方で〈聖ベルナール女学院〉の生徒、〈呉美由紀(くれ みゆき)〉と〈渡辺小夜子(わたなべ さよこ)〉は、学校内に飛び交う噂を追う中で、〈蜘蛛の僕〉なる集団と、望めば人殺しさえ厭わないという〈蜘蛛〉の存在を知る。
〈蜘蛛〉の存在に半信半疑だった2人だが、奇しくも〈蜘蛛の僕〉の一員であったらしい少女、〈麻田夕子(あさだ ゆうこ)〉と知り合ったことで、彼女達は恐ろしい〈蜘蛛の巣〉に囚われることとなる…。
結果が原因を生み、更なる結果をもたらす〈蜘蛛の巣〉のような複雑怪奇な事件に、憑物落とし・〈京極堂〉が挑む!
目次
こんな人におすすめ!
- 妖怪が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
- 「百鬼夜行シリーズ」が好きな人
あらすじ・内容紹介
世間を騒がせている、〈目潰し魔〉による連続傷害殺人事件。
その捜査に奔走する刑事・〈木場修太郎〉は、幼馴染みの探偵・〈榎木津礼二郎(えのきづ れいじろう)〉と共通の友人である〈川島新造〉が捜査線上に浮かんできたことに酷く困惑する。
事情を問い質そうと、川島との接触を図る木場だったが、〈蜘蛛に訊け〉という謎の言葉を残して川島は逃亡してしまう。
一方、〈聖ベルナール女学院〉の生徒である〈呉美由紀〉と〈渡辺小夜子〉は、学校内の噂を追う中で、人殺しすら厭わない〈蜘蛛〉と、それに仕える〈蜘蛛の僕〉なるものの存在を知る。
教師・〈本田幸三〉から酷い辱しめを受けていた小夜子は、〈蜘蛛の僕〉の集会が行われているらしい聖堂で、衝動的に〈本田を殺してくれ〉と叫んでしまう。
願いを叫びながらも、半信半疑であった美由紀と小夜子だが、現実に本田が絞殺死体となったことで、〈蜘蛛の巣〉に囚われてしまう。
事件解決の依頼を受けて学校に足を踏み入れた榎木津は、自らの行動もまた〈蜘蛛の巣〉を構成する要素となってしまうことに気付き、事件の盤上から降りようとする。
そして、釣り堀を営む〈伊佐間一成〉と古美術商の〈今川雅澄〉は、とあるきっかけから旧家・〈織作家〉に訪れたことで、殺人事件に巻き込まれる。
結果が原因を生む事件の連鎖は、まるで京極堂を引っ張り出そうとするかのように複雑に絡まり合う。
果たして、巣の中心に棲まう〈蜘蛛〉の正体とは?
『絡新婦の理』の感想・特徴(ネタバレなし)
結果が過程を呼ぶ、蜘蛛の巣のような複雑な事件
その偶然―既に蜘蛛の巣の上に乗っちゃあいないか?
前作『鉄鼠の檻』が、1つの巨大な事件を描く作風だったのに対し、今作『絡新婦の理』は『魍魎の匣』や『狂骨の夢』と同様、複数の事件が複雑に絡み合い、1つの巨大な事件に収束していくタイプの作品だ。
刑事・木場修太郎が追う、〈連続目潰し魔〉。
探偵・榎木津礼二郎が関わる〈絞殺魔〉。
更に伊佐間一成と今川雅澄が巻き込まれた、旧家・〈織作家〉に纏わる事件。
其々の事件が互いに連動し、1つの大きな事件に収束していく様は、非常に読み応えがある。
そして、今作の事件の大きな特徴。
結果が原因を生み、原因が更なる結果を生み出すという特殊な事件の構造は、あの天衣無縫の探偵、榎木津ですらも〈盤上の駒〉として扱う。
更に、まるで京極堂を引っ張り出そうとするかのように広がる、事件という名の〈蜘蛛の巣〉。
読み進めるうちに、読者もきっと巣に囚われることだろう。
京極堂と張り合える、〈蜘蛛〉の存在
私は私自身の手で憑物を落としたのです
「百鬼夜行シリーズ」において、最終的に全ての謎を解き明かす存在、京極堂こと〈中禅寺秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)〉。
腰が重く、基本的に最終局面でしか出張ることはないが、彼の憑物落としによって事件は終息する。
誰が相手であっても巧みな弁舌で呪をかける彼は、作中において誰も並び立つことの出来ない位置にいる様にも見える。
しかし今作に登場する〈蜘蛛〉は、その明晰な頭脳を用い、京極堂と同じ目線で言葉を交わし合う。
「百鬼夜行シリーズ」において、初めて京極堂と対等に渡り合える〈蜘蛛〉とは、果たして何者なのか。
全てが明かされる最終局面まで、決して目を離すことはできない。
読了後、1項目に戻りたくなる作品構造
あなたが―蜘蛛だったのですね
更に今作は、全ての物語を読み切った後、すぐに1項目に戻りたくなるような、構造的な美しさも秘めている。
物語の最初に描かれる、京極堂と〈蜘蛛〉とのダイアローグで全ての真相を明かしながらも、読者にそれを気付かせることは無い。
そして全てを読み終えた後に、最初のダイアローグの意味を知ることができる今作の構造には、ただ圧倒されるばかりだ。
是非とも、美しく巡る物語の輪を楽しんでもらいたい。
まとめ
様々な魅力を持つ「百鬼夜行シリーズ」の、第5作目である今作。
複雑に絡まり合う事件の謎や、あの探偵・榎木津礼二郎すらも盤上の駒として扱い、京極堂とも対等に渡り合う〈蜘蛛〉の登場、更には美しい物語的構造など、今作の魅力を挙げていくと枚挙に暇がない。
その他にも〈基督教〉と〈猶太教〉についての解説や〈フェミニズム〉も物語の軸として盛り込まれており、本記事では取り上げきれなかった要素も多々あるため、先ずは自身の目で読んでみて欲しい作品だ。
夢中になって読んでいるうちに、気がつけば読者も〈蜘蛛の巣〉の虜になっているかもしれない。
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