重松清は現代の家族を描くことをテーマとし、数々の作品を生み出しています。日常を切り取ったような作品が多く、細かな心理描写が魅力です。
作品としては、学生時代の話が多く、日々の悩みや不安や嫉妬といった心理が丁寧に描かれています。学生時代の青春が思い出されるような、甘酸っぱく、心温まる物語にどんどん引き込まれていきます。
読み終わると自分を取り巻く家族や友だちに、優しい気持ちになれることと思います。今回は、重松清のおすすめ小説17選をご紹介します。
目次
重松清作品を読むおすすめの順番とその理由を解説!
重松清の作品を目一杯楽しむために最適な読書の順番について紹介します。
重松清を読んだことがないなら、まずは『エイジ』『青い鳥』『きみの友だち』から読み始めるのがおすすめです。
重松作品の魅力としてよく挙げられるのが、「ストーリーがわかりやすい」「ラストに救いがある」「心豊かな人が多く登場する」という点。この3作品は重松清の魅力がしっかり詰まっており、重松清という作家が好きかどうかを見極めるのに最適な作品です。
上記の作品が心に響いたのなら、次は『きよしこ』『きみの友だち』『みぞれ』そして『ハレルヤ!』を読んでみましょう。
人間社会に生きることの難しさ、誰しもが抱える苦悩が緻密に表現されており、前3作よりも少し重めのテーマが折り込まれています。
ここまで読み進められたなら、ぜひここで『ビタミンF』『くちぶえ番長』を読んで元気を充電しましょう。どちらもエネルギッシュな物語で日常にやる気や希望をもたらしてくれます。
重松清の魅力として挙げるべきもう一つが「生、そして死の描写」です。
『とんび』『流星ワゴン』『その日のまえに』『めだか、太平洋を往け』に登場する人々は誰かの死に向き合い、人生の中でも非常に難しい時期にいて踠き苦しんでいます。
読むのが辛く感じることもあるかもしれませんが、ここまで重松清を読み込んできたなら大丈夫。重いテーマの中から多くの学びを得られるはずです。
『ルビィ』はリアリティ溢れる描写に強い重松作品の中で、SF的な要素も含まれた珍しい作品です。いきなりこの作品を読むと重松清の特徴を掴みにくいので、定番作品を制覇してからトライすることをおすすめします。
重松清のおすすめ小説17選
ここからは、重松清のおすすめ小説を17作品紹介していきます。
『エイジ』
第12回山本周五郎賞受賞
中学2年生のエイジが住む桜ヶ丘ニュータウンでは通り魔事件が相次いでいました。犯人として逮捕されたのは、なんとエイジの同級生で……。
通り魔本人ではなく、そのクラスメイトの少年の葛藤に焦点を当てた青春小説。何者かになりたい、でもなれない閉塞感が大変なリアリティーを持って描かれており、攻撃衝動を持て余す中学生の毎日を追体験できます。
登場人物たちがいわゆるどこにでもいる普通の子なのも、臨場感を加速させていました。同級生が逮捕されたことで、自分もまた犯罪者になってしまうのではと危ぶむエイジ。こちら側に留まるか踏み出すかは、ほんのちょっとの差異に過ぎないのではと考えさせられます。中学生の頃を思い出したい方は、ぜひ手に取ってください。
『きよしこ』
まさみ
転校生のきよしは持病の吃音のせいで人と喋れず、クラスでいじめられていました。そんな彼がクリスマスに出会った「きよしこ」は、孤独な少年に寄り添ってくれて……。
吃音を患った小学生の成長を描いた感動ストーリー。学校に居場所がないと感じた経験がある人は、きよしが感じる痛みや哀しみ、よるべない寂しさに胸を打たれるはず。子供でもすらすら読めるやさしい文体ですが、「通行人AやBなんて人間は存在しない」をはじめ、所々で目を開かされました。
決してご都合主義にはいかないからこそ、人の輪からはみ出しがちなきよしに手をさしのべてくれる、理解者たちの存在に救われます。ぜひ親子で読んでほしい一冊です。
『きみの友だち』
事故で足が不自由な恵美ちゃんと、病気で入院がちな由香ちゃんは、クラスのみんなから離れて、いつも2人で一緒にいる。勉強もでき、スポーツも万能なブンちゃんはクラスの人気者。ある日、モトくんというできる転校生が現れ、初めて挫折を味わう…。
10編からなる連作長編。恵美ちゃんを取り巻く、家族や友だちの複雑な心理描写が見どころ。
ぶっきらぼうで「みんな」と関わらない恵美ちゃんと、「みんな」に属することで仲間外れになったり、八方美人になったりする人たち。
対照的な両者を目の前にし、「友達って何だろう?」と改めて考えさせられる一作。
『みぞれ』
幼馴染が自殺未遂し、それ以来「死」について考えるようになった男子高校生。結婚して7年目、せっかちな旦那に嫌気がさし、家出した妻。子どもがいないとつい言えなくて、芝居を打つことになった夫婦。どちらかがリストラされる岐路に立った40歳の同期社員…色んな人の人生を垣間見れるような一冊。
11編からなる短編集。読んだとき、近所の人の話かなと思った(笑)。それくらいどこにでもありそうで、なさそうな短編の数々。
何かしらのコンプレックスや課題がありながらもそれを乗り越え、家族や友だちへの愛情に気づいてゆくところが魅力。
重松清にトライしたいけれど長編小説は苦手という人におすすめです。
『とんび』
阿部寛×北村匠海主演映画の原作
昭和37年、ヤスさんと愛妻・美佐子さんの間に長男・アキラが誕生。父になった喜びを噛み締めるヤスさんですが、ほどなく妻が他界し一人で子育てする事になります。
不器用すぎるヤスさんとアキラの親子愛、亡き妻との夫婦愛に泣かされる一冊。新米父を助け、アキラを見守り育てた、下町の人情にも心が温かくなります。息子の幸せをひたむきに祈りながら、行き過ぎて空回りしがちなヤスさんの人間臭さには胸が詰まりました。
仕事と育児を両立する苦労も描かれ、子は親の愛情に、親は子の心遣いに気付かされるのではないでしょうか。アキラの成長に伴い、ヤスさんも父親として成長していくのが沁みました。号泣必至の感動作をお探しなら絶対読んでください。
『流星ワゴン』
西島秀俊×香川照之主演映画の原作
主人公・永田一雄の家庭は崩壊寸前。ひきこもりの息子は家庭内暴力を振るい、妻はテレクラで男と不倫しています。人生に絶望したある日の夜、街をさまよっていた彼は幽霊の親子が乗ったワゴンに出会い、過去への旅に出るのですが……。
過去へと遡れる不思議なワゴンに乗った主人公が、自らの親子関係や夫婦関係を見直し、間違いを正していく姿に涙。癌で余命宣告された実父が、自分と同年代のチュウさんとして現れたことで、初めてお互いを許し合えるのも良かったです。
車窓を流れる風景や、昭和の街並みの情景描写も美しく、彼らと一緒に旅しているような余韻に浸れました。昭和の頑固親父に喝を入れてほしい方は必読!
『その日のまえに』
「生と死」をテーマに、7編からなる連作短編集。
事故や病気で死を迎える人がいます。そして残される人々がいます。受け入れがたい現実に直面する5組の葛藤と決断が綴られる短編は、最終話「その日のあとで」で結実します。
生きることと死ぬことに意味はあるのか。物語はその議論の無意味さを突きつけてきます。細やかに描かれた死に直面する当人と見送る人々の心情は、どちらに軸足をかけても涙が止まりません。また、死を迎える側のほうが、残される人々を想って未来に目を向けているのが印象的です。
読む人の年代や経験によって受け取るものが違う魅力をもった作品なので、手元に置いて何度でも読んでください。その日までと同じくらい、その日のあとを丁寧に生きる大切さを再確認させてくれます。
『ビタミンF』
第124回直木賞受賞
中年に突入した現実を痛感する38歳男性、中1の息子とすれ違い続ける40歳男性、離婚をほのめかす妻に動揺する36歳男性……それぞれ仕事や家庭の悩みを持った団塊世代のサラリーマンたちに、ある転機が訪れます。
父として夫として、辛い立場に置かれた登場人物たちの独白に心動かされる短編集。夫婦や親子の関係をテーマにした話が多く、同年代の読者は大いに感情移入できるはず。
中でも小学生の娘の切なすぎる秘密を描いた『セッちゃん』に号泣、流し雛を追いかけるシーンが美しいです。ままならない日常と戦いながら、それでもほんの少しの勇気を得て、再生していく家族の姿に感動します。
家族のために日々頑張っている、お父さんたちに読んでほしいです。
『青い鳥』
阿部寛主演映画の原作
中学の非常勤講師である村内は、吃音があるためうまく話せません。多くの生徒が村内を馬鹿にする中、彼が伝える「ほんとうにたいせつなこと」がひとり、またひとりと生徒を救っていきます。
村内は涙の演説や、夜の街を駆けるようなことはしません。苛立ちや後悔に惑う子どものそばに現れ、時々つっかかりながら話すのです。村内が苦手な言葉で伝えようとする大切なことは、彼の言葉のリズムとともに生徒と読者の胸を打ちます。『きよしこ』同様、吃音をもつ作者だからこその作品、そしてメッセージかもしれません。
学生の時にこんな先生に出会っていたら、今とは違う自分になっていたでしょうか。早く大人になってひとりで生きていきたいと願う子どもに知ってほしい作品です。
『くちぶえ番長』
小学4年生のツヨシのクラスに、ある日一輪車とくちぶえが上手な女子・マコトが転校してきます。マコトは「この学校の番長になる!」と宣言し、ツヨシの最高の相棒になるのですが……。
早くに父を亡くしながらも母を助け、正義の番長として突っ走るマコトがかっこいい!マコトの親友・ツヨシの目線で語られる話は、子供と大人どちらが読んでもワクワクすること間違いなしで、真っ直ぐなマコトが大好きになってしまいます。学校一の悪者トリオとマコト・ツヨシコンビの対決は痛快の一言。友情からスタートし、一年を通して初恋の自覚に至る、甘酸っぱい関係性の変化が最高でした。
泣きたい時はくちぶえを吹こうと前向きに思える、素敵な小説です。
『ナイフ』
クラスでいじめに遭い追い込まれていく少年少女たち。ワニがいると噂される池で自殺を考えるミキ、ストレスから教室で吐いたダイスケ。エスカレートするいじめを止めるため、父親はナイフを持ち……。
いじめられっ子のみならず、親や教師など周囲の人物の視点から問題を掘り下げており、それぞれの立場の苦悩や葛藤に心が引き裂かれます。教室内のいじめ描写はとてもエグく、いじめられた経験のある人はトラウマを蒸し返されること確実。
勧善懲悪な結末とは言い難く、読後感はやるせないですが、加害者と被害者どちらにも転び得る自覚を促す、人生に必要な小説でした。いじめをテーマにした小説でガツンと頭を殴られたい方、おすすめです。
『疾走』
地方都市に暮らすシュウジには寡黙な父と気弱な母、優等生の兄がいます。しかし兄が起こした放火事件をきっかけに日常ががらりと変わっていき……。
主人公に「おまえ」と呼びかける、二人称文体が斬新な小説。何も悪くないシュウジが犯罪加害者家族として迫害される現実は理不尽の極みのやるせなさで、何度も目を背けたくなりました。いじめやDVなど胸糞悪い描写もてんこもりで、新章に入るたびに最悪を更新していく鬱展開には、容赦なく精神を削り取られます。
実に重苦しいストーリーですがタイトル通りの疾走感もあり、出口のない暗闇の中を走り続けたシュウジが、最後に辿り着いた答えには涙が出ました。ヘビー級の読後感にうちのめされたい方、おすすめです。
『十字架』
いじめを苦に自殺した同級生。その遺書でただ一人「親友」と名指しされた主人公は、いじめを傍観していた上、彼の存在に無関心だった罪の意識に苛まれます。
同級生の自殺により十字架を背負い、その後の人生が変わってしまった人たちの物語。いじめの現場に被害者でも加害者でもない、あえて分類するなら消極的な加害者と呼べる傍観者が介在する難しさを考えさせられました。
フジシュンの遺族と何年も費やし交流する中で、息苦しいほどの罪悪感に絡めとられ、父親の無言の糾弾にうちのめされる、主人公の心情が痛いです。人を死なせた人間にはどんな罰が待っているのか、追体験したい方は読んでみてください。
『定年ゴジラ』
30年前に開発が始まり、今では随分と古くさくなったニュータウン。そこに住む山崎さんはこのたび定年を迎え、第2の人生を歩み始めます。やることもなく毎日散歩を続ける山崎さんを仲間として引き入れたのは、同じ境遇の男たち。彼らの哀愁と新しい居場所を模索する姿を描いた短編集です。
定年後に何をすればいいのかわからないのは、仕事一筋だった人々ならではの悩みです。子供や妻との関係にも迷いながら、次なる人生を歩む姿が愛おしく感じられます。同世代の方は人生の活力になり、定年はまだ先という人にとっては先輩の姿にもなるでしょう。
作者は本作を描いたとき、まだ30代でした。そこには、いずれ老いゆく自分への理想が込められているようです。
『めだか、太平洋を往け』
小学校教員を退職したアンミツ先生。そんな時事故で息子夫婦が亡くなり、それと同時に息子の嫁の連れ子翔也の祖母としての生活が始まった。
先生だった自分と、様々な問題を抱えた孫のおばあちゃんとしての自分の間で揺れる彼女に、かつての教え子から連絡がくる。教え子たちとの再会を通して、彼女は少しずつ孫の存在を受け入れていく。
教師人生を全うしたアンミツ先生の人生に突如訪れた別れと出会い。東日本大震災など日本全体が経験した困難も織り交ぜながら、家族を失うことの難しさや血のつながらない家族との関係をどう築くべきなのか、などを教えてくれます。
定年後の人生にスポットが当たっており、老後の人生で生きる意味を見出す主人公の姿には、老若男女を問わず元気付けられることでしょう。
『ハレルヤ!』
青春時代をともに過ごしたバンド仲間五人組が、あることがきっかけで40代半ばでの再会を果たす。
夢みがちだったあの頃から20数年、それぞれが家族や仕事での鬱憤や苦悩を抱え、変貌を遂げた。それは果たして成長なのかそれとも諦めなのか。彼らの葛藤を通して、読者は「あなた今、幸せですか?」と問いかけられる。
たとえ青春時代にバンドを組んでいなかったとしても、彼らのような再会できる仲間がいなかったとしても、この物語で描かれる中年に差し掛かった元若者たちの悲哀と現実には誰もが共感を覚えるはずです。
誰もがそれぞれの理想と現実の間で悩み苦しみ、それでも今の喜びを見つけて生きていく様は涙なしでは読み進められないほどの感情を呼び起こします。
「今の自分に満足していない」「こんなはずじゃなかったのに…」そんな思いを抱えている人におすすめです。
『ルビィ』
作家の仕事に疲れ果てて自殺を図った主人公のダザイさんは、三年前に自殺して死んでしまった少女、ルビィと出会う。
彼女はダザイさんを「誰かの命を救う旅」に一緒に行こうと誘う。ルビィが天国に行くためには、七人の人間の命を救わないといけないのだという。ダザイさんはルビィに付き合わされる途中、死を選ぼうとする人々の心に触れていく。
命を扱う子供向けのテーマが多い重松清ですが、この『ルビィ』においては自死という特殊な亡くなり方を扱っており、珍しく大人向きの物語となっています。一体何が人を自ら死の道へと導くのか。死に飛び込んでいく彼らの心には一体なにが秘められているのか。
生きているだけでこんなに素晴らしいんだと気づかせてくれる素敵な小説です。
おわりに
重松清のおすすめ小説17選を紹介しました。
重松さんの作品は、大きく家族をテーマにしていると書いたように、心に刺さる温かい作品が魅力です。
「泣ける本が読みたい」という方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?
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