重松清は現代の家族を描くことをテーマとし、数々の作品を生み出しています。日常を切り取ったような作品が多く、細かな心理描写が魅力です。
作品としては、学生時代の話が多く、日々の悩みや不安や嫉妬といった心理が丁寧に描かれています。学生時代の青春が思い出されるような、甘酸っぱく、心温まる物語にどんどん引き込まれていきます。
読み終わると自分を取り巻く家族や友だちに、優しい気持ちになれることと思います。今回は、重松清のおすすめ小説13選をご紹介します。
目次
重松清作品を読むおすすめの順番とその理由を解説!
重松清の作品を目一杯楽しむために最適な読書の順番について紹介します。
重松清を読んだことがないなら、まずは『エイジ』『青い鳥』『きみの友だち』から読み始めるのがおすすめです。
重松作品の魅力としてよく挙げられるのが、「ストーリーがわかりやすい」「ラストに救いがある」「心豊かな人が多く登場する」という点。この3作品は重松清の魅力がしっかり詰まっており、重松清という作家が好きかどうかを見極めるのに最適な作品です。
上記の作品が心に響いたのなら、次は『きよしこ』『きみの友だち』『みぞれ』そして『ハレルヤ!』を読んでみましょう。
人間社会に生きることの難しさ、誰しもが抱える苦悩が緻密に表現されており、前3作よりも少し重めのテーマが折り込まれています。
ここまで読み進められたなら、ぜひここで『ビタミンF』『くちぶえ番長』を読んで元気を充電しましょう。どちらもエネルギッシュな物語で日常にやる気や希望をもたらしてくれます。
重松清の魅力として挙げるべきもう一つが「生、そして死の描写」です。
『とんび』『流星ワゴン』『その日のまえに』『めだか、太平洋を往け』に登場する人々は誰かの死に向き合い、人生の中でも非常に難しい時期にいて踠き苦しんでいます。
読むのが辛く感じることもあるかもしれませんが、ここまで重松清を読み込んできたなら大丈夫。重いテーマの中から多くの学びを得られるはずです。
『ルビィ』はリアリティ溢れる描写に強い重松作品の中で、SF的な要素も含まれた珍しい作品です。いきなりこの作品を読むと重松清の特徴を掴みにくいので、定番作品を制覇してからトライすることをおすすめします。
重松清のおすすめ小説13選
ここからは、筆者がおすすめする重松清の小説を13作品紹介していきます。
『エイジ』
あーこ
主人公エイジは東京郊外・桜ヶ丘ニュータウンにある中学の二年生。エイジは平凡な日々を過ごしていたが、突如連続通り魔事件が起こる。その通り魔事件の犯人は、まさかの同級生だった。その日から、自分の気持ちに悩むようになる。家族や友だち、好きになった女子への思いに揺れながら、成長する物語。
エイジはクラスメートが犯人だったことに衝撃を受けるが、そのクラスメートの「キレる」感覚と同じものを感じ、悩む場面がある。その感覚はきっと誰にでもある。恋人や家族とうまくいかない、そんな不甲斐ない気持ちやイライラがいつか形になって現れてしまうのではないかと不安になる。
しかし、エイジはその気持ちを抑え、乗り越える。そこに、思春期特有のトゲトゲした感情と成長が感じられた。中学生のお子さんをお持ちの人や現在中高生の人におすすめ。
ページ数 | 463ページ |
受賞 | 第12回山本周五郎賞受賞 |
『きよしこ』
あーこ
ぼくは、吃音でうまく喋れない。小学生のころは吃音のせいで友達にからかわれた。クリスマスプレゼントに魚雷戦(ぎょらいせん)が欲しかったが、カ行が苦手なせいで言えなかった。代わりに飛行船を頼んだが、もらっても悔しさが募るだけだった。「きよしこ」は、僕とよく似た名前の、夢に現れる友だち。きよしこの存在が、僕には救いだった。少年のせつないながら懸命に生きる物語。
『きよしこ』は、重松さんの自伝的小説と言われている。この小説は本当に泣ける。「言いたいのに、言えない」というのは、本当に辛かったと思う。吃音でなくても、言いたいけれど遠慮して言えないことはあるから、少年に共感しながら読むことができた。
コミュニケーションで辛い思いをしたことのある人におすすめ。
ページ数 | 291ページ |
『きみの友だち』
あーこ
主人公は恵美ちゃん。わたしは、「みんな」を信じない。事故で足が不自由な恵美ちゃんと、病気で入院がちな由香ちゃんは、クラスのみんなから離れて、いつも2人で一緒にいる。勉強もでき、スポーツも万能なブンちゃんはクラスの人気者。ある日、モトくんというできる転校生が現れ、初めて挫折を味わう…。
10編からなる連作長編。恵美ちゃんを取り巻く、家族や友だちの複雑な心理描写が見どころ。ぶっきらぼうで「みんな」と関わらない恵美ちゃんと、「みんな」に属することで仲間外れになったり、八方美人になったりする人たち。
対照的な両者を目の前にし、「友達って何だろう?」と改めて考えさせられる一作。
ページ数 | 436ページ |
『みぞれ』
あーこ
幼馴染が自殺未遂し、それ以来「死」について考えるようになった男子高校生。結婚して7年目、せっかちな旦那に嫌気がさし、家出した妻。子どもがいないとつい言えなくて、芝居を打つことになった夫婦。どちらかがリストラされる岐路に立った40歳の同期社員…色んな人の人生を垣間見れるような一冊。
11編からなる短編集。読んだとき、近所の人の話かなと思った(笑)。それくらいどこにでもありそうで、なさそうな短編の数々。何かしらのコンプレックスや課題がありながらもそれを乗り越え、家族や友だちへの愛情に気づいてゆくところが魅力。
重松清にトライしたいけれど長編小説は苦手という人におすすめです。
ページ数 | 419ページ |
『とんび』
あーこ
昭和37年。運送会社で働くヤスは、愛妻の美佐子との間に、子供を授かる。家族3人、幸せの絶頂を過ごしていた。しかし、その幸せは、美佐子の事故死によって長くは続かなかった…ヤスは、不器用でぶっきらぼうだが、人一倍子ども想いで熱い男。対する息子のアキラは、冷静沈着。そんな父親と息子の愛情たっぷりの物語。(NHKドラマスペシャル「とんび」参照)
幸せな物語かと思えば、初めに妻の美佐子さんが亡くなってしまうのは衝撃的だった。父と子の2人の生活になり、関係性に亀裂が入る場面もあったが、最後にはお互いを想い合うことができたところに感動した。
辛い現実に立ち向かい、もう一度前を向く力が欲しい人におすすめ。
ページ数 | 420ページ |

『流星ワゴン』
「今、人生どん底かもしれない。」主人公の永田一雄は妻と中学生の息子がいる元サラリーマンで現在休職中。荒んだ生活を送る妻からは離婚を要求され、息子は引きこもって暴力をふるう始末。更に父親は癌に犯されており、自分はもう死んでもいいかもしれないとぼんやり考えていた。そんなある夜、一雄は目の前の駅前ロータリーに停止した古いオデッセイを見つけ、中にいた見知らぬ少年から車に乗るように声をかけられる。
最低な現実にうんざりしている時、もう死んでもいいと思う時、人間は生きる幸せや喜びを見いだせなくなります。死んでもいいと思う人間と、死にたくなくても死んでしまう人間。それぞれに事情や思いがあるのですが、生と死は運命であり自分でタイミングを選ぶのは難しい。だからこそ、今を精一杯生きることが大切なのだと感じさせてくれる作品です。
ページ数 | 480ページ |
『その日のまえに』
「生と死」をテーマに、7編からなる連作短編集。死の世界へと旅立つ妻を見送る父と息子の物語を中心に、登場人物たちが親しい人々を送り出す様が描かれる。大切な命が消えていく様を見つめながら、彼らにできることとは。
暖かく心地よい日常の中で突如訪れる「家族の死」。近年日本では核家族化が進んでおり、家族の死を身近に感じる機会がめっきり減っています。幼いころから人の死を感じたことがなく、いきなり訪れるその瞬間に驚き、立ちすくむ方も少なくないでしょう。
『その日のまえに』に登場する人々は、その瞬間にいかに立ち向かうのか、人それぞれの乗り越え方を教えてくれます。大切な人の死に直面して苦しんでいる人におすすめ。
ページ数 | 365ページ |
『ビタミンF』
父親として、夫として、男として。現代社会を生き抜く男たちの生活はいつも戦いと葛藤の連続である。かつては自信がみなぎっていたその肩も、いつしかプライドと孤独感に負け、不器用な男たちは嘆き、苦しみそれでも守るべきものたちがいる。様々な家族の形と愛の形、そして男たちの奮闘がリアルに、そして鮮やかに描かれた、切なくも暖かい物語。
重松清渾身の応援小説!そのタイトル通り、心に響く「ビタミン剤」のような一冊です。『ビタミンF』のFは、Family、Father、Friendなど、Fで始まるキーワードを示しており、各短編のタイトルとして用いられています。
昔はあんなに輝いていたはずの未来だったのに、現実はどうしてこんなにうまく行かないのだろう。そんな心のモヤモヤを吹き飛ばしてくれる物語です。
ページ数 | 362ページ |
『青い鳥』
吃音を抱える村内が国語の非常勤講師として赴任してくる。吃音のため、言葉をうまく話せない村内に生徒たちは戸惑い、中にはからかう者たちもいた。しかし一部の生徒たちは村内を恩師と慕っていた。村内はスムーズに多くを話すことはできないが、本当に大切なことを教えてくれるからだ。いじめによる生徒の自殺未遂という影を抱えるクラスに対し、村内は被害者、加害者の両者に寄り添うのだがー。
阿部寛さん主演で実写映画化された『青い鳥』の原作小説。吃音を抱える非常勤講師、村内先生を中心に繰り広げられる物語を中心とした短編集です。いじめが人の心に落とす影は深刻で、被害者だけでなく場合によっては加害者も大きな心の傷を抱えて生きていくことになります。
いじめ問題の本質と、本当に心を配り直すべきものはなんなのか。村内先生の懐の深さと暖かさに触れるたび、「こんな先生に出会えたならば」と胸が熱くなる作品です。
ページ数 | 437ページ |
『くちぶえ番長』
小学校4年生のツヨシのクラスに、転校生のマコトがやってきた。一輪車と口笛が上手なマコトは転校早々「わたし、この学校の番長になる!」と宣言してみんなを驚かせる。一見目立ちたがり屋にも見える彼女は過去に辛い経験をしていた。強くて優しいマコトと、主人公ツヨシの友情を描いた、逞しさと暖かさが詰まった物語。
重松清作品の中で、特に低年齢のお子様が読みやすい一冊です。テーマは子供の人間関係、そして子供たちが初めて向き合う生き物の生と死。幼い頃に大切な存在の死と向き合う機会が減りつつある近年、マコトの強さは私たちに悲しみを乗り越えて強く生きる姿を示してくれます。
尊敬できるかっこいいヒロインに出会いたい人におすすめです。
ページ数 | 236ページ |
『めだか、太平洋を往け』
小学校教員を退職したアンミツ先生。そんな時事故で息子夫婦が亡くなり、それと同時に息子の嫁の連れ子翔也の祖母としての生活が始まった。先生だった自分と、様々な問題を抱えた孫のおばあちゃんとしての自分の間で揺れる彼女に、かつての教え子から連絡がくる。教え子たちとの再会を通して、彼女は少しずつ孫の存在を受け入れていく。
教師人生を全うしたアンミツ先生の人生に突如訪れた別れと出会い。東日本大震災など日本全体が経験した困難も織り交ぜながら、家族を失うことの難しさや血のつながらない家族との関係をどう築くべきなのか、などを教えてくれます。
定年後の人生にスポットが当たっており、老後の人生で生きる意味を見出す主人公の姿には、老若男女を問わず元気付けられることでしょう。
ページ数 | 518ページ |
『ハレルヤ!』
青春時代をともに過ごしたバンド仲間五人組が、あることがきっかけで40代半ばでの再会を果たす。夢みがちだったあの頃から20数年、それぞれが家族や仕事での鬱憤や苦悩を抱え、変貌を遂げた。それは果たして成長なのかそれとも諦めなのか。彼らの葛藤を通して、読者は「あなた今、幸せですか?」と問いかけられる。
たとえ青春時代にバンドを組んでいなかったとしても、彼らのような再会できる仲間がいなかったとしても、この物語で描かれる中年に差し掛かった元若者たちの悲哀と現実には誰もが共感を覚えるはずです。誰もがそれぞれの理想と現実の間で悩み苦しみ、それでも今の喜びを見つけて生きていく様は涙なしでは読み進められないほどの感情を呼び起こします。
「今の自分に満足していない」「こんなはずじゃなかったのに…」そんな思いを抱えている人におすすめです。
ページ数 | 368ページ |
『ルビィ』
作家の仕事に疲れ果てて自殺を図った主人公のダザイさんは、三年前に自殺して死んでしまった少女、ルビィと出会う。彼女はダザイさんを「誰かの命を救う旅」に一緒に行こうと誘う。ルビィが天国に行くためには、七人の人間の命を救わないといけないのだという。ダザイさんはルビィに付き合わされる途中、死を選ぼうとする人々の心に触れていく。
命を扱う子供向けのテーマが多い重松清ですが、この『ルビィ』においては自死という特殊な亡くなり方を扱っており、珍しく大人向きの物語となっています。一体何が人を自ら死の道へと導くのか。死に飛び込んでいく彼らの心には一体なにが秘められているのか。
生きているだけでこんなに素晴らしいんだと気づかせてくれる素敵な小説です。
ページ数 | 400ページ |
おわりに
重松清のおすすめ小説13選を紹介しました。
重松さんの作品は、大きく家族をテーマにしていると書いたように、心に刺さる温かい作品が魅力です。
「泣ける本が読みたい」という方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?
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