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『終末のフール』伊坂幸太郎【僕等の運命を決めるのは、宇宙だ。】

この本の評価
読みやすさ
(4.0)
面白さ
(4.5)
考えさせられる度
(4.5)
装丁の美しさ
(4.0)
感動度
(4.0)
総合評価
(4.5)

あなたは、自分が生きていることが「当たり前」のことだと、勘違いしていませんか?

誰も死ぬことなく、今まで普通に生きてきた

そんなあなたは、選ばれた「幸せ者」です。その幸せは、決して当たり前のものではありません。

さて、今回紹介するのは、終末のフール

フール(fool)とは、英語で「愚か者」「馬鹿者」という意味です。

世界が明日、終わるかもしれないそんな時、彼らは一体何を考え、どのように生活するのでしょうか。

当たり前の幸福が愛おしくなる、そんな一冊です。

あらすじ

この作品は、八つの短編から成り立っています。

どれもユニークなタイトルで、なおかつ一つ一つの短編が「」「暴動」という、軽く取り扱いができないテーマを扱っています。

私のおすすめは、表題作終末のフールをはじめ、籠城のビール冬眠のガール鋼鉄のウール」「深海のポールです。

  • p9
    終末のフール
    二十五歳の若さでこの世を去った和也。彼が自殺した原因は、父親である「私」のせいだったー。ばらばらになった家族のもとへ突如伝えられるニュース
  • p41
    太陽のシール
    「僕」の妻、美咲は妊娠した。あの日が来るまでに、産むか、産まないか。彼らの決断とは。
  • p77
    籠城のビール
    俺(辰二)と兄は、アナウンサーの杉田玄白を人質にとった。その理由はただ一つ。俺たちの妹、暁子(あきこ)の敵を討つためだ。杉田を殺さなければ、暁子が浮かばれない。
  • p113
    冬眠のガール
    わたし(美智)の両親は、心中を図って死んだ。わたしがやるべき目標は、三つ。「お父さんとお母さんを恨まない」「お父さんの本を全部読む」「死なない」。今のところ、達成中。五年前の暴動と、撲殺事件。
  • p149
    鋼鉄のウール
    苗場さんが現れると、ぼくは背筋がしゃんと伸びるような気がする。僕がボクシングのジムに入ったのは、威張り屋のあいつに勝ちたいのと、苗場さんみたいに強くなりたいからだ。八年前、ニュースは言っていた。ぼくはあの頃より強くなっているだろうか。
  • p183
    天体のヨール
    二ノ宮は、二十年前の姿で僕の前に現れた。彼の両親は、望遠鏡で星を眺めていた時に撲殺された。僕は今すぐ千鶴のいる世界に行きたい。
  • p221
    演劇のオール
    インド出身の俳優の言葉がきっかけで、わたしは人生の針路を決めた。三年前のあの日、薬を飲んで死んだ母。忘れられない、あのニュースのこと。
  • p259
    深海のポール
    もうすぐ世界が終わるというのに、エイリアンと人類が闘う映画を貸した私。「人事を尽くして隕石を待つ」「死んでも死なない」。その言葉の意図は。
注意
以下、ネタバレ注意です

終末のフールの感想(ネタバレ)

籠城のビール

主人公の兄弟の妹、暁子はマンションの立てこもり事件に巻き込まれてしまいます。犯人の女は拳銃で自害しましたが、この事件がきっかけで、暁子は精神的に深い傷を負ってしまい、自殺してしまいます。

マスコミに執拗に追われた兄弟は、次第にメディアを憎むようになります。その相手こそが、アナウンサーの杉田玄白でした。彼は暁子の自殺の件を軽く紹介したあとで、低俗な手品を紹介したのです。

簡単に死ぬなよ。小惑星が落ちてきても、最後まで生き残ってみせろよ。生き延びろ。苦しんで死ぬんだ」

最後に虎一が言い放った、このセリフ。杉田一家にとって非常に重いものでしょう。罪を償わずに、自分たちだけ毒薬を飲んで心中しようとするなんて、殺された側からすると虫が良すぎます。

鋼鉄のウール

キックボクシングのジムに通う主人公の「僕」には、憧れている人がいます。苗場さんという、ボクサーです。

彼は正々堂々とした闘い方を好み、小細工を全くしません。どこか飄々としていて、周りに振り回されない強さを持っています。彼の肉体的な魅力が表れている描写がこちらです。

ただ近くで見ると、苗場さんの筋肉は、鋼鉄でできたような頑丈さを見せながらもどこか、しなやかだった。

 

背中を汗の雫がつるつると流れて、背骨をなぞるように垂れると、それだけで色気を感じさせる。

精神が崩壊し、暴力の衝動を抑えきれなくなった「僕」の父親の暴走を止めたのも、キックボクシングで培った技術でした。

無骨な性格で、あたりまえのことをまっすぐに、ひたすらやり遂げる苗場さんの生き様を真似したいですね。

「あなたの今の生き方は、どれぐらい生きるつもりの生き方なんですか?」

深海のポール

レンタルショップで働く私(修ちゃん)は、妻と娘の未来の三人家族です。彼には、悩み事がありました。
私の父(未来の祖父)は終末に近づく世界でも物おじせず、マンションの屋上に一人櫓(やぐら)を黙々と作る変人なのです。

「櫓を作って、誰よりも高いところから洪水を見学する」。彼はそのことだけを胸に秘めて作業を続けます。

私がいじめられた時、彼の父は答えました。「(生きて)人生の山を登るしかねえだろうが。登れる限りは登れって命令してるんだ。」と。

「生きられる限り、みっともなくてもいいから生き続けるのが、我が家の方針だ」

生き残るということは、なりふり構わず全力でもがくということ。誰かに選んでもらうのではなく、自分で選び取ること。小説の言葉を借りるなら、死に物狂いで生きるのは、権利ではなく、宿命なのでしょう。

まとめ

伊坂さんの小説に出てくる登場人物は、無茶なのに的を得ていて、人間らしさを感じさせます。この小説に限らず、どれをとっても言えることです。

人間が人間であるゆえの葛藤や困難、絶望の中でも希望を見出そうとする人々の飾らない生き方が、そこにはあります。

読み終えた後、猛烈に誰かと語り合いたい衝動に駆られました。

どの短編が好きなのか、どのシーンのどのセリフが気になったのか。

とにかく読み切った熱が冷めず、気持ちを持て余していました。

自分が今、生きていることが奇跡のように思えてきて、人間の小ささ、弱さをまざまざと実感させられます。

目の前の幸せを忘れかけている時や、思い上がった時に戒めとして手に取りたい一冊です。

必死だよ。必死。必死で生きていたんだよ」小松崎さんは口の周りに、深い皺を作った。

 

人ってのは本当に脆いよな。あちこちで、騒乱だろ。」『冬眠のガール』-p139

主題歌:PELICAN FANCLUB/Telepath Telepath

PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)のTelepath Telepath(テレパステレパス)です。
テレパステレパスルルルルルーではありません。)

初めて聴いた時から、この曲は終末世界に似合いそうだと思って選曲しました。

この曲、歌詞が非常に面白いです。

アラスカ育ち寒さには負けない と言って毛布にくるまる

(作詞:エンドウアンリ)

どうでしょう?シーンが絵になって、浮かんできそうですよね?

Vo.のエンドウアンリさんが生み出した、このシュールで笑いを誘う歌詞。きっと彼にしか生み出せないでしょう。(『アルミホイルを巻いて』も同じぐらいシュールです。)

おすすめは、「dali」「凪の頃」です。振り子のように不穏が揺れる様を、とくと味わってください。

さよならだ もう嫌だ 終わりにしよう 地球でしか住めない生活は

(作詞:エンドウアンリ)

小説だけだと、内容の重さがどうしても気になりますので、遊び心のあるこの一曲で、外すように心がけました。

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