『ロスジェネの逆襲』池井戸潤【「倍返し」の裏にある半沢直樹の信念とは?】

『ロスジェネの逆襲』池井戸潤【「倍返し」の裏にある半沢直樹の信念とは?】

「やられたら、やり返す!倍返しだ!」

印象的なセリフと共に、ドラマで一躍有名になった池井戸潤の「半沢直樹」シリーズ。

『ロスジェネの逆襲』は、子会社への出向辞令が出された半沢直樹のその後の物語です。

今回は一体どんな「倍返し」が待っているのでしょうか?

あらすじ

子会社、東京セントラル証券に出向した半沢直樹(はんざわ なおき)

IT企業、電脳雑技集団による東京スパイラルの大型買収案件が舞い込んできたが、その案件が親会社、東京中央銀行に横取りされてしまう。

この買収案件には、銀行による何重にも張り巡らされた奇襲があり、東京スパイラルは窮地に立たされる。

その状態を傍で見ていた、半沢の部下森山雅弘(もりやま まさひろ)

東京スパイラルの社長 瀬名洋介(せと ようすけ)が、突然目の前から姿を消した中高時代の親友と分かり、何とか助けになれないかと考える。

一方、銀行による買収案件の横取りで窮地に立たされた半沢だが、電脳雑技集団の買収策に穴を見つける。

部下森山とともに、倍返しはできるのか。

注意
以下、ネタバレ注意です。

『ロスジェネの逆襲』の感想(ネタバレ)

鮮やかな倍返し

半沢直樹シリーズの見所といえば、流行語にもなった「倍返し」ですね。

今回ですと、大型買収案件を横取りした東京中央銀行への倍返しになります。

東京中央銀行は、時間外取引、ホワイトナイトの用意、追加融資など、何重にも巡らされたスキームを用意し、電脳雑技集団の東京スパイラル買収を成功に導かせようとしました。

しかし、完璧に見える買収劇のシナリオにも、弱点があります。

窮地に立たされる東京スパイラルですが、東京セントラル証券側のアドバイスもあり、この弱点に気づき、買収防衛は成功します。

ただし、東京スパイラルが窮地に立たされているから、半沢たち東京セントラル証券も手を差し伸べたわけではありません。

そこには東京スパイラル社長瀬名の経営ビジョンが明確であったこと、そして、半沢直樹のぶれない信念があったと考えられます。

半沢直樹のぶれない信念

目の前に立ちはだかる敵に対し、幾度となく倍返しをしてきた半沢直樹ですが、彼には仕事に対するぶれない信念があります。

「サラリーマンは――いや、サラリーマンだけじゃなくて全ての働く人は、自分を必要とされている場所にいて、そこで活躍するのが一番幸せなんだ。会社の大小なんて関係ない。知名度も。オレたちが追求すべきは看板じゃなく、中身だ。」

本作において半沢直樹が追求することは、「東京セントラル証券の利益をどう上げるか」ということ

いくら親会社である東京中央銀行に籍があろうと、東京スパイラルのアドバイザーになって、親会社を敵に回すことになろうと、東京セントラル証券の利益につながるのであれば、行動を起こします。

その姿は、かつて銀行の利益を守るために、債権回収や老舗ホテルの再建、金融庁検査対応に奔走していた時とも共通しています。

(詳しくは『オレたちバブル入行組』や『オレたち花のバブル組』をご参考に。)

このぶれない信念に、サラリーマンでありながら、ヒーローらしさを感じるのかもしれません。

世代論に根拠なし。一人ひとりをよく見よう

本作で初めて登場する森山雅弘

半沢の部下である彼は、半沢とは真逆のロスジェネ世代、子会社プロパー組になります。

本書のところどころで、就職売り手市場だったバブル世代や、腰掛で子会社にいる銀行出向組を疎んじている描写があります。

こう見ると、森山は世間一般のロスジェネ世代を象徴している登場人物と言えるでしょう。

ロスジェネ世代ではなくても、景気によって就職市場が左右されることに、不公平感を感じることはあるかと思います。

就職難の時代に遭遇した人には、被害者意識がより強くなるのかもしれません。

ただ、半沢達バブル世代も楽な世代かというと、「団塊の世代が敵だった」と語ります。

「オレたちは新人類って呼ばれてた。そう呼んでたのは、団塊の世代といわれている連中でね。世代論でいえば、その団塊の世代がバブルを作って崩壊させた張本人化もしれない。いい学校を出ていい会社に入れば安泰だというのは、いわば団塊の世代までの価値観で、尺度で、彼等がそれを形骸させた。(中略)バブル世代にとって、団塊の世代は、はっきりいって敵役でね。君たちがバブル世代を疎んじているように、オレたちは団塊の世代が鬱陶しくてたまらないわけだ。だけど、団塊世代の社員だからといって、全ての人間が信用できないかというと、そんなことはない。逆に就職氷河期の社員だからといって、全てが優秀かといえば、それも違う。結局、世代論なんてのは根拠がないってことさ。上が悪いからと腹を立てたところで、惨めになるのは自分だけだ。」

半沢のこのセリフは、世代論が如何に作り出された産物であったか、ということがよく分かります。

実際、森山はバブル世代の半沢を「信頼できる上司」と評しているので、世代論≠人物評ということが分かります。

一見すると、森山たちロスジェネ世代は「時代の被害者」のように見えますが、世代論だけで論じられないことがあると、本作は教えてくれるように感じます。

主題歌:斉藤和義/攻めていこーぜ

本作に主題歌をつけるとしたら、斉藤和義さんの『攻めていこーぜ』だと思いました。

特にサビに入る前からサビにかけての歌詞が、森山が親友、瀬名洋介を助ける場面にリンクすると感じたからです。

緊張することはいいことさ 好きなことをやっている証拠 

チビルくらいの武者震いを隠したら 信じた道を突き進むだけ

攻めていこーぜ 守りはゴメンだ 叱られるのなんて ほんの一瞬のことだよ

攻めていこーぜ 敵を味方につけちゃうくらいの勢いで

怒られるのが怖くて、どうしても失敗を避けるために、守りの姿勢に入ってしまいます。

でも、時には攻めていかないと、守ってきたことも守れないのかもしれません。

本作では、攻める=東京スパイラルを守ることになりますが、親会社を敵に回しても助けた行動は「攻め」と言えると思うのです。

まとめ

働いていると、相性が悪い上司や同僚がいたり、理不尽な言いがかりをつけられたり、嫌な思いをする場面に出くわすことも多いです。

時には「倍返ししたい!」と思うこともあるでしょう。

『半沢直樹シリーズ』は、倍返しも見どころですが、倍返しするために裏付けされた半沢の信念や、仕事論、世代論など奥深いセリフも数えきれないほどあります。

こちらも合わせて注目していただけると、池井戸作品のファンとしては喜ばしい限りです。

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