『蝿の王』原作小説あらすじと感想【極限状況での人の本質を問う、ディストピア小説の名著】

『蝿の王』原作小説あらすじと感想【極限状況での人の本質を問う、ディストピア小説の名著】

戦火から逃れた少年たちが辿り着いた、とある島。

そこは美しい自然に囲まれ、水も果物もある楽園のような場所だった。

少年たちは大人を真似て秩序を作り、ルールに従いながら助けを待つことにした。

しかし、徐々に対立が生まれ、秩序は崩れてゆき…。

ノーベル文学賞作家が描く、最悪のディストピア小説。

こんな人におすすめ!

  • 社会学が好きな人
  • 宗教学が好きな人
  • ディストピア小説が好きな人

あらすじ・内容紹介

世界大戦が勃発した近未来。

少年たちが疎開のために乗っていた飛行機は、南太平洋上の無人島に墜落した。

果物が豊富に実り、飲み水にも困らない、何より戦争の影が無い楽園のような島に投げ出された、子供だけの集団。

端正な顔立ちと優秀な頭脳を持つ少年〈ラルフ〉を筆頭に、子供たちは民主主義を模倣し、秩序を作り上げていく。

やがて子供たちの中には、〈螺貝をアイコンとする〉〈当番制で火の番をする〉など、様々なルールが定められていった。

しかし、ラルフと仲の悪かった少年〈ジャック〉の奔放な振る舞いや、彼が豚を狩ったことで御馳走にありつく様から、子供たちは徐々にジャックの生き方へと惹かれてゆき、島には不和が訪れ始める…。

ノーベル文学賞作家のウィリアム・ゴールディングが描く、ディストピア小説の傑作!

『蝿の王』の感想・特徴(ネタバレなし)

最悪の〈無人島漂流記〉

大人はひとりもいないのかな

今作の〈大人のいない空間で子供たちが生き抜く〉というストーリー展開は、それだけで1つジャンルを築ける程に数多く描かれてきた。

古くはジュール・ヴェルヌが描いた『十五少年漂流記』やバランタインの『珊瑚島』、更に遡れば、ダニエル・エフォーの「ロビンソン・クルーソーシリーズ」などが挙げられるだろう。

どの作品も、無人島に漂着した少年たちが協力し合いながらサバイバル生活を繰り広げるという、どちらかと言えば〈冒険作品〉的な要素が強い。

今作『蝿の王』が上記の作品と一線を画すのは、今作がその〈協力〉の不成立、更に言えば〈秩序の崩壊〉までを描いた点であろう。

大人という〈絶対者〉から解放された彼らは最初、大人を模倣して〈秩序〉を作り上げようとする。

しかし秩序は永くは保たれず、結果として悪夢のような崩壊と、血みどろの殺し合いへと発展してゆく。

寓意的かつ丹念に描かれたこの〈秩序な崩壊〉の様子には、読者の読み方によって幾通りもの解釈が可能だ。

是非とも〈作品が伝えようとしたテーマ〉に想いを馳せながら、読んでみてほしい。

〈蝿の王〉の意味

おまえは馬鹿な子供だ

今作のタイトルでもある〈蝿の王〉とは、新約聖書に出てくる悪魔のかしら〈ベルゼブル〉(『マタイによる福音書』十二章二十四節などに登場)のことを指している。

七つの大罪において〈暴食〉を司るこの悪魔の名がタイトルに冠されていることには、大きな意味がある。

更に聖書には〈イエスが悪魔を追い出すと、その悪魔は豚の中に入った〉という逸話が有ることも念頭に置いておくと、今作のタイトルが〈蝿の王〉である理由をより感じられるだろう。

今作にて唯一、神の使徒を名前の由来とし、更には〈イエス・キリスト〉的な役割をも与えられた少年〈サイモン〉と、ついに崇められるにまで至った〈蝿の王〉の対話は、今作でも1番の注目ポイントだ。

ただ1人〈蝿の王〉の正体に気がついたサイモンと、それでもなお巨大な存在感を持ってサイモンに語りかける〈蝿の王〉の対話は様々な隠喩に満ちており、非常に示唆に富んでいる。

また、今作はそのテーマの普遍性故に、さまざまな分析がなされている。

一度、今作に関する分析や解釈を調べてみた後に再読することで、また違った味わいが出てくるので、一度と言わず二度三度読み返してみて欲しい。

きっと、その度に様々な解釈ができるだろう。

現代にも通用する〈排他性と攻撃性〉の描写

〈獣〉を殺せ!喉を切れ!血を流せ!ぶち殺せ!

秩序や理知を司るラルフと、シンプルな力ゆえに少年たちを惹きつけるジャックの対立は、現代にも通じる〈排他性〉や〈攻撃性〉に溢れるものとして描写される。

読者に対しての手心は一切なく、悲劇は徐々に加速していく。

過程や最終的な結末は伏せるが、彼らの行いは実に現実に即したものと言える。

現代でも、自身と異なる意見への攻撃や、異なる性質の者を排除しようとする動きはあちらこちらで見られるだろう。

本書で客観的にその悲劇を目撃することは、読者自身も自らに内在する〈排他性〉〈攻撃性〉を自覚することにも等しい。

物語に秘められた寓意の普遍性もまた、本書が永く愛される所以だろう。

また、今作の最後のシーンには、ウィリアム・ゴールディング流の強烈な皮肉も込められている。

まとめ

1954年に出版された本書は、現代においても通用する普遍性を持った小説だ。

目を逸らしたくなる程に陰惨な物語だが、だからこその力強さのある1冊でもある。

また、今作は多様な解釈が可能な作風ゆえに、様々な研究、分析も行われている。

読了した後に、関連する文献を読んでから再読すると、今作はまた違った顔を見せるかもしれない。

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