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『虐殺器官』原作小説あらすじと感想【人体に潜む虐殺を司る器官とは?】

『虐殺器官』原作小説あらすじと感想【人体に潜む虐殺を司る器官とは?】

9.11を境に、〈テロとの戦い〉は転機を迎えていた。

先進諸国は管理体制を徹底してテロを排除することに成功するが、一方で後進諸国では至る所で〈虐殺〉が起こっていた。

米軍大尉の〈クラヴィス・シェパード〉は、虐殺が起こる直前の国家に頻繁に姿を見せる〈ジョン・ポール〉を追う中で、人体に宿る〈虐殺を司る器官〉の秘密に迫っていくこととなる。

夭折の作家、伊藤計劃のデビュー作。

こんな人におすすめ!

  • SF小説が好きな人
  • 戦争小説が好きな人
  • 繊細な文体が好きな人

あらすじ・内容紹介

2001年、9月11日。

世界を大きな恐怖と混乱の渦に陥れた、前代未聞の同時多発テロ。

この日を境に、〈テロとの戦い〉は様相を変えた。

アメリカをはじめとした先進諸国は徹底的な管理体制社会へ移行。

国民の1人1人にIDを発行し監視下に置くことで、国内からテロを一掃することに成功する。

その一方で、後進諸国には〈紛争〉と〈虐殺〉の嵐が吹き荒れていた。

寛容と多文化主義を謳っていた指導者が、ある日を境に民族浄化を始める。

そんな混乱が、世界各地で頻発していた。

米軍大尉である〈クラヴィス・シェパード〉は、虐殺の未来が待つ国家を渡り歩く謎の男〈ジョン・ポール〉を追う中で、人間に宿る〈虐殺を司る器官〉の存在に触れることとなる。

夭折のゼロ年代作家、伊藤計劃のデビュー作。

『虐殺器官』の感想・特徴(ネタバレなし)

一人称で語られる、繊細で骨太な〈戦争〉の物語

地獄は頭のなかにある。

本作は、SF小説としては多少珍しく、主人公の米軍大尉〈クラヴィス・シェパード〉の一人称で綴られる。

これにより、徹底した〈個人〉が戦争や社会といった巨大なものと対峙する様子を、臨場感たっぷりに描くことに成功している。

映画や文学に明るく、母親から〈ことばにフェティッシュがある〉と評されたシェパード大尉が語る世界は、非常に繊細だ。

彼の言葉で語られるからこそ、世界の悲惨さが際立って見える。

淡々と、しかし繊細に語られる死の連続は、戦争の陰惨さと悲劇性を存分に物語る。

更に、死に触れ続けた彼が折に触れて見る、〈死者の行進〉の夢。

彼が触れてきた〈死人〉が何処かを目指して延々と行進を続ける様子は、恐ろしさと美しさが同居しており、暗澹たる気分になりつつも読み進めることを止められない。

そして、今作のもう1人の重要人物である謎の男〈ジョン・ポール〉。

虐殺が起こる国家で度々姿を現し、颯爽と姿を消す彼の目的とは何なのか。

彼が〈虐殺の器官〉と、それを呼び覚ます〈虐殺の文法〉について語る様子を見ていると、読者自身も、自らの〈脳〉や〈意識〉といったものに対して漠然とした不安を感じるはずだ。

読む者の心を掻き乱しながら、しかし読む手を止めることができなくなる伊藤計劃氏の繊細な文章と骨太の物語は、著者の文章や言語に対する真摯な姿勢が窺える。

是非とも、一言一句読み飛ばすことなく満喫してほしい。

近未来ガジェットも盛り沢山

この新入鞘に機械部品はほとんど存在しない

SFというジャンルの魅力の1つが、作中に登場する近未来的なガジェットだろう。

古くは映画『ブレードランナー』(原作はフィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』)に登場した〈デッカードブラスター〉といった小型な武器から、映画『トータル・リコール(リメイク版)』(こちらも原作はフィリップ・K・ディック著(追憶売ります))に登場した巨大エレベーター〈ザ・フォール〉まで、その種類は大変豊富だ。

これらのガジェットは現実とかけ離れたSF世界観を、より明確なものとしてイメージするために非常に重要な要素だろう。

今作にも、そんな近未来ガジェットが大量に登場する。

主人公属する米軍の〈アメリカ情報軍・特殊部隊検索群i分遺隊〉がHALO降下作戦に使用する〈侵入鞘(イントルード・ポッド)〉や、角膜に貼り付けるナノマシン技術を用いたウェアラブルコンピュータ〈副現実(オルタナ)〉、兵器や機械のパーツに利用される〈人工筋肉〉を始め、数々のガジェットが登場し、物語の世界観をより確固たるものにしていく。

近未来の技術がどのように活躍するのかも、今作の大きな見所の1つだ。

また今作は2017年に、『Project Itoh』の一環としてアニメ映画化もされている。

小説を読んでから映画版を見てみると、更にガジェットたちの魅力を満喫できるかもしれない。

翻訳家・大森望氏による、詳細な分析と解説

小説の枠組は、国際軍事謀略サスペンス。

『虐殺器官』という作品は、その壮大なテーマを美しく描いているがゆえに、引用や暗喩も多い。

今作の最後には、翻訳家にして書評家でもある大森望氏が物語のテーマや引用の意図について、豊富な知識と鋭い視点から分析を行った〈解説〉が掲載されている。

彼の後書きは、作品のテーマが我々の生きる現実世界とも共有しているものだということを、読者に丹念に突きつけてくる。

ただ物語をフィクションとして楽しむだけでなく、物語と現実をリンクさせるものとして重要な役割を持った〈解説〉なので、本編を読み終わったからと本を閉じず、最後まで読み切ってほしい。

また〈解説〉の中では、今作の分析のために、他の様々な作品も例に挙げている。

新しく楽しめる作品を探すためにも、役に立つかもしれない。

まとめ

夭折の作家、伊藤計劃氏の第一長編である今作。

〈虐殺の器官〉という魅力的な設定を生み出しつつ、近未来ガジェットも豊富に登場しており、エンターテイメントとして見事な完成度を誇る作品だが、本作の魅力はそれだけではない。

戦争という壮大なテーマを繊細な一人称で描いたこの本は、単なるフィクション以上の力をもった骨太な作品だ。

また、ストーリーそのものは分かりやすく展開していくためSF小説の入門編としてもおすすめできる。

きっと、SFというジャンルの面白さを教えてくれるに違いない。

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