飲んだくれの農場主〈ジョーンズ〉を追い出した動物たち。
彼らは〈動物主義〉を掲げる共和国、〈動物農場〉を築き上げ、知力に優れたブタが大統領に選ばれた。
指導者となったブタは手に入れた権力を徐々に拡大していき…。
権力構造に対する痛烈な皮肉を含んだ、『1984年』と並ぶジョージ・オーウェルの風刺文学。
こんな人におすすめ!
- 政治に興味がある人
- 風刺文学が好きな人
- 『1984年』を読んだことがある人
あらすじ・内容紹介
決死の戦いで、のろくでなしの飲んだくれ農場主〈ジョーンズ〉を追い出した動物たち。
彼らは、〈すべての動物は平等である〉という理想を実現した共和国、〈動物農場〉を築く。
選挙によって、知力に優れたブタが大統領に選ばれた。
彼らは戒律を作り、国歌を定めることで結束を果たした。
更に、破壊された風車の立て直しを図り、動物たちはさらなる発展を遂げようとする。
ほぼすべての動物が真面目に働き、〈動物農場〉は円滑に機能していた。
しかし権力を握ったブタたちは、徐々に自らの特権を広げていこうとする。
富はブタに集中し、風車の立て直しは〈ブタ以外〉が行う過酷な義務となり、戒律は徐々にブタに都合のいいように改竄されていく…。
権力構造に対する痛烈な皮肉を寓話形式で描いた、『1984年』と並ぶジョージ・オーウェルの代表作。
『動物農場』の感想・特徴(ネタバレなし)
読み易い〈寓話形式〉
あらゆる動物は平等だ。
〈全体主義国家の恐怖〉という重厚なテーマを扱い、〈史上最高の文学100〉にも選ばれた小説、『1984年』。
それを見事に書き上げたジョージ・オーウェル氏の、もう1つの代表作が今作の『動物農場』だ。
『1984年』とは打って変わり、平易で読み易い文章で、動物たちの生活の様子が淡々と語られている今作。
動物が言語を話し、国を築き上げるというファンシーな世界観は、まるで童話や御伽噺のようだ。
しかし今作にも、権力構造に対する痛烈な皮肉や批判が込められている。
国を築いた動物たちのうち、大統領として権力を手に入れたブタが手にした権力を徐々に拡大していく様子は、非常に醜悪に描かれている。
また、対等であったその他の動物たちが徐々にブタに対して何も言えなくなっていく様子も、読んでいて気分が悪くなるだろう。
あらゆる権力がブタに集約されていく様子は、かつてとある国で起こった現象を彷彿とさせる。
平易な文章と寓話という形式により、『1984年』と比べて非常に読みやすくなっている今作。
しかし、その御伽話的な物語の描き方は、むしろ権力構造の醜さや悍ましさをより強調する役割を果たしている。
痛烈な皮肉が効いた寓話を、是非とも楽しんで欲しい。
徐々に崩れていく〈動物主義〉
すべての動物は平等である。だが一部の動物は他よりもっと平等である。
今作の大きな見所は、〈すべての動物は平等である〉という理想が、権力の集中により崩壊していく様子だろう。
農場主の〈ジョーンズ〉を追い出した際に打ち立てたこの理想は、最初は崇高なものであった。
そして、その理想を守るために〈七戒〉が定められた。
しかし権力を手にしたブタが、その特権を広げていこうとする最中で、理想は歪み、戒律は書き換えられていく。
また、戒律を理解しようとしなかったが故に徐々に不利な立場になっていく、〈ブタ以外〉の動物たちの様子にも注目だ。
善良な愚者と諦めた賢者、怠惰な者や勤勉な者。
様々な動物たちが、ブタの独裁を許してしまった原因を考えることは、きっと今の社会を考えるための糧ともなるだろう。
巻末にはジョージ・オーウェル氏の〈序文〉も
これが退屈でばかげた本であり、不面目な紙の無駄だと言うだろう。
今作の巻末には、著者であるジョージ・オーウェル氏自身が書いた〈序文〉が2つ掲載されている。
1つは自国用の序文、もう1つは〈ウクライナ語版〉用の序文だ。
自国用の序文である、〈報道の自由:『動物農場』序文案〉において、著者はジャーナリズムの在り方について語っている。
特に、公的な〈検閲〉よりも自主的な〈規制〉を危険視しており、当時のジャーナリズムや知識人に対して、厳しい指摘を行なっている。
また〈ウクライナ語への序文〉では、自らの半生を語ったのちに、『動物農場』を執筆した動機などを語っている。
どちらも、ジョージ・オーウェルという優れた作家の思想の、その一端に触れることができる名文だ。
本編だけでなく、是非ともこの2つの〈序文〉まで目を通してほしい。
まとめ
社会に対して鋭い視線を向けたジョージ・オーウェルの『1984年』と並ぶもう1つの代表作である本作。
寓話形式で非常に読み易い文章でありながら、その中には権力構造に対する痛烈な批判と皮肉が込められている(権力を握った動物が〈ブタ〉であるのも、皮肉の1つだろう)。
過去だけでなく、これからの社会を考える上でもきっと役に立つ今作は、是非とも多くの人に手に取って欲しい1冊だ。
ただし、今作の著者ジョージ・オーウェル氏は非常に鋭い視点を持った人物ではあるが、今作や『1984年』はあくまで物語であり、〈この世の真実を記した聖典〉などでは決してない。
重要なのはきっと、作品を読んで〈考える〉ことなのだ。
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