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『名もなき世界のエンドロール』あらすじと感想【ある欲望への2つの抵抗と一世一代の企み】

「勝手に死ねばいいのに」

そんな言葉を耳にすることがある。

例えば、線路への飛び降り自殺。誰かが死んでしまったせいで、乗らなければならなかった電車に遅れたとき、その鬱憤は「勝手に死ねばいいのに」という言葉に込められる。

大袈裟かもしれないが、この言葉には、社会で起きた悲劇や人ごとにしてはいけない出来事を「なかったことにしたい」という願いが込められている気がしてならない。

そして、この「なかったことにしたい」という欲望は現代社会の至るところにあると思う。「いじめ問題」は、その最たる例だろう。

これから紹介する『名も無き世界のエンドロール』は、そんな「なかったことにしたい」という欲望に2つの意味で抗う物語である。

先んじて結論をいえば、本書は傑作だ。それは間違いない。そして、先の「2つの意味」こそ本書の魅力だ。それをこれから解説しよう。

こんな人におすすめ!

  • 誰もが驚くような「企み」を味わいたい人
  • 一流のエンターテイメント作品が読みたい人
  • イジメなどを見て見ぬふりをしたことがある人

あらすじ・内容紹介

主人公のキダと友人のマコトは小学校時代からの同級生。「ドッキリスト」のマコトは「ビビリスト」のキダへ、いたずらを仕掛けてはからかうという関係でもある。

30歳になり、マコトはベンチャー企業の社長になった一方で、キダは難航した交渉事を円滑に進める交渉屋という仕事に就いていたが、2人の関係が変わることはなかった。

ある日マコトは、恋人であるリサへ向けた「プロポーズ大作戦」の決行をキダに伝え、2人は動き始める。

「1日あれば、世界は変わる」と豪語するマコトの思いはリサに届くのか。

しかし、10年以上の準備期間を要した「プロポーズ大作戦」には2人にとって決して「なかったこと」には出来ない切実な思いが込められていて──。

『名もなき世界のエンドロール』の感想・特徴(ネタバレなし)

私たちの「今」への抵抗

本書は「なかったことにしたい」という欲望に抗う物語だ。

そして、2つの「抗い」のうちの1つは、私たちが生活のなかで出会う「なかったことにしたい」という欲望への抵抗だ。

このことを説明する前に本書の内容について補足する必要がある。

本書の主人公・キダにはマコトの他にヨッチという親友がいる。ヨッチはキダとマコトが小学生のときに転校してきた女の子で、前の学校でイジメにあった過去を持っている。

本書には、ヨッチが自分の受けたイジメをキダとマコトに語るシーンがある。3人が高校生の頃の話だ。

「最後はさ、無いもの扱いされる。教室のあちこちにあるあたしの名前は油性ペンとかで完全に潰されて、机や椅子もどこかに持っていかれてさ。誰も話しかけてくれないし、教室には居場所がない」

ヨッチは「忘れられること」に対して恐怖心を抱いている。その背景には彼女が受けたイジメの経験があるのだ。

一方でキダはヨッチの受けたイジメについて「なかったこと」への欲望をみる。

関わった全員が、心の中に抱いている罪悪感を揉み消そうとして、ヨッチの存在を無視しようとする。ヨッチは「いなかった」ことになり、いじめは「なかった」ことになる

ヨッチの話を聞いたマコトは、彼女をイジメた人たちに会いに行く。

そしてヨッチのイジメに加担した人たちに「なかったこと」にさせないための「抗い」の言葉を放つ。

「人間てやつは、一度何かを決めて落ち着くと、もう考えることをやめちまう。それがどんなにおかしなことでも、間違ったことでもだ。それは間違ってるだろと言って、白い目で見られるのが怖いんだ」

一度でも「なかったことにしたい」場面に出くわしたことがある人であれば、キダの考えも、マコトの言葉も、心の奥深くに突き刺さると思う。

冒頭の自殺に対する言葉を考えてみても、キダの考えは当てはまるし、マコトの言葉には耳が痛くなる。自殺者を追い込んだ「社会」を作っているのは、他ならぬ私たちひとり一人なのだから。

だからこそ、苦し紛れに「僕は/私は、悪くない」と言いたくなるのだ。

だが、キダは「白い目でみられるのが怖いんだ」と言ったあと「そして、大体同じことを言う」とイジメの加担者にこう続ける。

「俺が悪いんじゃねえ、とかさ」

以上が、本書にある「抗い」──私たちの生活のなかにある「なかったことにしたい」という欲望への抵抗だ。

このことこそ「プロポーズ大作戦」の肝になる。「プロポーズ大作戦」とは「なかったことにしたい」ことに抵抗する作戦でもあるのだ。

しかし、これだけではない。本書の魅力はもう1つの「抗い」の形を描いていることにもあるだ。

「完璧な人間」への抵抗

例えば「なかったことにしたい」という欲望に「社会」が覆われてしまったと考えてみよう。

そんな「社会」のことをわかりやすくいえば「見たくないものを見なくて済む」社会ということになるだろう。

そこで求められるのは「完璧な人間」だ。誰にも迷惑や不快な思いをさせない、決められたルールをきちんと守る「完璧な人間」だ。

突飛な考えだろうか。しかし、これは「なかったことにしたい」という欲望の延長にある社会を考えただけだ。

なぜ、このような話をするのか。それは「なかったことにしたい」という欲望の先にある「社会」、そこで求められる「完璧な人間」というイメージに本書は抗っているからだ。

本書には、交渉屋という仕事に就いているキダが小野瀬(おのせ)という男から、小野瀬自身の戸籍や経歴を買い取ろうとする場面がある。

小野瀬は入社式にある「ミス」をし、それ以来「僕の世界は終わった」と引きこもり生活を送っている人物だ。経歴だけみればエリートである小野瀬のことを「完璧主義」とキダは言うが、そんなキダに対し小野瀬は「完璧主義者ってのはさ、結局は欠陥品だ」と反論する。

「人間なんて元々不完全で、完璧なんてものはこの世にないんだ。それなのに、理想どおりのきれいな人生じゃないと我慢できない。完璧に、完璧に、と追求してさ、不完全さを容認できないせいで、結局は完璧じゃなくなるんだ」

このことから「なかったことにしたい」という欲望の先に求められる「完璧な人間」への抵抗が本書にはあると私は思う。

それこそ、本書の最大の魅力であり、物語の核であるため、詳細をここで書くわけにはいかない。気になる方は本書を読むことを強く勧める。

さて、ここまで解説してきた2つの抵抗の話をまとめよう。

1つ目は、私たちの生活のなかで直面する出来事について「なかったことにしたい」と欲してしまうことへの「抗い」。
もう1つが「なかったことにしたい」という欲望の先にある未来──「完璧な人間」への「抗い」。

これら2つの「抗い」を本書は生き生きと描いている。

とはいえ、このような「抗い」という重いテーマを込めてもなお、エンターテイメント作品として誰でも楽しめる物語になっていることは強調しておきたい。

では最後に次の章で、本書をより面白く読むための補助線をひいていこうと思う。

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本書をさらに面白く読むために

歴史ドラマや歴史映画について「史実を知っていたらもっと楽しいだろう」という声をよく耳にする。

この章ではそれに倣って、より本書を面白く読むために、現実社会の出来事とエンタメ作品を整理していきたいと思う。

まず押さえたいのが本書の初出が2012年12月という点だ。1ヶ月後の翌年2013年には漫画『進撃の巨人』がアニメ化されている。

『進撃の巨人』といえば、巨人に支配された世界において巨大な壁のなかに安住していた人類が、壁の崩壊を契機に巨人との争いを繰り広げる物語だ。私は、この「壁」に本書との類似性をみる。

繰り返すが、本書の主題は「なかったことにしたい」という欲望への抵抗だ。一方で『進撃の巨人』の主人公・エレンも「なかったことにしたい」という欲望に抗っているように私にはみえる。

壁が崩壊する前、エレンは壁を警備している兵士に対して、巨人が壁を壊して街に侵入してきたときどう対応するのか、と詰め寄るシーンがある。質問された兵士は「100年間1度もない」と応える。

『進撃の巨人』の「壁」を「なかったことにしたい」という欲望の形としてみるならば、エレンの姿勢こそ、本書にも通じる「なかったことにしたい」という欲望への抵抗、あるいは否定だといえる。

しかし、現実社会では、「なかったことにしたい」という欲望は強められたように思う。

前年2011年には「フィルターバブル」という言葉がイーライ・パリサーの『閉じこもるインターネット』で提唱された。

フィルターバブルとは、Googleなどの検索エンジンが履歴などから個人の趣味嗜好を把握し、その人にとって好ましい検索結果だけを表示する機能のことだ。

このことにイーライ・パリサーは次のような警鐘を鳴らす。

「フィルターバブルに包まれて暮らすと、異なるものとの接触から生まれる精神の柔軟性やオープン性が損なわれるおそれがある」

『進撃の巨人』にも含まれている本書のテーマ「なかったことにしたい」という欲望への抵抗は、「フィルターバブル」のような変化と対応しているように思われる。

このような現実を踏まえたうえで本書を読むことで、登場人物たちの行動や台詞1つ1つに、今を生きている私たちに呼びかけているようなリアリティが生まれるはずだ。このことにより本書の面白さが増大すると、ここで約束しよう。

まとめ

単なる勧善懲悪ではなく、社会のナイーブな部分を物語の核としているのが本書の秀逸な点だ。

おそらく、一流のエンターテイメントというのはそういうものなのだろう。本書を読み終え、私はそのことを実感した。

本書には「1日あれば、世界は変わる」という台詞が頻出する。確かにそのとおりだと思ったが、少し修正を加えたい。

1冊あれば、世界は変わる

本を読むことで、これまでみてきた世界の姿が変わる。その可能性を本書は充分に秘めている。

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