正義の在り処を問う戦いは続く。
社会のシステムの裏側に存在する「神の座」を求める狐。
そしてそれを追う猟犬。
戦いは更に激しさを増してゆく。
目次
こんな人におすすめ!
- SFが好きな人
- キャラ小説が好きな人
- PSYCHO-PASS 3〈A〉を読み終えた人
あらすじ・内容紹介
シビュラシステムによる託宣が人生の指標となった、近未来の日本。
長らく続いていた鎖国政策が終わりを迎え、シビュラ社会はこれまでにない変化に晒されていた。
海外からの避難民である「入国者」の扱いを巡り、国民の反応は大きく2分された。
そんな中で始まる東京都知事選挙。
当選の筆頭候補は2人。
「隣人政策」を謳い、移民を非推進して現在の日本国民を重視する肯定党が支援するアイドル政治家、小宮カリナ(こみや−)。
色相のクリアさを根拠に、移民を推進するエリート主義者、薬師寺康介(やくしじ こうすけ)。
移民問題を火種として激化する選挙の裏で、更なる暗躍を続ける狐。
果たして公安局刑事課1係は、狐の罠を掻い潜り、事件の真相に辿り着けるのか。
そして、シビュラ社会の裏で蠢く謎の存在「ビフロスト」の真の目的とは?
謎が謎を呼ぶ、『PSYCHO-PASS 3』のノベライズ第2弾!
『PSYCHO‐PASSサイコパス3〈B〉』の感想・特徴(ネタバレなし)
選挙の裏で蠢く影
輸出用の兵士を使ったな?
前巻『PSYCHO-PASS 3〈A〉』での事件は、サブプライムローンのロジックを用いた知能犯による事件だったが、今回は更に暴力的な進化を遂げている。
東京都知事選を控えた両候補者の陣営は、どちらも襲撃に遭う。
武器を持ち、暴力を持って何者かの意思を叶えようという兵士たちの襲来。
それに立ち向かう公安局刑事課1係の面々の活躍は、本書の大きな見どころの1つだ。
慎導灼(しんどう あらた)と炯・ミハエル・イグナトフ(けい−)率いる刑事課1係は、事件に潜んだ謎と、襲撃犯の両名を相手にするという、これまでにない過酷な戦いを余儀なくされてゆく。
そして、事件の影に潜む「セカンド・インスペクター」、榎宮春木(えのみや はるき)。
かつてはプロアスリートとして活躍し、現在はシビュラから見捨てられた街「廃棄区画」の帝王として振る舞う彼女の真の目的とは?
シンプル故に分かり易い暴力的な事件と、その裏に潜んだ複雑怪奇な謎が絡まり合い、物語を魅力的に仕上げてゆく。
また、主人公である慎導灼が今作で披露するパルクールは、映像であってこそ映えるようなシーンにも思える。
しかし、著者の圧倒的な筆力によって、そういったアクションシーンすらも緊迫感のある仕上がりになっている。
是非とも着目して読んでみて欲しい。
ビフロストの謎とコングレスマン
ビフロストという危うき橋を渡れる者はますます限られていく
前巻から登場し、数多の「偶発的な事故」を組み上げていくことによって対象を死に至らしめる「ファースト・インスペクター」、梓澤廣一(あずさわ こういち)。
今回から登場した帝王にして「セカンド・インスペクター」、榎宮春木。
彼らの上位の存在として振る舞うコングレスマンもまた、本書の魅力を高める大きな要因だ。
シビュラと非常に似通った挙動をするシステム、ビフロスト。
そして、ビフロストを中心に、まるでゲームの駒のようにインスペクターや公安局、更には一般市民までも操っていく「コングレスマン」たる法斑静火(ほむら しずか)、代銀遙熙(しろがね はるき)、裁恩寺莢子(さいおんじ きょうこ)。
彼らは自らの資金を駒に掛け、社会の動きを予測してゆく。
本書では更に、彼らの心情や過去を掘り下げてゆく。
白銀遙熙と裁恩寺莢子のダイアローグ、法斑静火のモノローグ。
全てをシビュラが管理する社会において、シビュラの管理から逃れ万能の神のように振る舞う彼らが、いったいどの様な目的を持ってゲームに臨んでいるのか。
そして、万能の神たる「コングレスマン」の座を狙う狐、梓澤廣一。
彼の本当の目的は何なのか。
彼らの目的や感情が描かれることで、彼らを覆う謎のベールが少しずつ剥がれてゆくのも、本書の見どころだ。
オリジナルのアニメ版では全編を通して感情の動きを一切見せなかった法斑静火の内面描写は、アニメを全て見終わった読者にも必読のシーンだろう。
内面描写ですら中々真意を見せないが、アニメでは描かれなかったちょっとした過去からは、きっと彼の人間性の一部分は感じ取れるのではないだろうか。
伝説の女刑事の活躍と霜月課長の奮闘
―元執行官から社会復帰した奇跡の女性
続編が作られ続ける作品は、得てしてキャラクターの刷新が行われることが多々ある。
本作も、無印の『PSYCHO-PASS』や第2期『PSYCHO-PASS 2』から主人公が交代し、登場人物が刷新された作品だ。
そういった作品の大きな楽しみの1つは、過去作のキャラクターの再登場や活躍だろう。
本書でも、第1期・第2期と活躍したクールビューティー、六合塚弥生(くにづか やよい)が登場し、刑事課1係と共闘するという熱い展開が待っている。
過去作では執行官として活躍していた六合塚弥生は、本書では犯罪係数が下がりフリージャーナリストとして活躍。
外部オブザーバーとして、公安局刑事課1係と共に事件の捜査に当たる。
そして長期に渡る作品のもう1つの楽しみが、キャラクターの成長だ。
第1期の最終話で登場した監視官、霜月美佳(しもつき みか)は第2期と劇場版での事件を経て公安局刑事課長に就任。
見事な政治手腕と怒声を披露する。
彼女らの活躍と奮闘もまた、本作の楽しみの1つである。
特に、アニメ第2期の『PSYCHO-PASS 2』では常守朱(つねもり あかね)の逆張りのような行動をとり続け、もはや大戦犯として視聴者から(多分)ヘイトを集めまくっていたであろう霜月美佳の成長っぷりには、目を見張るものがある。
主人公2人の無軌道っぷりに怒鳴り散らしながらも、裏から手を回して彼らをサポートする彼女の姿に驚いた視聴者も多いのではなかろうか。
有能な苦労人と化した彼女の、部下に対する心情描写もコミカルに描かれている。
アニメ第2期で彼女を好きになれなかった視聴者も、きっと本作を読めば彼女への見方が変わるだろう。
まとめ
ビフロストやインスペクターについて、そして主人公たちを襲った過去の事件のあらましが少しずつ語られる本作。
1つの謎が明らかになる度に新たな謎が生まれ、読者を飽きさせない手腕は見事の一言だ。ますます過激になっていく事件の数々は、これから主人公たちに訪れる苦難が更に厳しいものになっていくことを暗示するようだ。
彼らがどのような戦いを経て、どのような決断をするのか。
それは、『PSYCHO-PASS3〈C〉』で描かれる。
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