近未来。
自由経済のシステムの限界から各国に紛争が吹き荒れる中、厚労省が管理する社会支援システム〈シビュラシステム〉によって、日本は唯一の〈安全な国〉となった。
更にシビュラは、人が罪を犯す確率〈犯罪係数〉を割り出し、事前に危険分子を社会から取り除くことにも成功した。
しかし、そんな世界ですら事件は起こる。
公安局刑事課は、特殊拳銃〈ドミネーター〉を手に今日も犯罪者を追う。
アニメ『PSYCHO-PASS』のキーワード、〈標本事件〉の詳細が明かされる、物語の前日譚!
目次
こんな人におすすめ!
- 刑事物が好きな人
- キャラ小説が好きな人
- PSYCHO-PASSが好きな人
あらすじ・内容紹介
近未来の日本。
厚生省が管轄する包括的社会福祉システム〈シビュラシステム〉により、日本は世界で唯一の〈安全な国〉となった。
人々は自らの人生における重要な意思決定をシビュラに任せ、社会はシステムなしでは回らないほどになっていた。
更にシビュラは、犯罪を犯す確率〈犯罪係数〉を割り出し、規定値を超えた者を〈潜在犯〉として勾留、もしくは殺処分することで、社会の安全を保っていた。
しかし、そんな社会の中でも犯罪は起こる。
公安局刑事課に所属するキャリアのエリート〈監視官〉と、犯罪者に近いが故に犯罪者を追うものとして適性を受けた潜在犯〈執行官〉は、特殊拳銃〈ドミネーター〉を手に犯人を追う。
刑事課1係に所属する監視官、〈狡噛慎也(こうがみ しんや)〉と〈宜野座伸元(ぎのざ のぶちか)〉は、刑事課の先輩であり、部下でもある執行官〈佐々山光留(ささやま みつる)〉に刑事としてのイロハを叩き込まれながら、1係内でそれなりに良好な関係性を気付きつつあった。
しかし、死体をプラスチック化して醜悪なオブジェを作り、それを街に展示するというグロテスクな犯罪、通称〈標本事件〉の相次ぐ発生が、そんな彼らの関係性に暗雲を落としていく…。
アニメ『PSYCHO-PASS』の前日譚にして、キーワードでもあった〈標本事件〉の真相に迫る、シリーズを繋ぐミッシングリンク!
『PSYCHO-PASS0 名前のない怪物』の感想・特徴(ネタバレなし)
初めて描かれる、執行官〈佐々山光留〉の活躍と、犯罪者〈藤間幸三郎〉の内面
俺は女好きが高じて潜在犯落ちした男だぞ
アニメ第1期『PSYCHO-PASS』において、重要な意味を持つ〈標本事件〉。
この事件で殉職し、狡噛の執行官落ちの原因ともなった執行官、佐々山光留。
狡噛が〈愛すべきクソヤローだった〉と語る彼の活躍は、アニメではわずかに描かれた程度であった。
しかし、今作ではそんな佐々山の活躍が存分に堪能できる。
切れ者の執行官としての活躍はもとより、酒好きで女好きで、さらには麻雀でイカサマを責められてしらばっくれるなど、文字通りの〈生きた〉彼の姿が楽しめるのは、この作品ならではだろう。
また、狡噛との信頼関係を構築していく様子や、真面目一辺倒な宜野座を素直に〈可愛い後輩〉と思っている様子など、佐々山光留というキャラクターの内面まで掘り下げているのは、現状ではこの作品だけだ。
また、本作では佐々山が潜在犯落ちしたきっかけも語られる。
そのきっかけは彼の行動原理にも繋がっており、1人の人間としての魅力を更に掻き立てている。
アニメ本編では〈殉職した執行官〉としての役割が殆どだった彼の、刑事としての活躍と、人としての輝きを存分に堪能して欲しい。
また、同じく〈標本事件〉に関わる重要な存在として、犯人である〈藤間幸三郎(とうま こうさぶろう)〉の、犯罪に至った動機や人間性、行動原理などの詳細も判明する。
彼もまたアニメ『PSYCHO-PASS』での登場は一瞬でしかなかった。
教師としての振る舞い、そしてアニメ『PSYCHO-PASS』のラスボスである、〈槙島聖護(まきしま しょうご)〉との関わり、さらには槙島と共通する〈免罪体質者〉という特性。
謎に包まれていた、〈藤間幸三郎〉という人間の生身の姿を見ることができるのも、本作の大きな特徴だろう。
是非とも、この残酷な物語を心ゆくまで味わっていただきたい。
執行官〈狡噛慎也〉の誕生
こいつが、『マキシマ』なのか
アニメ第1期『PSYCHO-PASS』では、第1話時点で既に執行官落ちしていた狡噛慎也。
今作では、彼が監視官から執行官へと落ちていく理由を丹念に組み上げていく。
作中の多くの描写は、佐々山と狡噛が、〈執行官と監視官〉という立場の違いを飲み込んだ上で、互いに信頼関係を構築していく様子がふんだんに描かれている。
立場の違いや価値観の違い、持っているものの違いをお互いが意識しながらも、それらを全て飲み込んで互いに歩み寄っていく2人の関係は、しかし佐々山の死によって終わりを告げる。
精緻に積み上げられた信頼関係構築の描写があるからこそ、狡噛の執行官落ちへの説得力は非常に高い。
アニメ第1期『PSYCHO-PASS』で、狡噛が復讐にこだわり続ける理由も、本書を読めばきっとより理解が深まるだろう。
執行官と監視官の日常
佐々山……。それはない。それはない、佐々山
最後に悲劇が待ち受けていることが自明の作品であるが故、今作の中に漂う空気感は非常に暗く、重い。
しかし、ただ暗い描写が続くばかりの作品では、決してない。
麻雀をしながら駄弁り続ける執行官たちの会話は実に軽妙で、重苦しい空気の中の清涼剤の役割を果たしている。
また、おまけとしてついてくる短編『星の数と悲劇の数についての考察』では、1つのクリームパンを巡って佐々山、狡噛、宜野座の3人が壮絶な諍いを繰り広げるという、非常にコミカルな様子が描かれている。
いつになく真剣な様子でくだらない争いを繰り広げる彼らの描写は、最後まで読み切って憂鬱になった読者の心を、少しだけ救ってくれるはずだ。
まとめ
〈標本事件〉は、アニメ第1期『PSYCHO-PASS』の中で非常に重要な意味を持つにも関わらず、過去として軽く語られる程度の扱いであった。
本作はそんな〈標本事件〉に光を当て、関わったキャラクターたちの様子を非常に美しく、残酷に描いていく。
アニメ『PSYCHO-PASS』を見ていた人であれば、一度は読んでみても損はない作品だろう。
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