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『三体』あらすじと感想【圧倒的なスケールで描くファーストコンタクト中華SF】

『三体』あらすじと感想【圧倒的なスケールで描くファーストコンタクト中華SF】

夜空を見上げたとき、宇宙人の存在をふと考える。

地球以外に命のある何かはいるのだろうか。

もしかして、向こうもそう思っているのだろうか。

もし、その生命体がこちらにコンタクトを取ってきたら……?

こんな人におすすめ!

  • ハードSFが好きな人
  • 宇宙人の存在を信じている人
  • 壮大なスケールの物語が好きな人

あらすじ・内容紹介

1967年、中国。

毛沢東が始めた文革(文化大革命)は、毛沢東自身も制御できないほどの盛り上がりを見せていた。

その文革に巻き込まれた1人の少女。

悲劇しか生むことがなかったこの革命は、少女のこの先の人生を大きく変えることになってしまった。

時は経ち、現代。

汪淼(おう・びょう)は、とある作戦会議へと招集される。

横柄な態度の警察官、世界から集められた幹部たち。

計画の目的を知らされず、汪淼は「科学フロンティア」と呼ばれる組織への潜入を頼まれる。

一度は拒む汪淼だったが、煽られてついにその計画に加担してしまう。

彼らの真意とは何なのか?

謎のゲーム「三体」、解のない天文力学の「三体問題」、そして「三体協会」とは何なのか?

現代中国でもっともヒットした中華SF3部作が日本に降臨!

『三体』の感想・特徴(ネタバレなし)

少女の絶望が世界を揺るがす

ことの始まりは「文革」(文化大革命)からだ。

文革とは、毛沢東が復権するために起こした大規模な権力闘争のこと。

この革命の名目は、資本主義の批判、新たな社会主義の創生。

紅衛兵(こうえいへい)と呼ばれる学生たちが、毛沢東すら制御できず暴走し、様々な知識人や共産党幹部たちが過酷な糾弾や迫害によって、多数の死者や自殺者が出た。

 

葉・文潔(よう・ぶんけつ)の父親、葉・哲泰(よう・てつたい)も、その迫害の対象の1人だった。

彼女の父親は理論物理学者で、その考えは反動的(歴史の流れに逆行すること。保守的でかたくななこと)とされ、日々、厳しい糾弾にさらされていた。

しかし、葉・哲泰の態度はかたくななまま。

ついに、運命の日がやって来る。

この物理学教授は、檀上で立つと、きっぱり言った。

「もっと重い十字架を背負わせてみろ」

彼は紅衛兵に捕らえられ、太い鉄筋を溶接した帽子をかぶらされていた。

しかし、凛としていた。

そして、妻が、娘が、見ている中で、彼は……。

葉・文潔は声が嗄れるまで、力いっぱい泣き叫んだ。

だがその声は、群衆が叫ぶスローガンと声援の渦に呑まれた。

 

「正義」というのはときに暴走する。

どちらも正しいと思っているから衝突し、戦争が起きる。

シャーロック・ホームズは言った、「人は自分の理解できないものを軽蔑する」と。

文革をのちに中国自身が「重大な災厄と逆行をもたらした、完全な失敗だった」と認める採択をしている。

何が間違っていて、何が正しかったのか。

当時はそれが考えられることなく、蛮行が行われた。

文潔の父親の命を奪った紅衛兵たちも、きっと時代の流れに、時代の雰囲気に呑まれただけのことで、そこになんのカタルシスも見出してなかったと思うのだ。

 

鳥が群れるように、人間は群衆になると途端に力をつける。

「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」なんてふざけたスローガンがあるように、1人の力は小さいけれど、それがどんどん増え、たとえその行為がやってはいけないことと分かっていても「みんながやっているから」という心理が働く。

「罰せられるのは自分だけじゃない」という思いは大きな力を生み、雰囲気に流される人間の思考は停止したまま付随してしまう。

 

ガイガーカウンターは、一定以上の放射線にさらされると、なんの反応も示さず、目盛りはゼロを示したままになる。いまの文潔は、まさにそのガイガーカウンターだった。

文革という出来事は、文潔にとって「人類」に絶望する種を植え付けた。

それは、彼女の人生から悲しみというものが消えた瞬間でもあった。

加えて、文潔が世界を揺るがすスイッチを押す引き金にもなったのだ。

受け入れられる存在か?

「そう、人類の歴史全体が幸運だった。石器時代から現在まで、本物の危機は一度も訪れなかった。われわれは運がよかった。しかし、幸運にはいつか終わりが来る。はっきり言えば、もう終わってしまったのです。われわれは、覚悟しなければならない。」

陸軍少将、常・偉思(じょう・いし)の言葉である。

私たちは今、何を脅威として見ているのだろう。

地球温暖化?いつか起こる世界戦争?

自然災害?目下の脅威は、新型コロナウイルスという感じだろうか。

 

この物語の中での脅威は「地球外生命体」だ。

けれど、そんな夢物語のような存在が脅威になるだなんて、考えたことがあるだろうか。

例えばUFOが突如現れて、「今から地球を侵略します」と言われて、突然ビルが破壊され、人々が虐殺され、何者かに地球が侵略されることを想定している国がこの世界にあるなんて、ちょっと考えられない。

そういう意味では、常・偉思の言っていることはどこまでも正しく、私たち人類は単純に平和ボケしてしまっているのかもしれない。

 

第2部では時代が現代に変わり、中心となる人物も変わる。

ナノマテリアルの開発者、汪・淼だ。

彼は世界規模の作戦に関わることで、「三体協会」という宗教とも、悪の組織とも、科学に対する反逆集団ともとれる協会の陰謀に巻き込まれていく。

第2部のポイントは2つある。

「ゴースト・カウント」と「三体協会」だ。

汪淼にしか見えない「ゴースト・カウント」というものが現れる。

確実に減っていく、カウント。

汪淼は思い当たるふしがあり、「科学フロンティア」のとある女性に連絡をし、会うのだが、彼女から冷酷無比な宣告を受ける。

余命宣告ではないのだが、ある意味もっと残酷な宣告、加えて、汪淼にはどうしようもない、そしてカウントダウンの真意は明かされないままなので、しこりは残るし、恐怖は続くしなので、かなり精神的にまいってしまう。

 

最重要キーワードは「三体協会」だ。

あなたは地球のほかに生命体がいると思っているだろうか?

宇宙人の存在を信じているだろうか?

まさに、そんな問いの答えが「三体協会」にある。

3つの太陽を持つ異星の存在と、三体人と呼ばれる特殊な生命体。

私たちは突如現れた異星人を受け入れることができるだろうか。

「三体協会」はそんな異星と異星人を現実のものにする。

ただ、恐ろしいのは、その理念である。

「三体協会」の総帥は叫ぶ。

「人類の専制を打倒せよ!」

「専制」とは独断で思いのまま事を決するという意味。

つまり「この先、人類が自己中心的に振る舞うことを許さない」ということであり、そのためには異星人「三体人」が必要なのだ。

この恐怖の意味が分かっていただけるだろうか。

何よりも恐ろしいのは、「人類とは異なる存在」の受け入れを拒否した、私たち人間の末路である。

史・強という人物

「三体」を語る上で外せないのが、史・強(し・きょう)、通称・大史(ダーシー)と呼ばれる警察官の存在である。

正直、登場シーンだけ読むと、ただのいけ好かないタバコ臭いおっさんなんだけど、ページをめくり、史・強の存在が物語の重要ポストを占めてくると、俄然かっこよく見えてくるから不思議だ。

汪・淼が見た史・強の容姿はこんな感じである。

図体がでかく、いかつい顔つきで、汚いレザージャケット姿。全身から煙草のにおいがするうえ、話し方が乱暴で、しかも声が大きい。

私も最初「史・強って何様?」という感じを受けた。

しかし、物語が進むごとに、史・強の存在がいかにありがたいか分かってくる。

(しかし、そう思っても史・強の登場シーンは何度読んでも不愉快なのだけど)

汪・淼が精神的なピンチになったときは颯爽と現れ、

「あんたの問題はわかりすぎることだな……。まあいい、飯でも食いに行こうぜ」

と気軽に誘ってくれる。

そして、史・強のこの言葉が私はとても好きだ。

「いまのあんたは、まず二本の足でしっかり立って、倒れないことがだいじだ。他のことなんかそれからだ。」

目の前が真っ暗になったとき、史・強のような人がそばにいてくれたらどんなに心強いだろう。

彼は職業に忠実だけれど、媚びたりしない。

自分で昇進とは無縁と言っていた。

軍からの叩き上げで、酸いも甘いも噛み分けてきた存在なのだ。

彼がすごいのは、

「まさか本物のくそエイリアンが関わっているなんて、おれは思いも知らなかったよ!」

と言っておきながら、その「くそエイリアン」に対する作戦をすぐに立てる。

「地球人を虫けら扱いする三体人は、どうやらひとつ事実をわすれちまってるらしい。すなわち、虫けらはいままで一度も敗北したことがない事実をな」

史・強がいれば、どんな困難も乗り越えられる気がするのだ。

まとめ

私は本書以上のSFを読んだことがないと言っても過言ではない。

壮大なスケールで描かれる「現実にあり得るかもしれない」SFは、科学が発達した時代、あながち夢物語とも言えないから、興奮と同時に恐怖も感じるかもしれない。

この先、地球人と三体人はどうなるのだろう。

ファーストコンタクトのSFとしては、一大スペクタクルな物語の先行きを、ぜひとも見届けたいと思った。

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