SF文庫最大のヒット作となっている本書は、1977年のジェイムズ・P・ホーガンによるデビュー作である。
人類の起源、宇宙の謎をさまざまな分野の専門家が解き明かしていく壮大なSFミステリー。
果たして各分野の専門家達は、その謎を解くことが出来るのだろうか?!
こんな人におすすめ!
- SFが好きな人
- ミステリーが好きな人
- 分析することが好きな人
- 歴史のロマンを感じたい人
あらすじ・内容紹介
月面で人間の遺骸が発見され、その遺骸が今の時代の人間ではないことが発覚する。
ではこの遺骸は一体何者なのか?
それを探るために各所から専門家が集められる。
主人公のハントもそのうちの1人で、ハントは調査のために使われる透過撮影が出来るトライマグニスコープの開発者であった。
遺骸はチャーリーと名付けられ、所持品や宇宙服、さまざまなものから生存していた年代が割り出され、どのようにしてそこにいて、何があったのかを専門家が分析し、議論を交わして事実を検証していく。
チャーリーが5万年前に死亡していたことが分かり、研究や議論がさく裂していく中、ハントは中立的な立場から全体を統一し研究を進めるのに一躍買うこととなる。
事態は複雑で、そしてロマンに溢れたものであった。
『星を継ぐもの』の感想・特徴(ネタバレなし)
ダンチェッカーとの出会い
ハントは研究を進めていく中で自分の考えとは少し違う、ダンチェッカー教授という人物に出会う。
ダンチェッカーの唱える理論にいつも疑問を抱いていたハントは、ある時誰も反論できない場面できっぱりと自分の意見を言い、チャーリーについての見解に新しい風を吹き込む。
“とはいえ、ダンチェッカーの学会における輝かしい業績は当代屈指であることも知らないわけではなかった。”
真実を明らかにしていく上で意見が分かれていくことは当たり前のようにあるが、この場合かなり強気なダンチェッカーの意見と反対の声をあげられるのはハントしかいなかったのだろう。
ハントには真実を明らかにするための知識と探求心、そして勇気があった。
そしてダンチェッカーもまた、自分の研究と検証結果について諦めない探求心があるのでここで折れてしまうわけではなかった。
宇宙で発見したものを分析していくという、まるで自分の世界とは全く違った世界の話に常にワクワクし、専門家たちのやり取りのカッコよさに一気にSFの世界へと引き込まれていく。
チャーリー発見から組織の発足まで
チャーリー発見後、その謎を解き明かすために組織が発足されることとなった。
初めは組織に参加していなかったハントもまた、この組織に参加することとなる。
どのような立場で参加していくのかは是非本書を読んで、知ってもらいたいところだ。
人間にとって大発見となる事件であるが故、この組織の人選はかなり重要になってくる。
それをまとめたのがコールドウェルという人物であり、この人物は人を見抜く力と先を読む力に長けている。
コールドウェルによる専門家をまとめる力と行動力が、謎解きのスピードを上げていく。
チャーリーの残した日記の解読に成功し、解読された内容の情報もこの組織に共有されていく。
かつてこんなことは考えたこともない。工場や鉱山や軍隊で暮らすばかりではない、もっと意味のある生き方はきっとあるはずだ。それがどんなことか、自分には分からない。われわれはそれ以外の生き方を知らずに過ごしたのだ。しかし、この宇宙のどこかに、温かく、色と光に満ちた世界があるならば、われわれがして来たことから、何か意味のある結果が生まれるはずなのだ
5万年前に生きた人が、未来にこんなにも希望を抱いていたと知ったら、専門家たちも自分の知的好奇心でだけ研究していくのでなく、今を生きる何か責任のようなものを感じながら分析していったのではないかと思う。
これこそ、壮大な歴史のロマンだなと私は感じ、この組織が解明していく事実が出てくるたびに自分もその組織の一員になったかのように嬉しくなった。
地球を抜け出して
後半になると物語は地球を実際に抜け出していく。
それぞれの専門分野を活かして地球で研究し議論していた専門家達は、数名が実際に月へ行くこととなる。
その数名の中にハントとダンチェッカーが含まれている。
意見が違えど協力し調査してきた2人は、地球を離れてどのような感覚になったのか。
真実を知るためには、感情に流されずに客観的に考える力が必要とされるが、チャーリーが最期、どのような気持ちで過ごしたかを考えると各分野の専門家も熱くならずにはいられなかったのではないだろうかと思う。
そして、何かを探るとき人は自分の固定観念や自分の見たいように見るのではなく、推測されることについて証拠を掴みながら実証していかなくてはならない。
ここの難しさにみな苦労しながらも、真実の光が見えてくる。
ハントやダンチェッカーの知的好奇心に刺激され、私も宇宙に思いを馳せながら読み進めたが、実際に宇宙に行くシーンは映画化されてほしいと思うくらいワクワクした。
まとめ
最初の50ページは少し難しく感じるかもしれないが、事態の分析をする展開になってくる50ページ過ぎからどんどん面白くなってくるので諦めずに読んでいただきたい。
実際のアクションシーンなど無いものの、5万年前に何があったか過程し検証していく中で、回想的にSF特有のアクションシーンを想像することが出来るのも面白いところである。
SFでありながらミステリーであり、推理していく様や人の想いが淡々とまるでノンフィクションかのように書かれて話が進んでいくのだが、最後に味わえる感動はやはり、これぞSF!というものなので、ぜひ最後まで読んでみてほしい。
本書だけでも十分楽しめるが、他に続編も4冊あるので今回読んでみて気になった方はそちらも楽しむことが出来るだろう。
デビュー作とは思えない内容の濃さ、そして1人の人間が書いたとは思えないほどの知識量、設定の面白さ、どれをとってもSF好きは1度読むべき作品であること間違いなしである。
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