夜見山北中学校の〈三年三組〉。
このクラスでは2〜3年に一度、〈災厄〉が訪れる。
25年前、とある事件をきっかけに始まったとされるこの〈災厄〉は、あらゆる手段をもって関係者に襲いくる。
クラスに紛れ込んだ〈死者〉は誰か?
〈災厄〉を止める術はあるのか?
転校先の〈榊原恒一(さかきばら こういち)〉は、迫りくる〈災厄〉から逃れるために奔走する。
死の恐怖に塗れた、最後の中学校生活が幕を開ける…!
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
- サスペンス小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
療養のため、母方の実家に越してきた中学3年生、〈榊原恒一〉。
転校先は、夜見山北中学校の三年三組。
転校したての恒一は、クラス全体に漂う緊張感に違和感を覚えながらも、不思議な存在感を放つ少女〈見崎鳴(みさき めい)〉に惹かれていく。
しかしクラスの面々は、見崎の存在を徹底的に無視しており、恒一が見崎と関わろうとする度に怯えた様子を見せる。
更に、彼と見崎の接触を阻もうとする動きすら見せるようになる。
クラスへの疑惑がいよいよ深まる中で、1人のクラスメイトが凄惨な死を遂げた。
それを機に、恒一は三年三組が直面している〈災厄〉の恐怖を実感することになる。
25年前に起こった、とある事件。
それを機に、2〜3年に1度、三年三組には生徒が1人増えること。
〈増えた生徒〉は過去の〈災厄〉で死んだうちの誰かだが、記憶や記録の改竄により誰も気付けないこと。
それが起こった年には、クラスの関係者やその家族が連続して死に至ること。
そしてその〈災厄〉を防ぐためには、クラスの1人を〈いないもの〉として扱い、人数の帳尻を合わせなければならないこと。
三年三組が直面している事態を知った恒一は、クラスメイトの〈勅使河原直哉(てしがわらなおや)〉や〈望月優矢(もちづき ゆうや)〉、〈風見智彦(かざみ ともひこ)〉、そして〈見崎鳴〉と共に、〈災厄〉を止める手段を探して奔走する…。
新本格ミステリー作家が描く、戦慄の青春ホラーミステリー!
『Another』の感想・特徴(ネタバレなし)
少年少女に迫る、〈災厄〉の恐怖
〈死者〉は、誰−?
今作における最重要の要素は、夜見山北中学校の三年三組に迫る〈災厄〉の恐ろしさではなかろうか。
2〜3年に1度起こると言う、クラスメイトが1人増える奇怪な現象。
その現象が起こった年には、三年三組の教師や生徒、さらにはその家族にまで〈死のリスク〉が襲いかかる。
特に恐ろしいのは、これが〈呪い〉や〈祟り〉の様な〈何者かの意図〉によるものではない、単なる〈現象〉であるという点だろう。
〈呪い〉ならば祓う、〈祟り〉ならば鎮めるという対処法がある。
しかし、今作での〈災厄〉は自然災害の様な〈現象〉であり、何者の意思も存在していない。
それ故に、祓うことも鎮めることも出来ないこの〈災厄〉は、不可避の死を携えて関係者に襲いかかる。
さらにその死が、〈不可思議な死〉などではなく、病死や事故死、自殺に他殺という、死因が明らかなものばかりであることが、より一層の恐怖を引き立てている(幾つかの要因が重なった結果として死に至る様子は、アメリカのホラー映画『ファイナル・ディスティネーション』シリーズの〈死のピタゴラ・スイッチ〉を思い出させる)。
是非とも、逃れることのできない〈災厄〉の恐怖を堪能してほしい。
また、この恐ろしい〈災厄〉に立ち向かうのは、転校生の〈榊原恒一〉やその友人達だ。
〈災厄〉の恐怖に怯えながらも、中学生らしい感情の機微を見せる彼らの様子は、何となく微笑ましく映る。
彼らの、〈恐怖〉だけではない青春模様も、要注目だ。
綾辻氏の十八番たる〈ミステリー要素〉
『ほとんどない』ですか
ミステリー小説界の大御所、綾辻行人氏の作品である今作には、如何にもミステリー的な〈推理要素〉や〈大どんでん返し〉も含まれている。
最序盤の描写から伏線が丹念に敷き詰められていながら、一見してそれと気付かせない手腕は、見事の一言だろう。
更に、迫りくる〈災厄〉の規則性や情報を少しずつ暴いていく描写は、サスペンス的な魅力も放っている。
すべての事実を確認してから再読すれば、その緻密に張り巡らされた伏線に圧倒されるはずだ。
読了後、すぐに再読したくなる、芸術品のような美しい構造の作品だ。
多様なメディアミックスも
ミサキ……メイ
今作は、漫画化やアニメ化、果ては実写映画化など、様々なメディアミックスが行われている作品でもある。
それぞれの媒体で、ストーリー展開やキャラクター設定などが大きく異なっているものもあり、どの媒体も違った魅力を放っている。
今作を読了した後、更に『Another』の世界に浸りたいという読者がいたら、そういったメディアミックス作品を視聴してみるのも1つの手だろう。
多様な『Another』の世界を楽しむことが出来るはずだ。
また、今作の外伝として『Another エピソードS』や、続編『Another 2001』なども発刊されている。
今作を気に入った読者であれば、それらの外伝や続編にも是非触れてみてほしい。
きっと、新たなる恐怖を楽しむことができるはずだ。
まとめ
不可避の死が迫るという〈現象〉の恐怖を描いた今作は、そこに〈何者かの意図〉が全く存在していないが故に、より一層の恐ろしさを秘めた作品だ。
更に怖いだけでなく、綾辻氏の十八番である〈大どんでん返し〉もしっかりと含まれているため、1度読了した後すぐに再読したくなるほどの魅力も放っている。
是非とも、逃れようのない死の恐怖を、じっくりと堪能してほしい。
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