〈三間坂秋蔵(みまさか しゅうぞう)〉という怪談好きの編集者と出会い、意気投合する作家の〈三津田信三(みつだ しんぞう)〉。
〈頭三会(とうさんかい)〉なる会合を度々開いては、怪談を語り合い楽しむ2人。
そんなある日に三間坂が語ったのは、奇妙な関連性を感じさせる2つの怪談。
更に彼らのもとに、それらとの関係を匂わせる3つの怪談が集う。
果たして、この5つの怪談が持つ〈共通点〉とは…。
〈幽霊屋敷〉をめぐる、5つの恐怖の物語。
こんな人におすすめ!
- 実名小説が好きな人
- 幽霊屋敷ものが好きな人
- ミステリー小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
怪談好きの編集者〈三間坂秋蔵〉と出会い、意気投合する作家の〈三津田信三〉。
彼らは幾度か、2人の名前の頭文字から名付けた〈頭三会〉なる会合を開き、ホラー談義や怪談を語り合って楽しんでいた。
そんなある日、三間坂は叔母から手に入れたという不気味な日記と、祖父の蔵から見つかったという不可思議な原稿を三津田に渡す。
不気味な予感から、執筆を優先し日記と原稿を後回しにしていた三津田だが、新たに3つの怪談が三津田のもとに集うことで、その存在は無視できなくなっていく。
全く異なる話でありながら不気味な符号を見せる5つの怪談が手元に揃った時、三津田と三間坂の周辺でも奇怪な現象が起こり始め…。
5つの怪談の共通点とは何か。
そして、その共通点が指し示す事実とは?
〈幽霊屋敷〉をめぐる、5つの恐怖の物語。
巻末には、〈大島てる〉氏による解説〈六つ目の話 心理的瑕疵物件〉も収録!
『どこの家にも怖いものはいる』の感想・特徴(ネタバレなし)
異なるタイプの恐ろしさを持つ〈5つの怪談〉
まったく別の二つの話なのに、どこか妙に似ている気がして仕方がない……
今作の1番の魅力は、異なるタイプの怪談が5つも楽しめることだろう。
引っ越してきたばかりの新築1戸建てに住む、母親の日記という形式で進む〈1つ目の話 向こうから来る 母親の日記〉では、娘が仕切りに話しかける、〈キヨちゃん〉という謎の存在や、娘の友人である男児が行方不明になるという事件を描いている。
現代らしき時代背景が見えているからこその、〈日常に忍び寄る何者か〉の恐怖が味わえる。
打って変わって〈2つ目の話 異次元屋敷 少年の語り〉では、とある少年が自らの身に降りかかった恐怖の体験を、何者かの質問に返答する形で語り続ける。
少年の口からは、不気味な屋敷で得体の知れない怪物に追いかけられる様子が臨場感を持って語られており、和製モンスターホラー的な味わいがある。
更に〈3つ目の怪談 幽霊物件 学生の体験〉は、三間坂がネットの怪談専門サイトから見つけてきた〈ネット怪談〉だ。
アパートに潜む不気味な何者かに悩まされていた学生の語りは、軽妙でありながらしっかりと怖く、今作の中では特に現代的なホラーのようにも感じられる。
続く〈4つ目の話 光子の家を訪れて 三女の原稿〉は、作中で三津田が語ったように、1番〈邪悪〉さを感じる怪談だ。
ただの民家が新興宗教の拠点のようになっていき、更にそこに潜む〈何者か〉によって身内が徐々に狂っていく様子は、言語化し難い悍ましさに溢れている。
そして、すべての怪談のルーツとも言える〈5つ目の話 或る狂女のこと 老人の記録〉は、古い因習に満ちた村での恐怖を描く、見事な和製怪談だろう。
すべての怪談が、それぞれで1冊の小説が出来そうなほどの怖さを誇っている。
それを贅沢にも1冊の小説に纏め上げた今作は、実に様々な恐怖を楽しむことができるため、読んでいて非常に満足度が高い作品だ。
三津田と三間坂の〈怪談談義〉
怪談はお好きですよね
前述した5つの怪談を纏め上げる役割を持つのが、三津田と三間坂による〈怪談談義〉だ。
彼らはそれぞれの怪談に気味の悪い符号を感じ、加えて怪異がその身にまで降りかかってきたことから、怪異への解釈を試みる。
その中で繰り広げられる、類似の事例からの怪談の分析もまた、今作の大きな見所だろう。
彼らが怪異の謎を解き明かせるのか否かからも、目が離せない。
更に、怪談好きの2人の間で繰り広げられる会話の内容もまた、不気味な話が都度都度挟まれており、決して読者を飽きさせない(個人的には特に、〈ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語〉にまつわる話が不気味に感じた)。
是非とも、今作の隅々まで楽しみ尽くしてほしい。
解説:大島てる
殺人事件、自殺、火災などで死人が出た不動産は〈事故物件〉と呼ばれます。
今作の解説を行うのは、〈事故物件紹介サイト・大島てる〉で有名な〈大島てる氏〉だ。
〈事故物件紹介サイト〉とは読んで字の如く、事故物件を探し出してくれるサイト。
サイト内で特定の地域や住所を入力し検索をかけると、その地域・住所の事故物件がマップ上に〈炎マーク〉で表示される(余談だが、筆者が現在住んでいるマンションを試しに検索してみたところ、バッチリ〈炎マーク〉がついていた)。
謂わば〈事故物件の専門家〉である大島てる氏による、〈幽霊屋敷〉をテーマとした今作の解説は要注目だろう。
更にこの解説を〈6つ目の話 心理的瑕疵物件 大島てる 解説〉と名付ける演出も心憎い。
もはや解説まで含めての今作とも言っても過言ではないので、飛ばさずに最後まで読み切ってほしい。
まとめ
〈幽霊屋敷〉というホラーの王道であるテーマを扱った今作は5つの怪談を見事に1冊の小説に纏め上げており、その1つ1つの怪談がしっかりと怖い。
ホラー作品が好きな読者にとって非常に満足度の高い作品だろう。
また、著者の三津田信三氏の豊富な知識や幕間に挟まれる分析や解釈、さらにはちょっとした小咄までがより恐怖を煽るものとなっているため、きっと上質な恐怖を味合わせてくれるはずだ。
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