ギガ出版に勤める編集者、〈藤間洋介(ふじま ようすけ)〉。
ライターに依頼していた原稿が送られて来ず、編集長の指示で丁稚の〈岩田哲人(いわた てつと)〉と共にライター宅へ訪問する。
彼らがそこで目にしたのは、オカルトライター〈湯水清志(ゆみず きよし)〉が目をくり抜かれ、全身傷だらけで死んでいる姿だった。
更に、現場から勝手に持ち出した原稿を読んだ藤間と岩田の元にも、不気味な人形が姿を見せ始め…。
『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした澤村伊智氏が描く、新たなる怪異の恐怖。
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- ミステリ小説が好きな人
- 『リング』や『残穢』を読んだ、もしくは試聴したことがある人
あらすじ・内容紹介
オカルト雑誌を発刊している〈ギガ出版〉に勤める編集者、〈藤間洋介〉。
執筆を依頼していたライター〈湯水清志〉との連絡が取れなくなった彼は、編集長の〈戸波弥生(となみ やよい)〉の指示で、丁稚の〈岩田哲人〉と共に湯水宅へ向かう。
そこで目にしたのは、物が散乱した部屋と焼け跡の残った原稿、そして全身傷だらけで両眼をえぐられた湯水の死体であった。
事態の大きさに戸惑いながらも、日常へ戻っていく藤間。
しかし、岩田が現場から持ち出した原稿のコピーを読んだことで、彼の身の回りには不気味な人形の影が付き纏い始める。
事態に怯えた藤間は、湯水の代打を依頼していたライター〈野崎崑(のざき こん)〉と、その婚約者にして霊能力者、〈比嘉真琴(ひが まこと)〉の手を借り、呪いを解こうとする。
しかし、〈来生里穂(きすぎ りほ)〉という少女の半自伝的小説でしかなかったその原稿に、死んだはずの真琴の姉、〈比嘉美晴(ひがみ はる)〉の存在が記されていたことで、事態は更に複雑な様相を呈していく…。
都市伝説〈ずうのめ人形〉は事実か、創作か。
里穂が原稿を書き上げた、その理由とは。
『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした澤村伊智氏が描く、新しい〈都市伝説〉の恐怖。
『ずうのめ人形』の感想・特徴(ネタバレなし)
新たなる〈都市伝説〉
都市伝説って怖いと思う?
今作で大きく取り上げられるのが、〈都市伝説〉だ。
都市伝説と言えば、〈口さけ女〉や〈人面犬〉、〈テケテケ〉や〈カシマさん〉などの話が有名だろう。
読者の中には、子供の頃に聞いたことがあるという方もいるかもしれない。
今作で登場する怪異〈ずうのめ人形〉も、都市伝説的な側面が強い。
〈ずうのめ人形〉は初め、作中作である〈来生美穂〉の半自伝的小説に、怪談として登場する。
鬱屈とした生活を送る彼女が、図書館の交流ノートを通して〈ゆかり〉なる人物から聞いた怪談が、〈ずうのめ人形〉だ。
その怪談を読んだ夜、彼女のもとには〈黒い振袖を着た日本人形〉が現れる、という体験が綴られた原稿。
更に、その原稿を読んだ藤間の周辺にも同様の人形が現れることで、物語は加速していく。
この、〈この話を聞いた人のところにも、その怪異が現れる〉という要素は、まさに都市伝説のそれである。
最近ではあまり聞かれなくなったように思う都市伝説の恐怖を、装いを新たに楽しめるのは今作の大きな魅力だ。
また、作中ではオカルトライターの〈野崎崑〉が、都市伝説についての分析や考察を披露する場面がある。
都市伝説の魅力に一度でも取り憑かれたことがある読者には、この考察も必見だろう。
『リング』や『残穢』を絡めた、メタ的な作風
呪いのビデオは、『映像版・不幸の手紙』じゃないか。
今作の大きな特色として、『リング』や『残穢』など実在の作品に触れられている点が挙げられる。
あまりにも有名な作品なので知らない方は少ないと思うが、念のため少しだけ解説をしておく。
〈山村貞子(やまむら さだこ)〉なる人物によって作られた、〈呪いのビデオ〉。
それを観た者は、7日後に呪いによって死んでしまう。
呪いを回避する手段は、ダビングした〈呪いのビデオ〉を別の人間に見せなければならない。
というのが『リング』の大まかなあらすじ。
作家の〈私〉の元に寄せられた、読者からの一通の手紙。
その手紙に記された怪談を追うと、その先には新たな別の怪談が現れ、そしてその全てが〈北九州最恐の怪談〉につながっていく…。
というのが『残穢』の大まかなあらすじだ。
両作とも名作なので、是非とも一度目を通してみて欲しい。
さておき今作では、この2作品についての言及がなされる。
実在する作品を作中で登場させることで、一種のメタ的な要素を含ませるこの手法は、怪異によりリアリティーを与えることに成功しているのではなかろうか。
時間に余裕があるのであれば、今作と合わせて、3作まとめて楽しんで欲しいところだ。
反転する人物像と、その悍ましさ
あんたの中ではそういうことになってるんだね
『ぼぎわんが、来る』でも展開されたどんでん返しは、今作でも踏襲されている。
何を言ってもネタバレになるため詳細には触れないが、1つの面からしか見ることのできなかった事象が、別の面からの視点も加わることで多角的に見られるようになり、それにより人物像が変遷する様子は、著者・澤村伊智氏の持ち味だろう。
実際にあり得ることだけに、ある意味で怪異以上の恐ろしさや悍ましさを秘めたこのどんでん返しは、丁寧に読み進めれば読者でも気付ける可能性がある。
是非とも、違和感を無視せずに読み進めてみて欲しい。
まとめ
前作『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした澤村伊智氏の、第2作目である今作。
前作での〈どんでん返し〉の手法を踏襲しつつ、『リング』や『残穢』など実在の作品を絡めることでメタホラー的な要素を付与した今作には、著者の深い〈ホラー愛〉を感じることができる。
更にテーマを〈都市伝説〉に設定することで怪異が広がる恐怖を描いた今作は、読みながら、徐々に迫ってくる〈ずうのめ人形〉の恐怖を存分に感じることができるだろう。
きっと、ホラーファンもホラー初心者も楽しめる、見事なエンターテインメント作品だ。
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