幼少期、謎の怪物〈ぼぎわん〉に遭遇した男性、〈田原秀樹(たはら ひでき)〉。
社会人となり家庭も持った彼のもとに、ある日、謎の訪問者が訪れる。
それ以来、周囲で不可解なことが頻発するようになった彼は、それが危険なものであることを感じ、オカルトライターの〈野崎崑(のざき こん)〉とバーに勤める巫女〈比嘉真琴(ひが まこと)〉に助けを求める。
しかし、迫ってくる脅威の力は予想以上に大きなもので…。
果たして、〈ぼぎわん〉の正体とは?
そして彼に迫る脅威の、その目的とは?
第22回日本ホラー小説大賞で史上初の全審査員最高評価を得て、『来る』のタイトルで映画化も成された、戦慄のホラーエンターテインメント小説!
目次
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
- 家庭を持つ、もしくは持とうとしている男性
あらすじ・内容紹介
幼少期、〈ぼぎわん〉と呼ばれる謎の怪異に遭遇した〈田原秀樹〉。
社会人となり家庭を持った彼は、〈イクメン〉を目指して日々を過ごしていた。
そんなある日、彼の勤める会社に謎の来訪者がやってくる。
なぜか田原の家族の名前を伝え、彼と接触しようとしたその来訪者は、田原が会いにいくより前に姿を消した。
しかしその直後、来訪者を取り次いだ田原の後輩が唐突に大怪我を負う。
誰も見ていない状況で、本人さえも気づかないうちに負ったその怪我はまるで、〈何者かに噛みつかれた後〉のようであった。
更にその来訪者は、田原の家族のもとへと向かう。
その手口から、かつて遭遇した怪異〈ぼぎわん〉を連想した田原。
伝手を辿ってオカルトライターの〈野崎崑〉と、巫女である〈比嘉真琴〉に助けを求める彼に、さらなる恐怖が襲い掛かる…。
第22回日本ホラー小説大賞で、史上初の審査員最高評価を獲得した澤村伊智氏の、恐怖と戦慄のデビュー作!
『ぼぎわんが、来る』の感想・特徴(ネタバレなし)
圧倒的な〈ぼぎわん〉の恐怖
―相手があれじゃあね
ホラー小説の面白さとは、それ即ち〈怪異の恐ろしさ〉ではないだろうか。
ここで言う〈怪異〉とは、実体(と言うべきかは怪しいが)を持った〈幽霊〉や〈妖怪〉のようなものだけでは無い。
例えば〈異音〉や〈異臭〉、〈誰も触れていないものが動く〉、〈異様な怪我〉など、不可解な〈現象〉そのものも含まれる。
これらの〈現象〉が怖ければ怖いほど、その怪現象を引き起こす〈何者か〉の、得体の知れなさや恐ろしさが際立つのではなかろうか。
今作に登場する〈ぼぎわん〉は、その点において完璧だ。
今作最初の語り部である〈田原〉の幼少期に姿を現し、〈玄関前でひたすら家族の名前を呼び続ける〉と言う、怪談としてはよくあるパターンな行為から始まる〈ぼぎわん〉。
しかしその行動は、読み進めるほど過激に、より恐ろしいものへと変化していく。
田原の職場の後輩は、〈何者かに噛み付かれたような〉不可解な傷を負って長期入院の末退職。
その後、変死を遂げる。
また、田原や、その家族の香奈、知沙の名前を呼びながら、電話や手紙を通して徐々に近づいてくる様子には、ジワジワと日常に浸食する気持ちの悪い恐怖感を覚えるだろう。
そして、とうとう姿を現したそのビジュアルも非常に奇怪かつ不気味に描写されており、その恐ろしさに拍車をかける。
是非とも、澤村伊智氏オリジナルの怪異〈ぼぎわん〉が迫ってくる恐怖を、楽しんでもらいたい。
多人数視点ならではの人物像の異なり
こんなことだろうと思っていました。
前述した〈ぼぎわん〉の存在は鮮烈だが、今作における恐ろしさはそれだけではない。
今作は3人の視点から描かれる作劇の特性を見事に活かしきり、ある人物の視点から見た物語と、別の人物から見た物語が徹底的に食い違うという仕掛けがなされている。
詳細は伏せるが、ある人物への見方が章を跨ぐと180度異なって見える様は、怪異の有無に関係ない気持ち悪さを覚えるかも知れない。
更に、その人物の本質的な部分については最初から少しずつヒントが提示されており、注意深く読んでいれば気づくことができるというフェアな設計。
その仕掛けの巧みさや、少しずつヒントを散りばめている様は、まるでミステリ小説の叙述トリックのようである。
気持ちよく騙されるも良し、注意深く疑い、真相を見抜くも良しの作品だ。
〈VS怪異〉の、エンターテインメントとしても楽しめる
価格はー家族割にするわ
これは〈ホラー小説〉という括りで考えた際に、賛否両論があるかも知れないが、今作の魅力の1つは、巫女〈比嘉真琴〉やオカルトライターの〈野崎崑〉、更に〈最強の霊媒師〉と名高い真琴の姉〈比嘉琴子(ひが ことこ)〉達の、〈ぼぎわん〉との奮闘にあるだろう。
この〈VS怪異〉の要素が含まれていることで、今作は〈ホラー小説〉としてだけではなく、〈ホラーエンターテインメント〉としての魅力を持つに至っている。
すべての謎が解き明かされ、ついに対決する琴子と〈ぼぎわん〉の戦いは、今作における大きな見所だ。
決戦の詳細や勝敗はここでは伏せるので、是非とも自身の目でその結末を確認してほしい。
まとめ
日本ホラー小説大賞で、史上初の全審査員最高評価という偉業を成し遂げた今作。
著者・澤村伊智氏が生み出したオリジナル怪異、〈ぼぎわん〉の恐ろしさだけでなく、語り部の視点が移ることで特定の人物の人間性すらも変化して見える恐ろしさは、今作ならではのものだろう。
叙述トリック的な要素もあり、これ以上は何を語ってもネタバレとなってしまうため、是非とも自身の手で取って、その巧みに仕組まれた恐怖を味わってほしい。
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