アメリカのメイン州デリー。
1990年のこの街では、子供だけを狙った殺人事件が相次いでいた。
そんな街で暮らしていた、虐められっこの集まり〈ルーザーズ・クラブ〉のメンバー達。
大人となり散り散りになっていた彼らは、27年ぶりにデリーを訪れる。
殺人ピエロ、〈ペニーワイズ〉との決着をつけるために…。
2度の映像化もされた、スティーブン・キングの恐怖作品にして、ジュブナイル。
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- 〈ペニーワイズ〉が好きな人
- ジュブナイル作品が好きな人
あらすじ・内容紹介
1990年のアメリカメイン州デリー。
この街には、子供を狙って殺す殺人ピエロ〈ペニーワイズ〉が住んでいる。
街の虐められっ子が集まったグループ、〈ルーザーズ・クラブ〉のリーダーである〈ビル・デンブロウ〉の弟、〈ジョージー・デンブロウ〉もまた、犠牲になった。
弟の仇を討つため、そしてこれ以上の犠牲者を出さないために立ち上がる〈ルーザーズ・クラブ〉のメンバー達。
彼らは結束し、共にペニーワイズに立ち向かった。
そして、戦いから27年後。
再び姿を現した〈ペニーワイズ〉との決着のため、彼らは再びデリーに集う…。
2度の映像化もされた、巨匠スティーブン・キングが描くホラー&ジュブナイル小説の傑作!
『IT』の感想・特徴(ネタバレなし)
殺人ピエロ〈ペニーワイズ〉の恐怖
『IT』が生み出した名キャラクター。
それが、殺人ピエロの〈ペニーワイズ〉だ。
COME HOME COME HOME COME HOME
陽気で滑稽な様子を見せるこのピエロは、近年ではニコニコ動画などでの〈ペニーワイズのおすすめシリーズ〉として笑いのタネにされることも多く、〈排水口から変なものを勧めるピエロ〉としての側面ばかりが目立つ。
しかしこの原作小説において、ペニーワイズは奇怪な力で殺人を続ける正真正銘のモンスターである。
子供にしか見ることのできないこのモンスターは、子供達が〈最も怖がるもの〉に姿を変え、子供達を存分に怯えさせた後に、食す。
その様は確かな知性を感じさせるが、わかり合う事は絶対に不可能な存在であるという、気持ちの悪い恐怖感を読者に与えてくれる。
滑稽であるが故に不気味で、陽気であるからこそ恐ろしいペニーワイズの真の魅力を、是非とも味わってもらいたい。
少年少女の成長物語
ハイヨー、シルヴァー!
今作は、殺人ピエロの恐怖を描く〈ホラー〉としての魅力だけでなく、その恐怖に立ち向かっていく〈ルーザーズ・クラブ〉の面々の成長を楽しむ〈ジュブナイル〉としての魅力も秘めている。
〈ルーザーズ・クラブ〉のメンバーは文字通り、学校や街などの〈社会〉の中での負け組たちだ。
主人公の〈ビル・デンブロウ〉は吃音癖があり、友人の〈リッチー・トージア〉と共に上級生から常に虐められている。
ヒロインの〈べバリー・マーシュ〉も虐めの被害に加えて、実の父親から性的暴行を受け続けいる。
太めの体型をした転校生〈ベン・ハンスコム〉はまた、その体型を理由に上級生に暴力を振るわれ、ナイフで腹に切り傷を負わされる。
ユダヤ系の〈スタンリー・ユリス〉や黒人の〈マイク・ハンロン〉は、その出自から激しく差別され、喘息持ちの〈エディ・カスプブラク〉は過干渉な母親に行動を縛られている。
そんな彼らが、自嘲を込めて付けた名が〈ルーザーズ・クラブ〉だ。
しかし彼らは、その内に強い〈勇気〉を秘めている。
自らを奮い立たせ、絡みつく周囲の障害も跳ね除け、協力して殺人ピエロに立ち向かう彼らは、誇りを持って自分たちのことを〈ルーザーズ・クラブ〉と呼ぶ。
また、彼らの物語は、ピエロとの戦いだけではない。
いじめっ子への決死の抵抗、淡い初恋と失恋、少しずつ芽生える友情など、彼らの過ごす青春模様からも目が離せない。
〈亀〉の存在
亀はわれわれを助けることはできない。
ペニーワイズと〈ルーザーズ・クラブ〉の戦いに大きく関わるのが、〈亀〉の存在だ。
今作の著者であるスティーブン・キング氏の作品の多くが、氏の別の作品とリンクしていることは有名だろう。
詳細は伏せるが、〈亀〉はキング作品の殆どにおいて、重要な役割を担っている。
他のキング作品を読むにあたっても、今作の〈亀〉の存在に気を払っておくと、より楽しむことが出来るだろう。
また、今作は最近『IT それが見えたら終わり/IT THE END』として前後編で映画化もされた。
直接的な登場こそ無いものの、この映画の中にも〈亀〉の存在を匂わせるシーンは多数含まれているので、もし映画を視聴する際には気をつけて観てみてほしい。
まとめ
巨匠、スティーブン・キングの長編ホラーの傑作にして、少年少女の青春と成長を描いた今作。
ホラー描写はしっかりと怖いが、読後感は非常に爽やかなこの作品は、スティーブン・キングという作家の魅力がこれでもかと言うほど詰まっている。
二度の映像化もされているので、〈長い作品はちょっと…〉という人はそちらから先に触れるのも手だ。
そして、映像で観て少しでも魅力を感じられたのなら、キング作品の入門として是非とも今作を一度手に取って、読んでみて欲しい。
笑いあり涙あり恐怖ありのエンターテイメントを、存分に満喫できることだろう。
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