イギリス郊外に佇む、古い貴族の屋敷。
そこに暮らすのは、両親と死別して身を寄せ合って生きる、眉目秀麗な兄妹、〈マイルズ〉と〈フローラ〉、そして使用人の〈グロース夫人〉。
彼らの伯父から雇われた若い女性である〈私〉は、家庭教師として彼らと生活を共にすることになる。
素直で麗しい2人の子供に、夢中になっていく〈私〉。
しかしその屋敷で〈私〉は、兄妹を悪へと引き摺り込もうと企む悪霊たちの姿を目撃することになる…。
果たして幽霊の正体は誰なのか?
〈私〉こそが、幽霊なのではないのか?
極限状況に置かれた人間の心理状態を緻密に描いた、今なお色あせない幽霊小説にして心理小説の名著!
こんな人におすすめ!
- 心理小説が好きな人
- ホラー小説が好きな人
- ゴシック小説が好きな人
あらすじ・内容紹介
とある夜、炉辺に集まった何人かの人々は、互いに恐ろしい話を語り合っていた。
その中で最も恐ろしかったのは、〈ダグラス〉の語った話だ。
彼がかつてとある女性から受け取った手記に書かれたという、凄惨な物語。
その物語は、若い女性である〈私〉が家庭教師として雇われるところから始まる。
〈私〉が雇われたのは、イギリス郊外に静かに佇む大きな貴族屋敷。
そこには両親と死別して身を寄せ合って生きる眉目秀麗な兄妹、〈マイルズ〉と〈フローラ〉、そして使用人の〈グロース夫人〉が暮らしていた。
兄妹の伯父に雇われた〈私〉は、その屋敷で彼らと共に暮らしていくこととなる。
2人の子供の賢さと愛らしさに、夢中になっていく〈私〉。
しかし〈私〉は、屋敷の中を跋扈する〈幽霊〉を目撃してしまう。
兄妹を悪の道へと引き摺り込もうとする悪霊から2人を守るため、〈私〉は怯えながらも果敢に悪霊に挑んでいくのだが…。
幽霊の正体とは誰なのか?
〈私〉は今、果たして正気でいるのか?
〈私〉こそが幽霊なのではないのか?
極限状況に置かれた人間の心理状態を、緻密かつ端正な文章で描いた見事な心理小説にして、現代的な〈幽霊屋敷ホラー〉の先駆けでもある歴史に残る名著!
『ねじの回転』の感想・特徴(ネタバレなし)
徐々に追い込まれていく、〈幽霊屋敷〉の恐怖
もし子供だということで、ねじを一ひねり回すくらいの効果があるなら−さて、子供が二人だったらどうだろう
今作は、家庭教師として貴族屋敷に暮らすことになった〈私〉が遭遇した、想像を絶する恐怖の体験を描いた作品だ。
屋敷に跋扈する幽霊に怯えるという、〈幽霊屋敷モノ〉の王道展開ではあるのだが、緻密で端正な文章で描かれているが故に、その恐怖は真に迫っている。
はじめは素敵な紳士に雇われて、愛らしく聡明な2人の家庭教師として働けることを喜んでいた〈私〉。
しかし屋敷の中で蠢く幽霊の影に、〈私〉は徐々に怯えを見せ始める。
屋敷の中にいるらしき幽霊は2人。
現れては消え、消えては現れる幽霊が自分の暮らす空間にいる恐怖を、緻密な文章で見事に描き切っており、読者はまるで〈私〉と一体になったかのような恐怖を味わうことができる。
更に、その幽霊の特徴をグロース夫人に伝えたところ、その姿が前任の家庭教師〈ジュスル先生〉と、かつて雇われていた下男〈クイント〉に酷似していることが発覚し、加えてその2人が既に死んでいることが知らされるシーンなどは、恐怖がこちらを狙い澄まして、徐々に迫り来るかのような感覚すら覚える。
見事な筆力で描かれた〈幽霊屋敷〉の恐怖を、まずは〈私〉と1つになって楽しんで欲しい。
〈一人称小説〉故の、曖昧模糊とした不安感
あの二人はあの二人のことを話してるんです。とんでもない会話です!
加えて今作は、極限状況に置かれた人間の心理状態を描いた〈心理小説〉としても一級品だ。
幽霊の存在に怯え、徐々に追い詰められていく〈私〉の心理状態は、平時とは完全に異なったものとなっている。
更に、グロース夫人には幽霊が見えていないことや、2人の子供が幽霊の存在を知りながら隠しているのではと疑う〈私〉の心理状態は、正気と狂気の境界線に立っているようにも思える。
果たして、幽霊は実在しているのか。
それとも、すべては〈私〉の狂気が生み出した幻想なのか。
幻想にしては不可解で、実在にしては曖昧過ぎる幽霊の存在は、虚実どちらとも取れる曖昧さを内包することによって、より読者の不安を煽る。
一人称小説ゆえの、状況を客観的に見ることができない不安定さが、今作を心理小説の名著たらしめている所以だろう。
〈私〉と共に恐怖を味わった後は、正常だと思っていた〈私〉の正気を疑う恐怖を堪能できるはずだ。
また今作は、様々な分析や解釈が試みられている作品でもある。
レポートや研究資料なども存在しているので、それらを一読してから読み直すと、また違う味わいを感じられるかもしれない。
関連する実在の事件も?
そう、凄惨ということで
実は、今作『ねじの回転』には、実在する幽霊屋敷がモデルだという話もある。
その屋敷の名は、〈ヒントン・アンプナー〉。
〈最も気味が悪く恐ろしいもの〉とも呼ばれるこの屋敷では、ポルターガイスト現象をはじめとした様々な心霊現象が報告されている。
特に、〈メアリー・リケット〉という女性が記した手記には、〈灰色の男〉や〈不審な女〉の存在、夜な夜な聞こえてくる〈呻き声〉や〈ボソボソとした会話〉など、そこで起きた恐ろしい現象の数々がまとめられている。
物語に直接の関係はないが、〈モデルとなった幽霊屋敷が存在した〉ということを念頭に読み直してみると、今作の別の顔も見えてくるかもしれない。
まとめ
幽霊小説、そして心理小説として、今なお色あせない魅力を放つ今作。
緻密で端正な文章で描かれる幽霊の恐怖と、一人称小説であるが故に〈私〉の正気を疑わなければならない不安定感は、読者に多方面からの恐ろしさを味わわせてくれる。
関連する文献も多様に存在しているため、まずは素直に一度読んでから、資料を読み込んで再読すれば一度目とは違う味わいが感じられるだろう。
何度読んでも新たな発見がある今作は、まさしく〈普及の名作〉と呼ぶべき作品に違いない。
この記事を読んだあなたにおすすめ!
【2023年】最高に面白いおすすめ小説ランキング80選!ジャンル別で紹介
書き手にコメントを届ける