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『営繕かるかや怪異譚』あらすじと感想【大工が怪異を解決⁉︎】

『営繕かるかや怪異譚』あらすじと感想【大工が怪異を解決⁉︎】

何度閉めても空いている奥屋敷の襖。

死人が出る家に必ず現れる、和服の女。

自宅の中を徘徊する、謎の老人。

〈家〉に纏わる怪異を、営繕屋が解きほぐす。

『十二国記』や『ゴーストハント』の小野不由美が新たに綴る、優しく怖い怪異譚。

こんな人におすすめ!

  • ホラー小説が好きな人
  • ミステリー小説が好きな人
  • 小野不由美氏の作品が好きな人

あらすじ・内容紹介

叔母から受け継いだ屋敷。

その奥座敷の襖は、何度閉じても開いてしまう。

更に、その奥からは何者かが出てこようとしており…(奥庭より)。

屋根裏から聞こえ続ける、何かが動き回る音。

正体を確かめようとした住人が、屋根裏で見つけたものとは(屋根裏に)。

鈴の音とともに現れる、黒服の女。

彼女が訪れた家には、必ず死人が出る。

決まった道を進み続ける彼女の進路には、私の家があり…(雨の鈴)。

引っ越してきた家には、老人が徘徊している…。

田舎に不満を漏らす彼女が出会った老人は、何を訴えているのか(異形のひと)。

素敵な井戸がついた一戸建て。

その庭に植えた草木は枯れ、生臭い怪物が徘徊する。

これらの現象は、庭の祠を壊してしまったことと関係があるのか?(潮満ちの井戸)。

実家に出戻り拒絶された末に、親戚から貸された格安の物件。

しかしそこは、不気味な現象が起こる事故物件だった(檻の外)。

〈家〉に纏わる様々な怪異を、営繕屋の〈尾端(おばた)〉が解きほぐす。

『ゴーストハント』や『十二国記』の著者・小野不由美氏が紡ぐ、新たな怪異譚。

『営繕かるかや怪異譚』の感想・特徴(ネタバレなし)

じわじわと忍び寄る、6つの恐怖

−奥庭にお化けが出るんだって。

今作は、営繕屋の〈尾端〉を軸とした短編集である。

〈家〉に纏わる6つの怪異譚は、怪物が襲ってきたり、ポルターガイストが起こったりといった派手さはない。

描かれるのは、〈奥座敷の向こうにいる何か〉や〈決まった道を進む女〉、〈庭の草木がなぜか枯れる〉、〈見え隠れする老人〉といった、言ってしまえば〈地味〉な怪異たちだ。

それらの怪異は、〈家〉に住む人間に対して〈敵意〉や〈害意〉を見せる様子は特にない。

あくまでも、現れたり消えたり、あるいは移動したりしているだけの存在である。

しかし、得体の知れない何かが〈身の回りにいる〉、もしくは〈近づいてきている〉という現象が非常に丹念かつ丁寧に描かれており、じわじわと忍び寄る恐怖を読者に与えてくれる。

読み終わってしばらくしてから怖くなってくる、古き良き〈和製ホラー〉的な味わいがある作品だ。

更に、今作で描かれる怪異は、そのルーツや正体が暴かれることはない。

それ故に読了後も、〈結局あれは何だったんだろうか…〉という怖さを長時間楽しむことができる、お得な作品だ。

営繕屋〈尾端〉の作法

私は営繕屋ですから。

今作で怪異に対応するのは、営繕屋の〈尾端〉という人物だ。

物腰の柔らかい穏やかな性格の彼は、霊感も霊能力もない、ただの大工である。

しかし怪異と建築物への深い造形を見せる彼は、〈家〉を営繕していくことにより、怪異の解決を図る。

〈家〉が抱える構造上の問題を見抜き、住人に改善策を提案し、見積もりを提示してからから改築に着工する彼の仕事の様子は、見紛うことなく〈大工仕事〉をしているようにしか見えない。

しかし、尾端の提案する改築により、確かに怪異は治まるのだ。

全ての怪現象の原因を怪異に押し付けるわけではなく、合理的・科学的な視点を踏まえた上で怪異を読み解き、建築の理論に則って〈家〉を営繕していく彼の様子は、著者の小野不由美氏のデビュー作『悪霊シリーズ(後に『ゴーストハントシリーズ』として改稿、再販される)』も思わせる。

また、〈家〉を営繕する彼は同時に、〈家〉の住人の心をも解きほぐしていく。

〈家〉とは、人が住まう場所だ。

そんな場所で、恐ろしい目に遭わなければならなかった住人の心に寄り添い、そこに住むに至った事情を鑑み、そして住人の生活が以前よりも良いものになるようにそこはかとなく取り計らう。

霊を払うわけでも、悪霊と戦うわけでもない彼の大工仕事は、現実に即しているが故に一種の安心感を与えてくれるだろう。

解説:宮部みゆき

絆を大切にするというのは、実はこういうことなのだ。

今作の解説を務めるのは、多分野で活躍する著名作家である〈宮部みゆき氏〉だ。

氏の解説〈怪異を祓わぬ理由〉は、2ページほどの短いものではあるが、この作品の本質を端的に説明してくれる。

曰く、「この作品における〈怪異〉を、〈不和〉や〈揉め事〉に置き換えて考える」という考え方は、今作を読み進めていく上で重要なファクターであるだろう。

なぜ、〈除霊〉や〈御祓〉ではなく、〈営繕〉なのか。

怪異を完全に消滅させるのではなく、あくまでも〈生活に支障のないレベル〉に落とし込む今作の手法に込められた意味を考える上で、宮部みゆき氏による解説は非常に大きな役割を果たしている。

本編だけでなく、是非とも最後の〈解説〉にまで目を通して欲しい。

まとめ

『ゴーストハントシリーズ』や『残穢』、『屍鬼』など、数々の名作ホラーを生み出してきた小野不由美氏による今作は、読了後にじわじわと怖くなってくるという純日本的なホラーの傑作だ。

更に、怪異を封じたり祓ったりせず、あくまで〈営繕〉という手法を持って事態の解決に当たる〈尾端〉のやり方は、『ゴーストハントシリーズ』で見られたような理知的・合理的な方法である反面、温かみや優しさといったものも感じさせる。

怖くもあり優しくもある今作の魅力を、余すところなく味わって欲しい。

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