『ゴーストハント』シリーズをご存知だろうか。
1989年から1992年まで講談社X文庫ホワイトハートで刊行されたホラー小説だ。(刊行当時は『悪霊』シリーズと呼ばれていた)
1998年から2016年まで『なかよし』や『ARIA』で漫画が連載されていたため、漫画版を知っている方もいるだろう。
2020年6月には、文庫版となり新たな装いで登場した。
初めて手に取る方も、ナルや麻衣らSPRメンバーに久々に会いたい方も、怪談話が流行る夏の季節にぴったりなこのシリーズを、第1巻『旧校舎怪談』を中心に紹介する。(ちなみに筆者はメディアファクトリー版でシリーズすべて読了済み)
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が苦手な方
- 小野不由美作品が好きな方
- 本格的な夏に向けてホラー小説が読みたい方
- かつて『悪霊』シリーズや漫画『ゴーストハント』を読んでいた方
あらすじ・内容紹介
友人たちと怪談話に興じていた高校1年生の谷山麻衣(たにやま まい)。
その場で、現在立ち入り禁止となっている旧校舎が半壊のまま放置されているのは、祟りのせいだと聞く。
具体的には、取り壊そうとした途端に屋根が崩壊し、作業員が巻き込まれ死者が出たことや、宿直室に自殺した教師の霊が現れるという。
その話を聞いた翌朝、噂の真相が気になった麻衣は旧校舎へ立ち寄る。
ところが、建物内に設置されていた機材に触れ、壊してしまう。
その機材は校長が依頼した心霊現象調査事務所・渋谷サイキックリサーチ(通称:SPR)の若干17歳の所長・渋谷一也(しぶや かずや)と助手のリンがセッティングしたものだった。
1台何百万円もする機材を破壊した麻衣は弁償としてSPRを手伝うことになる。
『ゴーストハント1 旧校舎怪談』の感想・特徴(ネタバレなし)
個性的なキャラクターたち
本書だけでなく、シリーズ全体を通じて、個性的なキャラクターが物語を彩る。あらすじにも登場した渋谷一也は、17歳とは思えないほど冷静沈着で、心霊現象に関する豊富な知識を持っているが、霊感を全く持っておらず、口が悪い。
あまりの口の悪さに、麻衣は彼のことをナルシストの「ナル」とあだ名をつけるほどである。
一方、ナルの傍にいるリンは、寡黙で無愛想な助手である。
麻衣が機材を破壊した際にけがを負ったため、本書では正体がわからずじまいだが、後の巻でリンの正体が判明する。
そして、麻衣は普通の女子高生で、心霊現象の知識は全く持っていない。
それゆえ、最も読者に近い立ち位置にいると考えられる。
SPRや麻衣以外にも、学校より依頼を受けた人間が登場する。
高野山で修業した密教系呪術を使う滝川法生(たきがわ ほうしょう(通称:ぼーさん))。
派手な身なりだが、失敗も多い巫女・松崎綾子(まつざき あやこ)。
オーストラリア出身だが、怪しげな関西弁を話す、神父でありエクソシストのジョン・ブラウン。
口寄せを得意とし、テレビでも活躍する美人霊媒師・原真砂子(はら まさこ)。
互いに口を開くと喧嘩が絶えないくらい、一癖二癖もあるメンバーであるが、お互いが持つバックグラウンドや知識、経験を出し合い、全員で依頼に応えていく様子は、頼もしく見えてくる。
心霊現象へ科学的アプローチ
旧校舎の扉が勝手に閉まる、お祓い後にガラス窓が割れる、天井が崩壊する、ラップ音がする、ポルターガイストが起こる。
このように本書の中だけでも、多数の心霊現象が登場する。
心霊現象というと、超常的で理屈では説明できないと思われるが、『ゴーストハント』シリーズはむしろ科学的、学術的にアプローチしている。
特に霊感を持たないナルは機材を使用して心霊現象を調査する。
例えば、誰も触れていないのに椅子が動いた場面では、ポルターガイストだと主張する綾子に対し、ナルは次のように言う。
ナル「僕にはポルターガイストだとは思えないんだが……。」
綾子「なんでよ」
ナル「ポルターガイストが動かした物体は、普通、温かく感じられるものなんだ。実際にわずかだが、表面温度が上がることが多い。だが、サーモグラフィーを見ても、あの椅子に温度の上昇は観察できない」
ホラー小説というと、未知なる心霊現象を登場させて、読者に恐怖を煽る話も多いが、本書のように、1つの科学的現象として心霊現象を捉えているのは、ホラー小説として異色に感じるとともに、斬新さを感じる。
最後まで明かされないナルの正体
旧校舎の調査ではナルたちの手伝いをしていたにもかかわらず、調査終了後、ナルの連絡先すら知らなかったことに気づいた麻衣。
(まだ携帯電話が普及していない時代に書かれたため)電話帳を探してみても見つからず。
「渋谷サイキックリサーチ」なんて事務所のナンバーは載っていなかったのだ。もっとも、完全に調べ上げたとは言い難い。
電話帳のどこを探したらいいのか、いまいちよく分からなかったんだよな。タウンページに「霊能者」なんて項目はないし、ナル自身は霊能者じゃないと主張してたし、かといって普通、事務所の電話番号をハローページに載せたりはしないだろう(でも、とりあえずは調べた)。番号案内に訊けば、所在地が分からないと調べられない、とのつれない返事。たぶん渋谷区なのだろうし、そこから粘る手はあるよな、とは思ったものの、電話帳に番号が載ってなきゃそれまでだし。
そう、ナルを中心に物語が進むにもかかわらず、実は最後まで正体を明かさないのがナルである。
シリーズ全体に伏線がちりばめられているので、初めて読む方は特に伏線箇所を探しながら最後まで読み進めることをおススメする。
まとめ
夏といえば、怪談話が盛り上がる季節であるが、中には怪談話に苦手意識を持っている、もしくは心霊現象を全く信じていない方もいるだろう。
そのような方でも『ゴーストハント』シリーズはおススメだ。
SPRに集まるメンバーたちの会話は、時に漫才かと思うほどテンポがよく、心霊現象を信じていない人が納得できるような学術的・科学的見解も示されており、ミステリーとしても楽しんで読めるからである。
2020年7月現在で、角川文庫版では『ゴーストハント1 旧校舎怪談』『ゴーストハント2 人形の檻』の2冊のみが刊行されており、以降の巻は順次刊行とのことなので、続きを待つのもまた楽しみの1つかもしれない。
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