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『信じていたのに嘘だったんだ』を読んだらクリープハイプ1stアルバムがより楽しくなった

クリープハイプ『信じていたのに嘘だったんだ』あらすじと感想【『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』を尾崎世界観が再解釈した短編集】

本書はバンド、クリープハイプのメジャー1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』の副読本である。

2013年4月1日に通常盤CDと本書がセットになり、生産限定品<愛蔵版>としてリリースされ、副読本単体でも発売された。

装丁を取っ払って剥き出しにした文庫本のような見た目で、タイトルは『信じていたのに嘘だったんだ』。

アルバムのタイトル同様、『愛の標識』の歌い出しから引用されている。

音楽雑誌『WHAT’s IN?』で連載されていた「続世界」を書籍にしたもので、『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』の全楽曲を尾崎世界観が再解釈した物語が展開されていく。

クリープハイプ『信じていたのに嘘だったんだ』のあらすじと感想

『信じていたのに嘘だったんだ』は短編集ながらも、人が何かアクションをすることによって生じる摩擦が描かれている。

本書で使われていた文章は、ラップのサンプリングのように他の著書にも用いられているのも面白く、遊び心にもくすぐられる1冊だ。

第二話「チェリーガール」

もとになっている楽曲『イノチミジカシコイセヨオトメ』の歌詞にちなんで、ピンサロ嬢の久美子が、同じくピンサロ嬢の詩帆にクリープハイプのCD-Rを渡すというストーリー。

2人のピンサロ嬢だけでなくその客、店員、尾崎世界観が登場する。

詩帆「人差し指で止めてから、こいつが歌うどんな感情もどんな言葉もこの人差し指ひとつで止められると思ったら少しは気持ちが楽になった」

久美子「もう一度人差し指で再生ボタンを押してから、この人が歌うどんな感情もどんな言葉もこの人差し指ひとつで始まると思ったら少しは気持ちが楽になった」

終着点は同じにしても、1つの曲、同じ行動でも受け手によって解釈は真逆の方向に分かれてしまう描写に感性を問われるようだった。

どちらかが悪いわけでは無く自分の心で選んだことが正解になる。

面白かった映画を見てホクホクしながら検索をしたらかなり酷評されていて、面白いと思ったことを吐き捨て、見つけた粗だけをネットに書き込んでしまったことがある。

誰かが付けた評価に左右されず、自分に判断を委ねる2人がどこか羨ましくなった。

楽曲制作時、バンドを辞めようと思っていた尾崎世界観の絶望感やこの曲に託した希望が登場人物たちの感情を経由して、じんわりと効いてくる。

あと何回「クリープパイプ」って間違われるのかなとか考えたりしている

という尾崎世界観のコメントは、胸に熱いものが迫ってきた。

第八話「尾崎とABCD」

【A】「早くサビ来ないかなぁ」なんて気持ちで聴かれてるかもしれないと思うと、自分の存在が意味のないものに思えてきてどうしようもなくなるんだよ。

【B】そんな事ないでしょ。大事な曲の歌い出しなんだし、これから少しずつサビに向かっていくっていう期待感と緊張感があっていいと思うよ。

【C】色々な考えがあるんだろうけど、あのキンキンした声で喚かれるこっちの身にもなってみてよ。

【D】Dメロなんかこのバンドの曲にはほとんど存在しないし、たまにあっても一回だけですぐに大サビに存在を掻き消される気持ちは君達には理解出来ないだろうね。

『ABCDC』をモチーフにし、楽曲をパートごとに擬人化した話になっている。

聞き手が想像もできない独自の着眼点はアーティストならでは。

親がわが子の未来を案ずるような深い愛情を感じた。

想像を絶するような「産みの苦しみ」がそこにはあるのだろう。

Aメロの不満、Bメロのやるせなさなんて、考えてみたこともない。

けれど言われてみると確かにそう感じさせてしまう確かな説得力に感心した。

また、この話ではCメロがサビとして描かれている。

個人的にはCメロとサビは異なるものだと認識していたが、恋愛におけるCがセックスであることを考慮すると絶妙な喩えだと感服した。

『ABCDC』は息が詰まるような切迫感が常に展開されていく。

あの窮屈さをメロディーも感じているのかと思うと楽曲をより身近に感じる。

その親近感の対象が作り手ではなくメロディー自体というのも新鮮な感覚で面白い。

第六話「チョコレートと自由の国」

楽曲を聴くと、どんな物語なのかある程度想像がつくが、全く予想外だったのは『ミルクリスピー』を題材にした「チョコレートと自由の国」だ。

恋愛に溺れている姿が描かれた甘ったるい歌詞に、人肌の温もりを感じるバンドサウンドから想像すると、恋愛中の男女が描かれるのかと思いきや、この物語にはそのような男女は一切出てこない。

 

主人公は上野アメ横の服屋で働いている男性。

休憩がてら外に出て一服しようとすると、そこには大抵「彼」が道ゆく少年を自分の店に勧誘しているのだった。

彼の働いている服屋の横にはチョコレートの叩き売りの店があったことから、なんとなくガーナから来たように見えた。

そうじゃないとしてもおそらくその辺りの国出身であろう。

ある日の彼は大きな字で「FREEDOM」と書かれた服を着用していた。

主人公は店内で仕事をしていたが、通りが騒がしいことに気が付き外に出る。

目に映ったのは4人組の少年が彼を囲んでいる様子だった。

少年たちが逃げ去ったあと、彼は困ったような怒ったような顔をして鼻から血を流していた。

彼がTシャツの袖で顔を拭くと、服は真っ赤に染まった。

Tシャツには相変わらずバカみたいな言葉が書いてある、というストーリーだ。

 

楽曲とのチョコレートという共通項はあるが、再解釈によって予想外の形に変容した物語からは作家としての想像力の豊かさに感銘を受けた。

後味がいいとは決して言えない、歯に何かがつまったような読後感。

実際ガーナでは奴隷のように労働を課せられたり、実質的に人身売買をされてしまう児童がいるそうだ。

至るところで日常的に見掛けるチョコレートが、地球を半周回った所で生活をしている人に影響を与えていることに、ほとんど日常味を感じない。

話があまりにも大きすぎて他人事のような感覚に陥る。

胸を痛めるような現実がそこにはあるというのに。

甘いのに甘くない「痛み」が『ミルクリスピー』とは違う形で覆いかぶさってくるようだった。

おわりに

本書の冒頭に、音楽評論家になりきった文体で、

一曲一曲を聴き手の方で好きな様に捻じ曲げて何処へでももっていけるということを感じた。

とあった。

音楽評論家を揶揄したような文であったため、どこまでが本心でどこまでが皮肉なのか、正直分からないが、その後にあった、

アーティストを疑う気持ちも大切ではないだろうか

という一文には確かに刺さるものを感じた。

「疑う」というと言い過ぎかもしれない。

提供された料理をそのまま食べる喜びももちろんあるが、好きなようにスパイスを振り掛けたり、食べ合わせを変えてみたりと、音楽はもっと自由な楽しみ方が出来るはずなのだ。

 

楽曲をリリースした後、その曲をどう解釈し昇華するのか、ほぼ受け手にかかっていて、作り手がそこに介入するのは難しい。

音楽雑誌を読んだりして、アーティストの心境を紐解き、国語のテスト的に正しく楽曲を解釈することもできるが、作り手の感情を一切排除し、手垢にまみれて愛おしく汚すことこそが、むしろ音楽のピュアな楽しみ方かもしれないと『信じていたのに嘘だったんだ』を読んで感じた。

作り手と受け手の感情が違うからこそ、特別な一曲になる場合もあるのではないだろうか。

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