江國香織は好きな女性作家の一人で、特に『すいかの匂い』などの子供が主人公の短編集や『都の子』などのエッセイが好きです。
『きらきらひかる』は江國香織の初期の傑作。LGBTQ問題や家族の多様性に切り込み、時代の先取りしています。むしろ今だからこそ大勢の人に読んでほしい、時代に即した小説です。
睦月と紺のゲイカップルの甘く爽やかなやりとり、主人公の笑子を含めた疑似家族が織り成す幸せな日常に心がうずうずしました。
こんな人におすすめ!
- LGBTQについて関心がある人
- 一風変わった恋愛小説が読みたい人
- 江國香織の瑞々しい文体を味わいたい
あらすじ・内容紹介
主人公は結婚適齢期の独身女性・笑子。親の勧めで医師の男性・睦月とお見合いをし、ひょんなことから互いの秘密を知ってしまいます。実は睦月はゲイで同性しか愛せず、笑子はアルコール依存症に苦しんでいたのでした。
お互いの悩みを知った笑子と睦月の仲は急激に接近、偽装結婚を決めます。
睦月には大学生の恋人・紺がおり、二人の新居にたびたび転がり込んでは笑子も交えて楽しい時間を過ごしました。
性別を超えた友情を育む三人ですが、「早く子供を」と望む親やすでに家庭を持った友人が与えるプレッシャーに笑子は追い込まれていきます。
次第に笑子は精神の均衡を崩し、そんな彼女を懸命に支える睦月にも世間の偏見の余波が及ぶのでした。
三人の運命はどうなってしまうのでしょうか?
『きらきらひかる』の感想(ネタバレ)
発表当時、『きらきらひかる』は新しい小説でした。
物語の核となるのはゲイカップルとアルコール依存の女性三人の疑似家族。このうち紺と睦月は恋愛関係ですが、笑子はどちらにも性的関心を持たず、あえて分類するなら親友の立場で見守っています。
LGBTQ問題が表面化し、法整備が進む前に本作が世に出たことは非常に大きな意味がありました。
江國香織の文章は今読んでも瑞々しく、価値観は全く色褪せていません。長い歳月を経て、ようやく時代が追いついた感すらあります。
『きらきらひかる』は多様性を描いた話です。ゲイの偽装結婚が発端、と乱暴にまとめてしまうのが恥ずかしくなるほど三人の関係は風通しがよく、お互いを尊重し合ってるのが伝わってきました。
情緒不安定な笑子に献身的に尽くす睦月が良い例で、従来の夫婦愛とは異なる、プラトニックな絆が印象的です。
人生のパートナーと理解者はイコールかもしれませんが、必ずしも睦月を独占し、夫の役割を押しつけてはないのが笑子の美点。
睦月の方も夫の強権で笑子を束縛はせず、病んだ彼女が抱えた生き辛さを受け止め、穏やかな日々の中で癒していきます。
笑子と睦月が上手く行ったのは、紺がいたからだと解釈できます。
睦月を共有することで連帯感を強め、精神的な絆で結ばれた紺と笑子の関係はもっと広く認知されてもいいと思いました。
まとめ
LGBTQの権利に関心が高い人や当事者、一風変わった恋愛小説をお探しの方は、ぜひ『きらきらひかる』を読んでください。
笑子や睦月、紺の日常を垣間見れば、正常と異常の境界に線引きする不毛さ、社会が押しつけた役割や枠組みにこだわって、無理して「普通」であろうとする馬鹿馬鹿しさがよくわかるはずです。
ラストの笑子の選択は賛否両論でしょうが、彼女がそうせざるを得なかった背景を省みて、誰もが生きやすい社会を作る取り組みの困難さを痛感させられました。
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