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『雨のなまえ』あらすじと感想【出口の見えない現代を生きる5つの雨物語】

『雨のなまえ』あらすじと感想【出口の見えない現代を生きる5つの雨物語】

降りそそぐ雨のような短編集、と言われたらどんな短編集を想像しますか?

窪美澄さんが描く、出口の見えない「現代」を生きる五つの物語が収録されています。

そんな鋭く胸に刺さるような力に満ちた短編集です。

こんな人におすすめ!

  1. 最近、心配や不安を抱えながら過ごしている人
  2. 現実的で正直な物語が好きな人
  3. 雨の日が好きな人
  4. まとまった読む時間をとることが難しい人

あらすじ・内容紹介

出産を間近に控えた妻に怯える男を描く「雨のなまえ」。

パート先で働く大学生に恋する中年の主婦を描く「記録的短時間大雨情報」。

美しい女と2人だけの世界に浸る男を描く「雷放電」。

心に傷を抱えながら、いじめ問題にあたる中学教師を描く「ゆきひら」

仕事と子育てに追われるシングルマザーを描く「あたたかい雨の降水過程」。

答えのない現代を生きることの困難と希望が綴られる5編の短編集です。

 

『雨のなまえ』の感想・特徴(ネタバレなし)

「雨のなまえ」のなまなましさ

読めば読むほど凄みを感じる短編が表題作「雨のなまえ」です。

単に浮気や結婚生活の破綻を描いた小説ではないのは読み進めていくと分かっていきます。

正当化できるような答えがあるわけでもなく、妻と家庭と人生そのものに追い詰められていく男の姿がなまなましく描かれていくのです。

それが降りしきる雨の描写で鮮やかに心に残っていきます。

また男以外の登場人物の姿もやけになまなましい。

マリモはおれの目をじっと見て唇をとがらせ、口のなかに入っているものをおれの顔の上に垂らそうとした。やっ、やめっ、と顔をそむけて言うと、マリモは口の端だけをかすかに上げて、ばかにしたような顔で笑い、腕を伸ばしてティッシュペーパーを乱暴に引き抜くと、おれが放ったものを吐き出してから、飲み込むもんか、と小さな声で言った。

はっきりとした心理が明記されているわけでもないのですが、浮気相手との性描写の中にもそれぞれの気持ちがのしかかってくるような存在感を感じます。

妊娠を最後の砦として男をつなぎとめようとする妻の姿も合わさって、読み進めていくとますます目が離せなくなっていきます。

異質なのに、身近に感じる描写の積み重ねに惹きつけられました。

「雨のなまえ」の読後感

男は自分に選びようのない選択肢を突き付けてきた携帯電話を投げ捨ててしまいます。

私自身、何度か読み返した作品ですが、読み返す度に新しい凄みを感じます。
それは時間と共に自分の状況や気持ちが変わっているということもあるでしょうし、存在感ある登場人物の織り成す場面で惹かれるポイントも変わるからだと思います。
読み終わった後はしばらく「雨のなまえ」の世界から抜け出せないような静かでずっしりとした余韻を感じていました。

その他の4つの短編の感想

「雨のなまえ」だけではなくその他4つの短編も負けず劣らず矛盾をはらんだ人の生き方や想いが描かれた作品です。

どれも過酷で厳しさのある状況の中で生きる登場人物の差し迫った気持ちを感じてしまい、読み飛ばすことができず、一つ一つ大切に読み進めました。

「記録的短時間大雨情報」は「なんなの?!」と叫びたくなるようなラストの展開に驚きました。後悔のないような生き方というのはよくある判断基準だと思うのですが、お義母さんの話すことなど細部の描写を読んでいる内に、主人公の女性にとって何がいい選択だったのか分からなくなりました。

「雷放電」にも驚きがあります。こんな話だったのかという驚きは最後まで読んで共有したくなる種類のものでした。

「ゆきひら」の描かれる男に訪れる結末は理不尽にも感じますが、読みながら混乱も感じました。読むだけで痛さを感じるような出来事と男が囚われ続けているものは物語を単純に一言で語れない重みがあります。

「あたたかい雨の降水過程」は、この短編集の最後を飾ってくれていて救われる想いでした。困難の中にも光が差すようなラストに嬉しくなりました。

どの短編もそれぞれの色がありつつ、共通してどれも読みごたえがあって心に刺さる短編ばかりなので、贅沢な短編集です。

まとめ

行き場のない気持ちや出口の見えないこれからを読みながら追っていくと苦しくてつらい気持ちになります。

それでも自分の気持ちを惹きつける事柄や心理描写があって次へ次へと読みたい気持ちにさせられました。

5つの短編はそれぞれ違った職業や立場の人が描かれているので、どの物語も違った角度で現代を生きることを感じさせてくれる小説です。

明るさに満ちてはいませんが、けして易しくない現実の中で、気持ちの切り替えになるような、文章に浸らせてくれる一冊でした。

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