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『静かな雨』原作小説あらすじと感想【蓄積されない記憶の中で2人は世界を重ねていく】

『静かな雨』原作小説あらすじと感想【蓄積されない記憶の中で2人は世界を重ねていく】

本書は宮下奈都さんの最初の作品で、表題の『静かな雨』と『日をつなぐ』の2作で構成されている。

表題の『静かな雨』は2019年に仲野太賀・衛藤美彩W主演で映画化もされている。

宮下奈都さんらしい綺麗で静かな文章で物語が進んでいく。

思い出とは、記憶とは何なのかを考えさせられる優しく切ない物語。

『日をつなぐ』の方は、現在子育て中の方や子育てで疲れている方にはストレートに響く内容となっている。

どちらも共通して、食べ物と音楽が人をつないでいる。

こんな人におすすめ!

  • 子育て中の人
  • 短めの小説が読みたい人
  • 穏やかな文章が好きな人
  • 綺麗な恋愛小説が読みたい人

あらすじ・内容紹介

◯『静かな雨』

主人公の行助(ゆきすけ)は、クリスマスの日に会社が倒産したと知らされる。

帰り道、何気なく立ち寄ったたい焼き屋さんで食べたたい焼きの味が忘れられず、またそこでたい焼きを焼いていたこよみさんという女の子にも惹かれて通うようになり、2人は徐々に仲良くなる。

こよみの焼くたい焼きは普通のたい焼きとは違い、全てがちょうど良かった

仕事に対する熱心さにも行助は惹かれていく。

ある朝こよみが交通事故に巻き込まれ、高次脳機能障害と診断される

新しい記憶が脳に留まらなくなってしまったこよみに戸惑いながらも寄り添う行助だが、そこには優しい時間と不安が共に流れていく

記憶が上書きされていかずとも、2人の間には育っていく何かがあり、2人の世界は重なってゆく

◯『日をつなぐ』

同じ中学校に通っていた真名(まな)と修ちゃん(しゅうちゃん)の恋愛から始まり、中盤からは妊娠、出産育児の話になってくる。

序盤のやんわりとした雰囲気から一転、中盤から突然現実味のある雰囲気へと変わり、子育てをしている人なら誰でも味わったことのある感情が淡々と描かれている。

『静かな雨』の感想・特徴(ネタバレなし)

惹かれあう2人

僕は誰とも触れ合わない。誰かが僕に体当たりしてきたって僕は何も感じない。なんだか強くなったみたいだ、と小学生の僕は思った。

片方の足に先天的な麻痺があり、いつも松葉杖を使っていた行助が、小学生の頃に地球の自転を習い、人間は地球の自転を止められないということから、どうにもならないことを受け入れるということについて小学生の時に感じた感情がこれである。

たい焼き屋で出会った2人は次第に仲良くなり、こよみは最初に見た時の行助の瞳が忘れられないと言う。

諦めが半分見えたけど、それは綺麗だったというこよみの感じ方に彼女の人生もまた簡単なものではなかったのではないかと推測出来る

私もこよみと同じで、綺麗な諦めなら潔さになると思うタイプだ。

諦めには2種類あることをこよみは知っていたので、読んでいて私は嬉しくなった。

諦めが見えても綺麗だった行助の目は、誰にもどうにもならないことを受け入れた輝きがあったのだろう。

一方行助は、

あのやたらおいしいたいやき、それとあのまっすぐな感じの女の子

直感で惹かれているように感じ取れる。

きっとたい焼きそのものにこよみの人間性が出ていたのではないだろうか

最初の印象から惹かれていた2人は、少しずつ仲良くなっていく。

行助の想い

行助がこよみのたい焼きを食べた時の感想がとてもおいしそうで、たい焼きが食べたくなる描写がたくさん出てくる。

その中でもおいしさの最大限の表現だと思ったのが、

おいしさに力がある。それまで胸を占めていた負の感情が一瞬にして取り払われる。

この感じ方である。

どれくらいおいしいたい焼きなのだろうと思ったが、誰でもこよみのたい焼きのようなものを1つは持っているのではないだろうか

自分にとって、あると一瞬で心が晴れるようなものは生きていく上で、それがどんなに小さなことでもとても力になるし、寄り添ってくれる

行助はこの時、いつもこよみに寄り添ってもらっていたのだろう。

だからその後、こよみが事故に遭い、記憶が蓄積されなくなってしまっても自分もこよみに寄り添うことが出来たのだ。

葛藤と矛盾とやさしさ

日々の記憶が蓄積されなくなってしまったこよみと、それに寄り添う行助の姿に読んでいるこちらも気持ちが優しくなれた

こよみさんからさらさらと流れてくる日々が、僕にだけ積もっていった。

こよみさんの中に残っていかなくても、僕の中に残っていれば、少しはましじゃない?

この部分はなんとも切なくて胸が締め付けられた。

しかし行助は、自分の感覚が変わったことに気づく。

恋をすると、人間の感情は強くクリアになる。

この時、小学生の時に諦めていたどうにもできないことをどうにかしたいと思う気持ちが蘇ってきていたのかもしれない。

やはり終盤になると、行助の感情は揺れ動き、矛盾していく

僕が守っていくはずのこよみさんを僕が殴打する

悲しいがそこに人間らしさが感じられ、その後の展開も切ない気持ちで読み進めたが、文章が綺麗で優しいので、ものすごく激しく心揺さぶられることなく、静かにじんわり、行助とこよみの気持ちに浸っていけた

理不尽な感情や矛盾してしまう感情こそ人間らしいのかもしれない。

どのように2人は重ならない日々を重ねていくのか。

答えは明確に示されていないが、読者それぞれに任せてくれているように物語は終わっていく

 

物語の中で2人の関係性の次に魅力的なポイントが、こよみの人生観である。

記憶が蓄積されなくなったこよみが何故またたい焼きを焼くことが出来るのかは、事故の前の生き方にある。

人生の広さは自分の世界を広げることにあり、人生の深さはひとつの世界にどれだけ深く関われるかだと語るこよみは、深さをすでに持っていたのだ。

ただ、新しいものを広げていけなくなりどう感じていたのかは、物語全体から読者が自分の感覚で読み取ることとなる

そこに余韻が感じられ、胸がいっぱいになる。

まとめ

2つの作品に共通して出てくるのが食べ物なのだが、こちらは豆のスープが物語に彩を添えている。

なんとも苦しい、おいしそうなのに泣きながら食べるような物語だ。

どちらも思うのは、雨を止ませなくても、一緒に雨を感じてくれる人がいれば心は軽くなるはず、ということだ。

みなさんは本書の終わり方をどう感じるだろうか。

ぜひ本書を読んで確かめてみてほしい。

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