『朝が来る』原作小説あらすじと感想【「特別養子縁組」をテーマに子どもをめぐる繋がりを描く家族の物語】

『朝が来る』原作小説あらすじと感想【「特別養子縁組」をテーマに子どもをめぐる繋がりを描く家族の物語】

子どもを持つということ。

ある程度の年齢になれば、誰しもそのことについて考えることがあるだろう。

子どもを持つ・持たないの考え方は人それぞれだが、中には望んでも子どもを授かれない場合がある。

一方で、様々な事情から、望まない子どもを妊娠してしまう人もいる。

そのような場合、子どもは一体どうなるのか?

これから紹介する作品は、「特別養子縁組」をテーマに、子どもをめぐる繋がりを描いている。

「特別養子縁組って何?難しそう……」「親子になっても、結局血は繋がってないんでしょ?」「望まない妊娠なんて自業自得だ」と思った人にこそ読んでほしい作品だ。

こんな人におすすめ!

  • 養子縁組に関心がある人
  • 子どもを持つことを考えている人
  • 家族って何なんだろう?と考えたことがある人

あらすじ・内容紹介

栗原清和(きよかず)・佐都子(さとこ)夫妻は、30歳で結婚し、2人だけの生活を楽しんでいたが、あることをきっかけに子どもを持つことについて真剣に考えるようになる。

不妊治療を開始した栗原夫婦は、様々な方法で妊娠を試みるが上手くいかない。

遠方の病院にまで通うようになった栗原夫婦だったが、不妊治療の負担の大きさから、子どもを授かることを断念する。

ある日、夫妻はテレビで特別養子縁組について知る。

子どもを授かれない人と事情があって子どもを育てられない人を繋ぐ制度に関心を持った夫妻は、「ベビーバトン」という支援団体を通じ、養子を受け入れることとなる。

朝斗(あさと)と名付けた子はすくすくと成長。

3人はごく普通の家族として、平穏な毎日を送っていた。

 

そんなある日、夫妻のもとに「子どもを返してほしい、それが嫌ならお金を用意してほしい」という電話が入る。

戸惑う夫妻だったが、電話の主と会って話すことを決意する。

やってきた若い女性は、朝斗の産みの親だと話すが、夫妻は「彼女はこんなことをする人ではない」という理由から女性の正体を疑う。

果たして、この女性は一体誰なのか?

『朝が来る』の感想・特徴(ネタバレなし)

子どもを持つことをめぐる、価値観の相違

30歳で結婚してから、2人だけの時間を楽しんで暮らしてきた栗原夫妻。

その生活は、35歳の時に佐都子の母からかかってきた、妊娠を急かすような電話をきっかけに変化していく。

子どもは、いなくても構わないと思っていた。

清和とも、そんなふうに話していた。いつか自然とできるならそれでもいいが、このまま二人だけで暮らしていくのでもいいのではないか。

けれど、こんなにも疑いなく、それまで何も話さなかった母が子どもは作って当たり前だと思っていたことを知って、佐都子は驚いていた。保守的な、昔の人である母と、それ以上は話しても平行線だろうという気がした。

今は、多様な生き方ができる時代だ。

「結婚=子どもを持つ」という図式がなくなり、夫婦2人だけで生活をする、いわゆるDINKs(ディンクス)と呼ばれる人たちも増えている。

しかし、上の世代にはまだまだ「結婚=子どもを持つ」という価値観を持つ人が多いのも事実だ。

結婚をした女性が、家族や親戚、職場の上司などに「まだ子どもは作らないの?早くした方がいいよ!」等と言われて困惑する、というような話は未だに見聞きする。

結婚してすぐに子どもを持つことが正解と考えている人と、子どもを持たずに生きていく人生を歩みたい人との間に、価値観のズレが生じてしまっているのだ。

 

また、夫婦間でも考えの相違が起こってしまうことがある。

子どもを持つことにあまり乗り気でない佐都子が、清和に母からの電話の話を伝えたところ、清和が自分よりも子どもを持つことに積極的な姿勢を見せてきたことに内心驚く場面がある。

「子どもはいなくても構わない、自然にできたらその時に考える」と話していたはずなのに、実は子どもを欲しいと思っていたのか?と、佐都子は戸惑う。

 

最終的に栗原夫妻は子どもを持つことを選び、不妊治療の道へと進んでいくが、そこには厳しい道のりが待っていた。

治療が成功しなかった、と判明するごとに、栗原夫妻の落胆と重くなっていく気持ちがこちらにまでのしかかってくるような感じがしてくる。

朝斗がやってきてからの家庭は幸せそのものといった様子だが、それまでには幾多の苦労があったのだ。

それを踏まえると、子どもを持つための道は1つではないのだということが分かるし、何度も向き合って考え、力を合わせて乗り越えてきた夫妻の強さに強く惹かれる。

 

子どもを持つことに対する価値観の違いから、両親や周囲の人とぶつかってしまったり、言われたことに不快感を感じたりしてしまうことはままある。

しかし、子どもを持つことが幸せとは限らないし、子どもを持つことが絶対ではない。

それはその夫婦が決めることであるし、外野がとやかく言うことではないのだ。

望まない妊娠と、それをつなぐ「特別養子縁組」

地方に住む中学生の片倉ひかりは、人気者でモテる男子の(たくみ)に告白され、付き合うことになる。

デートを重ねるうち、2人はセックスをすることが当たり前になっていた。

ある時、ひかりの体調に異変が生じる。

彼女は、妊娠していたのだ。

すでに中絶できない時期に入っていたことから、彼女はひとり広島にある「ベビーバトン」の寮で出産までの日々を過ごすことになる。

その、ひかりの子どもを引き取ったのが栗原夫妻だ。

 

ひかりは自分の子どもを育てたかったが、両親に反対され、やむなく子どもを特別養子縁組に出すことになる。

望まない妊娠だったものの、好きな人との間にできた子どもをひかりは手放したくなかったのだ。

中絶できないなら、出産した後でどこかに渡せばいい、それでなかったことにできる、という考え方は、間違っていると確かに思えるのに、今は、それを言うひかりの方がおかしいという空気しか、ここにはない。

本当に好きな人との間にできた、育てられない子ども。

育てたいという気持ちと、今後の自分はどうなるのかという不安と、恋人への想いに揺れるひかりの心情に心が揺さぶられる。

自分が同じ立場だったらどうしたかを考えてしまうからだ。

 

産まれてきた子どもを泣きながら栗原夫妻に託す姿には、それまでのひかりの想いを知っているからこそ、駆け寄って抱きしめたくなるような気持ちになる。

元はと言えば、ひかりや巧の認識の甘さや知識不足が原因かもしれない。

けれど、ひかりの我が子を思う気持ちに、偽りはなかったと思うのだ。

様々な事情があって、産みの親が育てられない子ども。

その子どもを望んでも授かることができなかった夫婦。

その2つを繋いでくれる特別養子縁組という制度が、もっと世の中に広まってほしいと願っている。

「家族=血のつながり」じゃない

先述したように、栗原夫妻と子の朝斗は血が繋がっていない。

しかし、本当の家族として幸せな毎日を送っている。

一方、中学生のひかりは、杓子定規で真面目な両親のことを煩く思っている。

特に母親はひかりの気持ちを理解するよりも、自らの正義を押し付けてくるタイプの人だった。

子どものことを親が心配するのは当然のことだ。

けれど、それは時に干渉するための免罪符になり得る。

家族って、なんだ。

打ちひしがれるように、思っていた。

家族って、親戚って、なんだ。

私はいつになったら、この人たちの家族や親戚をやめられるのか。いつまでこの母の娘でいればいいのか。

心配している、というただそれだけの言葉で、全てが許されてしまうのか。

胸を突く、その衝動は強かった。

血の繋がりがあっても、分かり合えないことや、どうしても相容れないことがある。

理解できないことも、受け入れられないこともある。

血の繋がった家族だからといって、必ずしも仲良く暮らせるわけではない。

一方、血の繋がりがなくても、本当の家族として共に生きていくこともできる。

 

家族というものは、血の繋がりというものに甘えているだけでは、決して良い関係は築けないのだと思う。

血が繋がっていようとなかろうと、「家族」としてやっていくためには、お互いを1人の人間として尊重し合う気持ちが必要なのかもしれない。

まとめ

子どもを持つかどうかということや、家族とどう関わっていくかということは、誰もが人生の中で一度は考えることになる課題だ。

そういったことを考えた時の1つの参考として、この本をぜひおすすめしたい。

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