数多の世界を旅する青年、〈門矢士(かどや つかさ)〉。
彼の瞳に映るのは、光か、闇か。
仮面ライダーディケイドとして世界を救う旅の中で出会うのは、異なる世界の仮面ライダーたち。
旅の果てに待つものを探して、彼は彷徨い続ける。
テレビドラマ『仮面ライダーディケイド』を大幅に〈リ・イマジ〉した、待望の小説版。
目次
こんな人におすすめ!
- 少し残酷な物語が好きな人
- 仮面ライダーディケイドが好きな人
- 仮面ライダーディケイドの物語に納得がいかなかった人
あらすじ・内容紹介
〈仮面ライダーディケイド〉として9つの世界を救う旅を続ける青年、門矢士。
彼の旅路で待ち受けるのは、人をゲーム感覚で殺す怪人〈グロンギ〉や愛する者の姿を模して惑わせる怪人〈ワーム〉、時を壊そうとする魔人〈イマジン〉。
そしてそんな彼らと戦う、それぞれの世界の〈仮面ライダー〉たちだ。
残酷な怪人と、勇気に満ちた英雄との出会いの中で、門矢士は何を見出すのか。
そして、彼の旅に纏わりついてくる謎の少女〈光夏海(ひかり なつみ)〉や、もう1人の仮面ライダー〈ディエンド〉に変身する男〈海東大樹(かいとう だいき)〉、門矢士の旅を終わらせようとする謎の存在〈鳴滝(なるたき)〉たちの正体とは?
テレビ版『仮面ライダーディケイド』とは大きく異なる、もう1つの〈ディケイド〉の物語!
『小説 仮面ライダーディケイド 門矢士の世界〜レンズの中の箱庭〜』の感想・特徴(ネタバレなし)
本編を大きく〈リ・イマジ〉したオリジナルストーリー
通りすがりの仮面ライダーさ
テレビ版『仮面ライダーディケイド』は平成仮面ライダー誕生10周年を記念した、所謂1つの〈お祭り作品〉だ。
その大きな特徴は、過去の仮面ライダーたちを、キャストも設定もオリジナルとは異なる〈リ・イマジ〉世界のキャラクターとして登場させたことだろう。
それぞれの世界で悩みや葛藤を抱える仮面ライダーたちが、主人公〈門矢士〉と関わることによって成長を遂げていくという物語の基本構成は、1つの王道ストーリー展開であった。
『小説 仮面ライダーディケイド』は、そんな『仮面ライダーディケイド』という作品を、媒体を変えて〈リ・イマジ〉した作品と言っても過言ではない。
物語の主人公である青年、門矢士は、仮面ライダーたちの世界を巡る旅を〈仮想現実〉、あるいは〈ゲーム〉の中の出来事としか捉えていない。
旅の中ではテレビ版を思い出させる強気な彼は、しかし自分の世界に戻ってくれば自分に自信のない陰気な青年だ。
そして、彼を取り巻くキャラクターたちの様子も、大きく様変わりしている。
明るいヒロインであった光夏海は、正体の知れない謎の美少女。
もう1人の仮面ライダー、〈仮面ライダーディエンド〉であった怪盗を名乗る青年、海東大樹も敵か味方かは全く読めない。
お祭り騒ぎ的だったテレビ版とは異なる、息苦しくなるようなキャラクターとストーリー展開は、しかし緻密に計算された美しさも醸し出している。
本編とは大きく異なる残酷で美しい物語を、是非とも味わって欲しい。
あのキャラクターたちが登場!
僕は野上良太郎です
テレビ版『仮面ライダーディケイド』は、過去の仮面ライダーが皆登場するという物語の構造上、キャスティングなどの関係から〈リ・イマジ〉という手法を用いてそれぞれの仮面ライダーのキャラクターや世界観を変更し、ストーリーを展開していた。
しかし、今作の媒体は〈小説〉である。
キャスティングの都合に影響を受けることのないこの媒体では、かつて各々の世界を救ってきた、オリジナルの〈仮面ライダー〉が登場する。
冒険家、〈五代雄介(ごだい ゆうすけ)〉が変身する、〈仮面ライダークウガ〉。
自信過剰な万能家、〈天道総司(てんどう そうじ)〉が変身する、〈仮面ライダーカブト〉。
不幸体質ながらも強い心を持った青年、〈野上良太郎(のがみ りょうたろう)〉が味方のイマジンと共に変身する、〈仮面ライダー電王〉。
彼らは、それぞれの作品の主役を務めたオリジナルの〈仮面ライダー〉たちだ。
〈リ・イマジ〉の世界では、それはそれで魅力的であったが、やはりオリジナルのキャラクターたちの登場には、興奮を抑えきれなくなるのではないだろうか。
そして彼らと門矢司の出会いや掛け合いは、きっとファンの期待に応えてくれるだろう。
きちんと1冊で完結!
嫌いなやつが一人死んだだけでこんな気持ちになるんだ。俺はこの世界で失いたくないものが、きっとたくさんある
テレビ版『仮面ライダーディケイド』で大きな波紋を呼んだ、最終回。
まさかの〈劇場版に続く!!〉エンドに呆気にとられたファンは、数知れずではないだろうか(御多分に漏れず、筆者もその1人である)。
しかし、この小説版はきちんと1冊で物語にケリをつけるので、そこは安心して読んで欲しい。
『仮面ライダーディケイド』という作品は、放送当時の平成ライダー(クウガ〜キバ)の9つの世界を巡る、というのが大きなコンセプトの1つだった。
本作でもそのコンセプトはブレてはいないが、無理に9つの世界、9人の仮面ライダーを出すのではなく、その中から特に実写での再現が無理そうなキャラクターたちの世界に焦点を当てたことで、物語が冗長になりすぎることや、ストーリー上の破綻を起こすといった事態を見事に回避している。
コンセプトを再現しつつも、1冊の小説として物語を美しく完結させているので、是非とも〈続編に続く!〉に怯えることなく、安心して物語の世界に浸って欲しい。
まとめ
ファンの間で激しい賛否を呼んだ『仮面ライダーディケイド』の小説版である本作は、映像作品ではない故に大胆な〈リ・イマジ〉に踏み切っている。
テレビ版の『仮面ライダーディケイド』とは、コンセプトは共にしていても非常にかけ離れた作風であることは間違いなく、おそらくはテレビ版のファンであったとしても受け入れられない人は一定数いるかもしれない。
しかし、今作はまずもって〈1冊の小説〉としても高い完成度を誇る作品だ。
食わず嫌いはもったいないので、一度でいいから目を通してみて欲しい。
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