ホラー作家が巨額の費用をかけて作り上げた廃墟庭園、〈魔庭〉。
行方不明者が続出し、ついには作家自身までが失踪を遂げたその館で繰り広げられる、凄惨な殺戮の数々。
襲いくる黒怪人とは何者なのか。
その目的とは何なのか。
ホラーミステリー作家・三津田信三氏が描く、戦慄のジャッロ・ホラー‼︎
目次
こんな人におすすめ!
- ミステリが好きな人
- スプラッタ作品が好きな人
- 三津田信三氏の作品が好きな人
あらすじ・内容紹介
大金を手にしたホラー作家、〈廻数回一藍(えすえいち あい)〉が、巨額の費用をかけて作り上げた廃墟庭園、〈魔庭〉。
そこは行方不明者が続出し、制作者たる廻数回自身すらも失踪を遂げ、更には遺体で発見される者まで出たという、曰く付きの館。
映画『スラッシャー 廃園の殺人』の撮影を行うために〈魔庭〉を訪れた、ビデオ制作・販売会社〈プロフォンド・ロッソ〉の関係者は、正体不明の殺人鬼〈黒怪人〉の恐怖に晒される。
まるで決められたシナリオを守るかのように、次々と殺戮を繰り返す〈黒怪人〉。
あるものは磔にされ、あるいは岩山に固定されて惨殺され、またあるものは殺戮の様子を見せつけられる。
凄惨な殺戮を繰り返す〈黒怪人〉の正体と、その目的とは?
謎めいた廃園で、狂気と殺戮のカーニバルが始まる。
ホラーミステリー作家・三津田信三氏が描く、戦慄のジャッロホラー、開幕‼︎
『スラッシャー 廃園の殺人』の感想・特徴(ネタバレなし)
忌み忌みし廃園で繰り広げられる、殺戮の嵐
た、助けてくれぇ!
スプラッタ作品の魅力は、息もつかせぬ殺戮の様子であろう。
今作でも当然、性的快感すら感じさせる凄惨な殺戮の様子が、息もつかせぬ勢いで展開していく。
ナイフを持った全身黒ずくめの殺人鬼、〈黒怪人〉が映画関係者を次々と嬲り、怯えさせ、そして殺害していく様子は非常に痛快で、読むものを魅了するだろう。
更にそこに、三津田が描く廃園、〈魔庭〉の描写が加わることで、今作は更に美しさを増す。
巨額の費用を投じて作られた〈魔庭〉は、断崖絶壁に繋がるドアや迷路のように入り組んだ構造、あちらこちらに配置された不気味な装飾、〈鉄の処女〉を始めとした大量の拷問器具などの悪趣味な造りと、〈廃墟庭園〉としての退廃的な空気感が相まって、悪夢のような壮麗さを見せつけてくれる。
謎めいた不気味な廃園〈魔庭〉の中で迫ってくる、凄惨な殺戮を繰り返す殺人鬼〈黒怪人〉。
スプラッタ作品が好きな人には、堪らないシチュエーションではないだろうか。
美しい残酷描写と、退廃的な廃園の空気感を堪能して欲しい。
仕掛けられた数々のヒントと、殺人鬼の正体
あなたは……まさか……
今作は単なるスプラッタ作品ではなく、その中でも〈ジャッロ〉と呼ばれる分類である。
〈ジャッロ〉とは、簡単に言えば〈犯人当てに主眼を置いたスプラッタ作品〉のことだ。
それ故、よく読み込めば犯人を当てることができるヒントが、物語のあちこちに隠されている。
美しい殺戮の様子に魅入られるだけでなく、丹念に物語を読み進めていけば犯人を当てることが可能という、理知的な要素も詰め込まれているのだ。
しかし、ヒントは極めて巧妙に隠されている。
加えて、ミスリードに引っかかる可能性も充分にある。
真相を見抜いたと思っても、それすらも著者の掌の上であった、ということもあり得る訳だ。
悲鳴と血飛沫に惑わされず全体を丁寧に読み込んで、是非とも推理を働かせて見て欲しい。
きっと、気持ちよく騙されるはずだ。
各所に詰め込まれた、ホラー作品へのオマージュの数々
振り子だ!しかも刃が……、は、刃があるぞ!
今作には先行するスプラッタ作品やジャッロ作品へのオマージュが、ふんだんに盛り込まれている。
冒頭で男女に襲い掛かる〈振り子〉や、映画関係者が〈魔庭〉へ向かうまでに通り過ぎる看板に書かれた〈ホワイト・ウッド〉の文字からして、知っている人はニヤリとできるオマージュだ。
また、複雑に入り組んだ迷路から連想できる作品も数多くある(筆者は真っ先に『シャイニング』の生垣を連想した)。
その他、殺戮のシーンにも先行作品へのオマージュと思われる要素が多々存在している。
スプラッタ作品のファンであれば、どのシーンがどの作品のオマージュかを考えるのもまた、今作の楽しみ方の1つであろう。
三津田氏のスプラッタ作品への愛が溢れるこれらの要素を見ていると、如何に氏が楽しんで書いたのかが伝わってくる気もする。
また、今作の巻末に掲載されているホラー映画製作者・阿見松ノ介氏の解説を読めば、どの作品が何のオマージュかの答え合わせもある程度できる上、多数の作品も紹介されているため新たな作品との出会いもあるかもしれない。
あらゆる意味で、スプラッタ作品のファンにとって嬉しい作品となっている。
まとめ
退廃的な廃園〈魔庭〉の情景描写と、迫りくる殺人鬼〈黒怪人〉。
更に、先行するスプラッタ作品へのオマージュがふんだんに盛り込まれた今作は、えも云われぬ美しさと迫力、そしてニヤリとできる要素に満ち溢れている。
スプラッタ作品のファンであれば、是非一度は手に取ってみるべき小説だろう。
きっと殺戮の様子を堪能しながら、同時に気持ちよく騙されることができるはずだ。
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