オカルト的な超常現象が9人の男女を待ち受ける。
幽霊はいるのか?陰謀論は存在するのか?
『Chaos;Head』『STEINS;GATE』『ROBOTICS;NOTES』など、数々の名作ノベルゲームを生み出してきた〈5pb.〉による、科学×オカルト×群像劇!
目次
こんな人におすすめ!
- 群像劇が好きな人
- オカルトが好きな人
- 「科学アドベンチャーシリーズ』が好きな人
あらすじ・内容紹介
まとめブログ「キリキリバサラ」を運営する男子高校生の我聞悠太(がもんゆうた)。
彼の夢はブログの閲覧者を増やし、アフィリエイト収入だけで生活すること。
日々他サイトからオカルト記事をコピペし茶々を入れ続ける彼は、ブログのスタッフである成沢稜歌(なるさわりょうか)の指摘を受け、占いの人気配信者・相川美優羽(あいかわみゆう)が同じ学校の生徒であることに気付く。
閲覧者倍増を狙い早速スカウトに向かった彼は、彼女の“あなたのことを……待ってたんです”という意味深な言葉と共に協力を取り付けることに成功。
しかし、「キリキリバサラ」の余りの低レベルっぷりに呆れた美優羽は、巷で話題になっているオカルト肯定派の科学者・橋上諫征(はしがみいさゆき)と、黒魔術代行業を営む紅ノ亞里亞(くれないのありあ)にインタビューしてはどうか、という提案を投げかける。
初対面の人間に会うことに抵抗しながらも、渋々ながら提案を受け入れて橋上諫征の元に向かった我聞を持っていたのは、なんと彼の亡骸であった。
明らかに拷問を受けた痕があるその遺体との遭遇が、彼の運命を狂わせ始める。
『Occultic;Nine』の感想・特徴(ネタバレなし)
主人公の見ていられない痛々しさが魅力に変わる瞬間
呪いとかワロス! 幽霊なんているわけないっしょ! 超絶あり得んし!
今作を始めとした〈5pb.〉作品の大きな特徴の1つとして、主人公の痛々しさが挙げられる。
例えば『Chaos;Head』の主人公は、自らのテリトリーであるアニメの話題になった瞬間、早口で捲し立てる典型的なオタクだ。
『STEINS;GATE』の主人公は、見ているこっちが恥ずかしくなるほど重度の厨二病である。
今作の主人公である我聞悠太も御多分に洩れず、知人との会話では強気ながら、初対面の人間とはまともに会話ができないという、所謂コミュ症である。
ネットスラングを多用しながら、お手本のような内弁慶外仏っぷりを見せつけてくる彼の様子を見ていると、あまりの痛々しさに読んでいるこちらが恥ずかしくなってきて「もう読んでいられない」と感じることだろう。
しかし、そんな彼を魅力に仕立て上げるのが、〈5pb.〉作品の大きな特徴でもある。
主人公を待ち受けるのは、予想だにしない数々の悲劇。
あまりの惨劇に晒され続けることで、主人公の痛々しさは影を潜め、薄暗い絶望的な空気が作中に蔓延する。
打ちのめされ、痛々しさすら失った主人公は哀れの一言。
まるで、テンションが高くて少し鬱陶しかった友人が予想外の悲劇に見舞われ、その鬱陶しさを感じさせることもないほどに気分が沈んでしまっているような、そんな物悲しさを感じさせる。
しかし、だからこそ決意を固めた主人公が奮起し立ち上がる場面は、読者に大きなカタルシスを与え、その痛々しさの復活すらもカッコよく見えてくるのである。
途中で「もう見てられない」となることもあるかも知れないが、諦めずに読み進めて欲しい作品だ。
個性豊かなキャラたちの群像劇と襲いかかる大いなる陰謀
主人公を取り囲む周辺人物と襲いかかる大いなる陰謀も、今作の大きな見所だ。
特に今作は、これまでの〈5pb.〉作品とは大きく異なる群像劇。
様々なキャラクターの視点から物語が進行していく。
いずれのキャラクターも個性豊かであり、其々の視点からの物語は飽きることがない。
加えて、キャラクター達は互いに何かしらの関係で結ばれているため、例えば特定の人物に対して、其々の人物からの違った評価を知ることが出来るのも面白いポイントだ。
また、そんなキャラクター達に襲いかかる巨大な陰謀も〈5pb.〉作品ならでは。
『科学アドベンチャーシリーズ』で「300人委員会」なる組織が担っていた巨悪の役割は、今作では「MMC」という謎の組織が負っている。
全てが謎に包まれたこの組織は、物語の合間合間で挟まれる描写を見る限りにおいて、一市民の手に負えるものではないことが察せられる。
どう足掻いても主人公に勝ち目がないように見える過酷な戦いは、だからこそ「どうやって立ち向かうのか」という読者の興味を引き、ページを捲る手を止めさせない。
巨悪が影を落とす中で、ただ巻き込まれただけの9人の男女がどのように動くのかは予測不能であり、その予測不能っぷりが読者をより物語の世界へと引き込んでいくはすだ。
「ひょっとしたら幽霊はいるかも?」と思わせる疑似科学の説得力
魂は物理的に存在しない、という実証もどこにもありません。不可思議なことにフタをしているだけの科学には、私はウンザリでして
そして〈5pb.〉シリーズ最大の特徴は、その「疑似科学」とでも言うべき論理性であろう。
「99%の科学と1%のファンタジー」をコンセプトとして掲げる「科学アドベンチャーシリーズ」はこれまでも、『Chaos;Head』では妄想を具現化させる「ギガロマニアックス」という能力を、『STEINS;GATE』では人類の夢である「タイムマシン」を、其々に理屈をつけながら描いてきた。
いずれの作品も量子物理学や世界線というロジックを巧みに使いこなし、「それはそういうもの」で終わらせることなく、丁寧に理論付けており、其れが物語の完成度をより高めている。
今作では、未来予知や幽霊といった「オカルト」がその対象だ。
電気信号と魂、更には電気のスピードと意識のスピード、ニコラ・テスラが提唱した「世界システム」といった様々な要素を、不自然さを感じさせることなく繋ぎ合わせ、魂の存在だけでなく未来予知までもをロジカルに描き切る様は、物語をより魅力的に仕上げる極上のスパイスとなっている。
丁寧ながらも冗長とはならない解説は、読者に「ひょっとしたら有り得るかも」という思いすら抱かせるはずだ。
オカルトを紐解くロジックは、それだけで一読の価値があると言えるだろう。
まとめ
『Chaos;Head』『STEINS;GATE』『ROBOTICS;NOTES』など、数々の名作ノベルゲームを生み出してきた〈5pb.〉による、科学×オカルト×群像劇を描いた今作。
クセの強いキャラクター達が巨大な陰謀に巻き込まれていく様は非常に読み応えがある。
また、物語を彩る疑似科学の完成度も非常に高く、物語にリアリティを与えてくれる。
『科学アドベンチャーシリーズ』のファンだけでなく、単にオカルトが好きという読者でも楽しめる作品だ。
因みにこの作品、最新刊である3巻が発刊された2017年から先、続刊の音沙汰がない(千代丸さん、いつまでも続報をお待ちしております)。
アニメやゲーム版は完結しているので、先にそちら楽しむのもアリだろう。
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