ゲイ、レズ、ヘテロ、アセクシュアル……。
性的嗜好は人の数だけある。
必ずしも男が女を、女が男を好きになるのが正しい事とは限らない世の中において、されどLGBTの人々はまだまだ肩身が狭い思いをしているのが現状だ。
今回は特殊性癖の玉手箱、道満晴明の『ニッケルオデオン』から、LGBTが生きやすい世界の法則を考察していきたい。
法則その1:「少し不思議だけど間違いじゃない」と思える柔軟さ
本作にはあらゆる特殊性癖を持ったキャラクターが登場する。
ロリコンショタコンは序の口で、BLやGLも扱われているが、その描写は極めてフラットで「特殊」のハードルを感じさせない。
そしてこれらの特殊性癖は、SFテイストの世界観と非常に上手くコミットしているのだ。
本作に登場する教師と小学生のカップル(!)は、自分たちの関係がこの世界では決して受け入れられないと承知の上で、「オレたちふたりが幸せになれる場所」へと続くドアを開ける。
現実にはどこでもドアなんて存在しないし、男性教師と女子小学生の恋愛が表沙汰になろうものなら、淫行教師だの変態だのぼろくそに叩かれて引き離されるのは確実だ。
たとえ本人たちが合意の上で結ばれようとも、絶対的な正しさを振りかざす世間はほうっておかない。
私個人は世間寄りの考えで、プラトニックな恋愛に限るならともかく小学生と肉体関係を結ぶのは度し難いと思っているが、『ニッケルオデオン』は彼らにもちゃんと逃げ道を用意し、「きみたちが幸せになれる世界も、きっとどこかにあるよ」と言ってくれるのだ。
この言葉は「幸せになれない」と予め運命付けられたすべての人々にとって、救済装置として働く。
「少し不思議」はサイエンスフィクションの読み替えだが、性的マイノリティの人々に対しても「少し不思議だけど間違いじゃないよね」というスタンスをとることで、風通しのいい関係が築けるのではないか。
「不思議」とは自分の固定概念と異なる、未知の現象や関係性への好奇心だ。
ここに1枚のドアがあって、あらゆる性癖の持ち主が幸せになれる世界に通じていると仮定する。
ドアを開けた先では私たちの世界の性的マイノリティこそ祝福され、性的マジョリティが肩身の狭い思いをしているかもと試しに想像すれば、「少し不思議」な関係性を見直す機会が得られるのではないか。
法則その2:「好き」=「呪い」じゃない、と気付く
本作にはヤドクガエルにされてしまった姉の呪いを解く為、姉が片想いしている高校生に、キスをせがみにいく小学生がでてくる。
が、これは「王子様のキスでお姫様の魔法がとける」なんて単純な話にあらず。
何故なら王子様はロリコンで、ゾウすら殺すヤドクガエルになった姉にキスをする見返りとして、妹の身体を要求するのであった。
あらすじだけ抜き出すととんでもない話だが、彼は「俺の呪い(ロリコン)は一生消えない」と達観し、やけに大人びた妹はそれを非難するでもなく受け止めている。
ある種の人々にとって、生まれ持った嗜好は一生付き合っていかねばならない呪いだ。
家族や友人が受け入れてくれればまだしも自分らしく生きられるだろうが、小児性愛となればそうもいくまい。
ホモセクシュアルやレズビアンにしろ、最初から全面的に受け入れてもらえるのは少数派のはずだ。
しかし小児性愛者のすべてが子どもを力ずくでレイプするわけでなし、LGBTの人々に至っては性別にとらわれず恋愛しているだけで、なんら法律や道徳に反してない。
彼らが自分の性的嗜好を「呪い」と思い、周囲の迫害や偏見をその「報い」と定義してしまうのだとしたら、この世界こそおとぎ話よりナンセンスではないか?
性愛には色んなカタチがある。
それは相手に危害を加えない限り、いかなる時も尊重されてしかるべきものだ。
法則その3:明日世界が滅ぶとしたら、と想像する
病弱な男子高校生と、彼に片思いする友人のエピソード。
男子高校生の体力がもたない為、彼らは下校途中の公園で一休みするのを日課にしていたが、その公園が新開発で立ち入り禁止になってしまった。
そこで友人自ら15年分の寿命を払い公園に不発弾を投下、誰にも邪魔されず2人で休める場所を確保する。
彼にとっては大好きな友人と過ごせる今このひとときこそ、15年分の寿命に勝るものだった。
世界はいずれ滅び去り、人は死ぬ。
どんな想いや感情も宇宙の塵として消えていく。
宇宙的規模の視野で見れば、地球で行われる繁殖行為なんてごくささいなことだ。
子孫を残せと迫る外的プレッシャーや種の保存の命題から切り離され、純粋に自分の気持ちと向き合った時、そこに在る真実が不毛であるはずがない。
もし明日、隕石が衝突して地球が滅ぶなら誰が誰を好きになろうと関係ない。
誰もがもっと自分の気持ちに正直に、やりたいことをして生きるはずだ。
LGBTが生きやすい世界とは、明日地球が終わるかもしれないと皆が考えて過ごす世界かもしれない。
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