人気漫画『ワンピース』には、さまざまな敵が登場する。
敵ながら強い魅力を感じさせる人気キャラクターもいれば、ただ自分の欲望のみに忠実な下衆い敵もいる。
中でも「鬼畜」と称されることが多いのが、元王下七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴだ。
闇のブローカーとして大量の武器や人口悪魔の実「SMILE」を密売し、無数の悲劇の「影の立役者」として暗躍しているドフラミンゴ。
そんなドフラミンゴが王として君臨する王国・ドレスローザでは、作中屈指の絶望をはらんだ激しい戦闘が繰り広げられた。
国全体を巻き込んだ戦いの中で、筆者の意識はある二人の人物に注がれた。
彼らにはいわゆる「戦闘力」がない。
しかし、激しい戦場の第一線で、彼らは彼らなりの戦いを立派に繰り広げていた――。
迫る「鳥カゴ」、絶望のタイムリミット
ドレスローザにて真正面から激突する、麦わらの一味とドフラミンゴファミリー。
一味の面子は次々とファミリーの幹部を打ち倒していくが、ファミリーの首領であるドフラミンゴは手強かった。
覚醒した「イトイトの実」の能力を自在に操るドフラミンゴ。
おそらくはかなりの鍛錬を積んだのであろう多彩な技の数々を前に、さすがのルフィも苦戦を強いられる一方だ。
やがて、ドフラミンゴが作り上げた巨大な糸の檻「鳥カゴ」に閉じ込められたドレスローザ。
鳥カゴを構成する糸は触れるものを容易く切り裂き、その収縮に併せて、国中が混乱と悲鳴に満ちていく……。
小さな体で他者の傷を癒し続けたマンシェリー姫
そんな絶望の中、諦めずに戦い続けていた「力持たぬ者」の一人がマンシェリー姫だ。
小人のトンタッタ族の姫であり、ドフラミンゴファミリーによって長く囚われの身にあった彼女は、涙などの水分でもって生物の傷を癒やす「チユチユの実」の能力者であった。
その能力によって、戦闘不能になったドフラミンゴファミリーの幹部を回復させるよう強要されるマンシェリー姫。
しかし、マンシェリー姫は大粒の涙を流しながらこれを拒否する。
周囲に自分を守ってくれる味方が誰一人としていないにも関わらず、だ。
後に同じトンタッタ族のレオ達によって救い出されたマンシェリー姫は、今度はドレスローザ国民を癒やすために危険な戦場を駆け回る。
武器は 使えませんけど
悪い人はやっつけられませんけど
涙は… とめどなく溢れてくるのれす…!!
多くの罪なき人達が傷つき血を流す戦場のありさまに涙しながらも、彼女は決して目を背けず、チユチユの実の能力で怪我人を治し続けた。
そのひたむきな姿に、彼女を背に乗せて飛んでいたトンタッタ族のカブも、
――ええ とてもあなたらしい立派な戦いれす!!
と姫を讃え、鼓舞している。
マイクパフォーマンスで国民の団結を煽ったギャッツ
ドレスローザにあるコロシアムの実況者として登場したギャッツ。
「司会という立場にありながら不公平な実況ばかりする」というただのギャグ要員かと思われたギャッツだったが、彼もまた、強大な力に臆さず立ち向かった「力持たぬ者」であった。
ドフラミンゴとの激闘も終盤に差し掛かり、満身創痍となったルフィは、覇気の力さえ失って地面に倒れ込んでしまう。
逃げ惑う群衆の波に逆らい、その元に駆けつけたのがギャッツだった。
ドフラミンゴを倒すためには覇気を回復させる時間が必要であること。
そのために10分だけ体を休ませる時間がほしいということ。
ルフィからそれを聞いたギャッツが手に取った「武器」――それはマイクだった。
実況者であるギャッツにとって、マイクパフォーマンスは得意中の得意だ。
突如としてマイクパフォーマンスを始めたギャッツに、国民は最初、「何をこの非常時に」と戸惑いと反感を見せる。
しかし、傷ついた国民を鼓舞し、ドフラミンゴを真正面から糾弾するギャッツの姿に、次第に国民の心がひとつにまとまっていく。
どうにかして鳥カゴから逃れようとパニックに陥っていた群衆が、力を合わせて鳥カゴの動きを抑えようと戦い始めたのだ。
ドフラミンゴの意識をルフィから逸らし、回復のための時間稼ぎをしようとするギャッツは、やがてドフラミンゴの攻撃をその身に受けることになる。
しかし、深い傷を負いながらも、ギャッツは決してマイクを離さなかった。
血を吐きながらも、ついにこの国の悪夢を終わらせてくれた勝者の名「ルーシー(コロシアムに登場した際のルフィの偽名)」を叫び、国民に勝利を知らせたのだ。
「力持たぬ者の戦い」が光ったドレスローザ編
派手なバトルこそが醍醐味である少年漫画においては、強大な戦闘力を備えたキャラクターこそが「主役」であり「花形」である。
しかし、このドレスローザ編においては、マンシェリー姫やギャッツという「力持たぬ者」の戦いが際立っていたように思う。
もしもマンシェリー姫が脅しに屈し、ファミリー幹部を復活させていたら。
もしもギャッツがドフラミンゴに怯え、群衆に紛れて逃げ惑っていたら。
きっと、ルフィ達麦わらの一味が勝利することは難しかったに違いない。
日常においてもそうだ。
目立つ魅力を備えた一部の「花形」ばかりがスポットライトを浴びる世の中で、
「私みたいな人間が頑張ったところで…」
「どうせ俺とアイツは違うから…」
なんて卑屈な思いを抱えてしまう「力持たぬ者」が数多くいる。
しかし、同じ「力持たぬ者」であるマンシェリー姫やギャッツが、自らの非力さを言い訳にするようなことがあっただろうか。
自分にはできないと目をつぶり、目の前の事態から逃げ出すようなことがあっただろうか。
彼らは決して逃げなかった。
そして、悪に直接手を下すことはできずとも、自分なりの戦い方で勝利に大きく貢献した。
もしもあなたに、SNS上の人気者が持つような派手な魅力が備わっていなかったとしても、それを悲嘆することはない。
あなたにはあなただけの、あなたにしかできない戦い方があるはずなのだから。
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