かの有名な少年ジャンプ作品『SLAMDUNK』の作者、井上雄彦。
彼が生み出した作品は漫画業界に大きな影響を与えると同時に、沢山の人々の心を魅了した。
今回ご紹介する『バガボンド』もその例外ではない。
「強いとは何か?」「何の為に生きているのか?」
天下無双を証明しようと力を追い求める剣豪が、何故ここまで読者を魅了するのか。
作中から厳選した10選の珠玉の名言より、その魅力を紐解いて行きたいと思う。
目次
- ぜーんぶひっくるめてのお前なんだ。いいんだ、それで(沢庵宗彭)
- 海を泳いでいる最中には海の広さはわからんよ(宝蔵院胤栄)
- 剣すら握れなくなった…これで…これでもう…戦わなくて済む。殺し合いの螺旋から俺は降りる(辻風黄平)
- 天下無双とは何か…か。武蔵よ。天下無双とは、ただの言葉じゃ(柳生石舟斎)
- 対等の相手がおらぬことはつまらぬぞ。わしの命を脅かす最強の敵は、最愛の友に等しい(伊藤一刀斎)
- 弱いっ弱い。嫌いだよ俺のこのくそ弱さが。みっともなくて俺の嘘をひとつひとつはがしていったら真ん中には何もねぇ!(本位田又八)
- ただ真っ直ぐに一本の道を進むのは美しい。じゃが普通はそうもいかぬもの。迷い、間違い、回り道もする。それでええ(お杉おばば)
- 泣くな。試練は何のために与えられると思う。もっと強く、大きくなるためだろう(植田良平)
- 強くなりたい、ではなく、強くありたい(宮本武蔵)
- まとめ
ぜーんぶひっくるめてのお前なんだ。いいんだ、それで(沢庵宗彭)
天下無双になるため。ただそれだけの為に生きる男、宮本武蔵。
武蔵は武者修行の最中、幾度となく壁にぶつかることがある。
そんな彼を時に優しく、時に厳しく諭すのが坊主の沢庵だった。
力以外何も必要ない、といいながら、かつての仲間に会いたいと思う。
そんな矛盾と葛藤に悩む武蔵にかけた言葉がこのセリフ。
悩むことも、恐ることも、否定することはない。
まずはそんな自分を受け入れることが、「強く」なるための第一歩になる。
この言葉によって、武蔵は本当の意味で自分と向き合うことを知ったのである。
海を泳いでいる最中には海の広さはわからんよ(宝蔵院胤栄)
一見、貧弱な年寄りに見えるおじいさん宝蔵院胤栄は、有名な槍術の創始者であった。
その息子、胤舜との決闘を前に武蔵は助言を求める。
武蔵の生きる「斬り合いの世界」を「狭ーい世界」呼び、狭い世界に生きているうちは、まだ何も見えていないと言い切ってしまう胤栄。
それらを「海」として捉えた表現は、バガボンドの中でも有名な名言の一つである。
剣すら握れなくなった…これで…これでもう…戦わなくて済む。殺し合いの螺旋から俺は降りる(辻風黄平)
宮本武蔵と同じく、闘いに飢え、強さを追い求める剣士であった辻風黄平。
強い人物と戦い、己の強さを確かめることだけが生きがいだった彼が「殺し合いの螺旋から俺は降りる」と発言するに至った理由。
それは守るべき大切な存在が出来たことだった。
「力が手に入るのであれば、死すら恐れない」
そう語っていたはずの黄平が、プライドを捨て、刀を手放す。
改めて武蔵が「天下無双」とは何なのかを考え始めるきっかけとなる出来事だった。
天下無双とは何か…か。武蔵よ。天下無双とは、ただの言葉じゃ(柳生石舟斎)
武蔵は常に疑問を抱いていた。
「何人殺せば、天下無双になれるのか?」
「誰を斬れば天下無双になることが出来るのか?」
沢山の猛者達と剣を交わし、着実に力を身に付けた宮本武蔵は、遂に最も天下無双に近い人間と呼ばれる柳生石舟斎に戦いを挑む。
病床に伏す柳生石舟斎。その首元に刀を突きつける武蔵。
すると寝ていたはずの石舟斎が武蔵にくもりなき眼差しをむけているのである。
瞬間、あまりの威圧感に武蔵は飛び退き、石舟斎の前に跪き、こう問うのであった。
「天下無双とは何か?」
天下無双、などと考えれば考えるほど…目を凝らせば凝らすほどに見えなくなってしまう。
そう武蔵に助言を与える柳生石舟斎であった。
対等の相手がおらぬことはつまらぬぞ。わしの命を脅かす最強の敵は、最愛の友に等しい(伊藤一刀斎)
幼き武蔵が憧れた剣豪、伊藤一刀斎。彼は根っからの戦い好きだった。
強くなればなるほど、命のやりとりをするようなスリルをはらむ斬り合いの機会は減ってしまう。
そのような悲嘆の思いが篭ったセリフである。
作中では、命のやりとりの描写が生々しく、丁寧に描かれている。
死を前に、恐怖を感じて思わず叫ぶ者。
あるいは、その楽しさに笑顔が溢れる者。
伊藤一刀斎はまさに、命のやりとりを愛していた。
だからこそ、相手が強くあればあるほどに、真の力を発揮できるのである。
弱いっ弱い。嫌いだよ俺のこのくそ弱さが。みっともなくて俺の嘘をひとつひとつはがしていったら真ん中には何もねぇ!(本位田又八)
又八は宮本武蔵の友達である。
武蔵と常に対等でありたい、と思っているものの、武蔵のあまりの成長速度の速さについていけず、卑屈になる場面が多数描かれている。
嘘で身を固め、自分を強いと偽り、自分の存在をより大きく見せようとする。
その虚しさに気づいていながらも、そうしなくちゃいられない自分を不甲斐なく思う。
そんな又八の人間らしい「弱さ」に、共感する人は少なくないのではないだろうか?
ただ真っ直ぐに一本の道を進むのは美しい。じゃが普通はそうもいかぬもの。迷い、間違い、回り道もする。それでええ(お杉おばば)
本位田又八の母親、お杉おばば。
彼女は息子を愛するあまりに、時々行き過ぎた行動を取ることがあった。
そんな彼女が老衰により、息を引き取る前、又八に最期の言葉を残した。
又八が嘘をついていることにも気がついていた。
しかしそれでもいい、と肯定する。
間違いやまわり道をすることは決して悪いことではない。
そうして沢山のことを経験することで、誰よりも人に優しくすることが出来るのだ。
そう言って力を失うおばばを前に、又八は涙をとどめることが出来なかった。
泣くな。試練は何のために与えられると思う。もっと強く、大きくなるためだろう(植田良平)
植田は名門吉岡十剣の一人である。
当主となる吉岡兄弟に次いでNo.3と呼ばれる彼の手腕は、剣術のみならず、局面を見渡す冷静な判断力にあると言えるだろう。
吉岡の稽古場が評判を落とし、当主二人が死に追いやられるなど、吉岡一門が堕落しかけた時には、いつも植田の冷静な判断があった。
そんな植田が門下生を勇気付けるためのセリフがこちらである。
「もっと強く、大きくなるためだろう」そう言ってニコリと笑う姿に、勇気づけられた人は少なくないはずだ。
強くなりたい、ではなく、強くありたい(宮本武蔵)
これまでご紹介してきたように、宮本武蔵は旅の道中で様々な人と出会い、斬り合い、語り合う経験をする。
時には強さにとりつかれ、時には強さに脅かされながらも剣の為に生きる日々である。
かつて「強い奴を斬れば天下無双になれる」と信じて疑わなかった頃があった。
しかし、天下無双に近づけば近づくほどに、「天下無双」であることに意味を見出せなくなる自分に気が付く武蔵であった。
強さとは何か?答えのない問いに、武蔵は自分なりの結論をつける。
「強くなりたい、ではなく、強くありたい。」
それまでの武蔵の生き様を知れば知るほど、この言葉の重みが伝わる。
まとめ
以上、生きる力を貰える・哲学を問う『バガボンド』名言9選を紹介した。
『バガボンド』はただの剣豪の伝記漫画にとどまらず、私達が人生を「どう生きていくのか」の指標を与えてくれる作品である。
純粋に漫画作品として楽しめる上に、学びを得られるという一石二鳥な漫画を、是非この機会に読んでみてはいかがだろうか?
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