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愛と呪いの半生?アダルトチルドレンの成り立ち

『愛と呪い』書影画像

アダルトチルドレンとは、子どもの頃に家庭内のトラウマを負い、大人になっても生き辛さを抱えている人々の総称だ。

主に虐待が原因でなることが多いが、彼らまたは彼女らは、どんな困難に直面してきたのだろうか。

今回は酒鬼薔薇世代を描いたふみふみこの漫画、『愛と呪い』からアダルトチルドレンの成り立ちを考察していきたい。

※酒鬼薔薇世代は、酒鬼薔薇聖斗の事件当時に中高生(思春期)だった世代のこと

虐待を問題視しない家庭に育って

本作の主人公・愛子は物心付いた時から実父の性的虐待を受けてきた。

中学生になってもまだ父親と風呂に入り、膝の上に座らされたりするのは序の口で、寝ている時に下着の中をまさぐられてもいる。

他の家族は誰もその行為を問題視せず、「お父さんてば、またー?」と笑って見ているのみ。

はっきり言って異常だ。

これが男ばかりの家族なら(不愉快は不愉快として)わからなくもないが、愛子の家族構成は祖母と両親と弟で、数の上で見れば女性の方が多いのだ。

目の前で今まさに性的虐待が行われていようと、自分以外の家族が誰も取り合わなければ「なかったこと」にされてしまうのが恐ろしい。

他の家族は笑っている。

裏返せば、笑わない自分がおかしい。

「空気を読め」と暗に強制される家庭環境において、理不尽を飲みこみ続けた子供が鬱屈するのは当たり前だ。

「いい子」を強いられて壊れる

両親に従順であることを強いられ続けた愛子は、高校生の時、遂にストレスの限界に達して壊れる。

表ではいい子を演じながら援助交際に走り、その挙句恋人に捨てられひきこもりと化す。

母親に身体的、父親に性的虐待を受け続けた愛子は、「私さえ余計な事を言わずにこにこ笑っていれば我が家は平和」と刷り込まれて育ち、自己犠牲精神にがんじがらめにされた。

しかし辛くても頼れる人がおらず、自分だけ我慢を強いられるというのは大変なストレスだ。

家庭内に悩みを相談できる人間が不在なだけでも不幸なのに、その悩みが家族に直結しているとあれば、「なんで私だけ我慢しなきゃいけないの」「いい子なんてやってても損なだけじゃん」と自暴自棄に走ってもおかしくない。

大人になってからも不安は続く

大人になってからも問題は山積みだ。

アラサーの愛子はパートナーの男性と同居しているのだが、好きな漫画のオフ会では相手との距離感がわからず、嫌われたくないばかりにセックスをしては、それで関係を壊してしまうくり返しだ。

そもそも愛子は中学生の時、初恋の男子へのラブレターに「セックスをしたいです」と書いて、本人はもとより友人にまでドン引きされた痛い過去がある。

愛子の価値観を歪めた元凶は間違いなく父親だ。

父親にファーストキスを奪われた愛子にとって、まだ奪われてない唯一の物としてさしだせるのがセックスだったからそう書いたまでなのに、彼女は手酷い拒絶を受け、友人には距離をとられる。

愛子の例は極端だが、アダルトチルドレンの多くは似たような経験をしているはずだ。

親に刷り込まれた「普通」が、世間から見て「異常」だと思い知らされた時、彼あるいは彼女たちは両者の溝に愕然とする。

閉じた家庭内において信じられてきた普通と、世間がそうあるべしと推奨する普通のダブルバインドで心のバランスを欠き、精神科通いをする者も少なくない

アダルトチルドレンは「家族だから」と黙認を強制する歪んだ愛情と、「家族なのに」と機能不全を憎悪する呪いに毒され、苦難多き愛と呪いの人生を歩まねばならないのであった。

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