江國香織おすすめ作品10選【リリカルな文章が紡ぐ、ユニークな人間関係】

繊細で美しい文章と、人の心の機微を鮮やかに描きだす物語で、多くの読者を虜にする女性作家・江國香織。

国語の教科書に載っていた『デューク』で、彼女を知った方も多いのではないか。

主に恋愛ものを手がけているが、他にも親子愛や家族愛に友情など、彼女が綴る人と人の繋がりの美しさには泣けてしまう。

今回はそんな江國香織の著作の中でも、絶対に読んで欲しい10冊を紹介する。

江國香織おすすめ作品10選

江國香織『すいかの匂い』

小学生の女の子たちの目線で夏に体験した不思議な出来事を綴る短編集。

ノスタルジックな読後感に童心が甦る。

江國香織の初期作にあたり、ややマイナーな位置付けではあるが、カップアイスの木匙の味や、すいかの水っぽい味が舌にこみ上げてくるような、五感に訴えかける描写力は圧巻の一言に尽きる。

読んでいる間中、夏のじっとりした蒸し暑さや夕べの涼しさ、夜の気だるいぬるさが纏わり付いていた。

誰もが夏休みに体験した断片を思い出して、懐かしさに包まれるのではないか。

本作に出てくる女の子は引っ込み思案で人間関係がうまくいかず悩んでいたりと、寂しさや孤独感、漠然とした不安をもてあましている。

そんな彼女たちの夏の一日を切り取ることで、決して幸福で輝かしいだけではなかった子供時代の残像が、忘れられたかげろうさながらに読者の中に立ち上がって共感と郷愁をかきたてるのだ。

水っぽく溶けくずれたすいかの淫らな匂いが宵の中にたゆたうような、独特の読み心地を約束する短編集である。

江國香織『きらきらひかる』

江國香織を一躍人気作家に押し上げた評価の高い一冊。

1992年に豊川悦司主演で映画化もされている。

アルコール依存症の笑子と結婚したゲイの睦月、その大学生の恋人・紺の、恋愛とも友情ともいえない奇妙な三角関係を軸に新しい夫婦と家族のかたちを描いている。

早く子供を望む周囲のプレッシャーに苦しむ笑子をパートナー兼理解者として献身的に支える睦月、そんな彼らを温かく見守る紺。

男女間の愛情とはまた違った、プラトニックな疑似家族の絆が素敵だった。

同性愛者の偽装結婚ものというと些か即物的に聞こえるが、笑子・睦月・紺、三位一体の共同体を見守る作者のまなざしは肯定的だ。

笑子は最終的に3人の子供を欲しがるのだが、これは性愛をこえて男女が結ばれるホームドラマである。

同性愛描写もあるが生々しさは皆無で、睦月と紺のふれあいにはイノセンスな美しさが光る。

「紺の背骨はコーラの匂いがする」など、印象的なセリフにも注目してほしいい。

江國香織『神様のボート』

幼い娘・草子の手を引いて、町から町へと引っ越しを繰り返す葉子の目的は生き別れた運命の人と再会することだった。

駆け落ちまでした最愛の男性を忘れられず、根なし草のごとく放浪を続ける葉子を見て育ち、次第に嫌気がさしていく草子。

一生に一度の恋に生きる情熱家の葉子と、そんな母を疎ましがる現実主義の葉子の確執に引き込まれる。

母であるより女として生きる道を選び、会えるかどうかはおろか生きているかどうかもわからない相手を捜し求める葉子の一途すぎる執念には、憧れと恐れを禁じえない。

運命の人の面影を追い続ける究極の恋愛小説であると同時に、親子が別々の方向を向き、異なる人生を模索する葛藤に焦点をあてた小説である。

江國香織『間宮兄弟』

ともに30代で同居中の間宮兄弟は恋に不器用で人付き合いも不得手。

一緒に映画に行ったり夜の公園で紙飛行機を飛ばしたり、成人した男兄弟のなんでもない日常をメインにした小説である。

読んでいるうちに少し間抜けでドジもやらかす間宮兄弟のトホホさが、どんどん愛しくなっていく。

恋愛に奥手なせいで空回り失敗もするが、そんな時もお互い支え合って前を向く姿が微笑ましく心がぽかぽかしてくる。

しょっぱいエピソードも2人なら乗り越えられる謎の安心感があって、読み心地のよさに繋がっていた。

作中に散りばめられた、昭和を感じさせるレトロな風俗描写もポイント。

キラキラした美青年が多く登場する江國香織作品の中で、30代の非モテ男子を主人公に据えた本作は、ままならない日々に躓きながら懸命に生きる私たちの目線に寄り添って元気を与えてくれる。

一風変わった間宮兄弟の生き様をぜひ覗いてほしい。

江國香織『つめたいよるに』

国語の教科書に掲載された『デューク』も収録されている短編集。

死んだ飼い犬がハンサムな少年に化けて最後のお別れにきたり、平凡なコンビニバイトのクリスマスイブを優しい目線で綴ったり、江國香織の筆にかかると私たちのまわりに転がるありふれた日常が特別な奇跡に生まれ変わる。

本作に登場するキャラクターは人も人ならざるものも皆優しくて、少しへんてこだ。

そのへんてこさがたまらなく愛しくて、幸せな気持ちで本を閉じることができた。

サムライの幽霊である草之丞と女優の間に生まれた男の子が語る『草之丞の話』、仲睦まじい老夫婦の一日を追った『晴れた空の下で』など、家族愛や夫婦愛を掘り下げた話には目頭がじんわり。

全体的に常識のレールから少し外れた関係性を取り上げた、すこしふしぎな話が多い。

文体も読みやすく、活字に慣れていない十代の読者におすすめしたい。

江國香織『都の子』

江國香織のエッセイ。

彼女が旅した外国で見聞きした物事、こまごました日常のエピソードが綴られている。

小説家・江國香織のプライベートが知りたいファンは買って損がない。

どの文章も非常に純度が高く研ぎ澄まされており、旅先に持っていくおしゃれな掌編集としてもおすすめしたい。

比喩力と表現力が素晴らしく、フィジカルな感覚を言葉に結び付ける発想の自由さには脱帽した。

ホットチョコレートにチュロスにアイスクリームなど、おいしいものがたくさん取り上げられているので食いしん坊にもおすすめだ。

幸せに包まれた幼き日々の記憶が照らす欠片たちは、どのページから摘まみ読みしても楽しめ、一口サイズのチョコレート缶のような贅沢な仕上がりになっている。

タイトルは英国の詩人、アルフレッド・テニスンの同名詩集からとられている。

江國香織『号泣する準備はできていた』

江國香織の作品の中では大人向けに属する。

殆どの登場人物が性愛の悩みを抱え、不倫や不毛な恋のまっただ中でもがいている。

過去の恋人を忘れられなかったり、あるいは手に入らないものを欲しがったり、現在の生活に満たされず寂しさや不安をもてあました登場人物たちが、静かにその感情の水位を上げていく展開に引き込まれる。

タイトル通り号泣する準備を整えていく話ともとれ、感情が激発する寸前の、色々な痛みや寂しさがこみ上げていく過程を丁寧に描きだす。

読後感は総じてビターテイスト。

ある程度恋愛経験がある読者だと他人事とは思えず、狡くて愚かで愛おしい登場人物たちに一層感情移入がはかどりそうだ。

風景や食事と心理描写を絡めるのがとても上手く、おしゃれなディナーや絶品のお酒も、罪悪感や後悔、喪失感のスパイスで少ししょっぱくなりそうだった。

江國香織『流しのしたの骨』

ある6人一家の日常を描いた物語。

主人公のこと子は夜の散歩が趣味の19歳で、実質ニートのような生活をしている。

刊行当時はニートの概念すらなかったので、ようやく時代が追い付いた感さえある。

しかし宮坂家では20歳までは何をしてもいい独自のルールがあるため、こと子の生活態度をうるさく咎めるものはいない。

ある意味風通しがいい家だが、家族だからこそ心配し合い、また多かれ少なかれ干渉せずにはいられない窮屈さや面倒くささと無縁ではいられない。

傍から見ればちょっと変わっているけど、必ず味方でいてくれる親兄弟の絆にしんみりすると同時に、わずらわしさと愛しさが紙一重な家族の本質を突いた話である。

不穏なタイトルにぎょっとするが、これは西洋の慣用句であるスケルトン・イン・クローゼット、すなわち「衣装棚の中の骸骨」にちなんでいる。

どんな幸せそうな家庭にも他人にもらせない秘密があるという意味で、ユニークなメンツが揃い、なんだかんだ上手く回っている宮坂家にも『流しのしたの骨』のように皆が知らんぷりする不穏さがほのめかされているのが印象的だった。

江國香織『ウエハースの椅子』

優しく美しい既婚者の恋人がいる、自立した画家の女性が主人公である。

これもまた江國香織の十八番である不倫の話で、寂しさと不安から静かな狂気に侵されていく主人公の姿が印象的だ。

何不自由なく満たされているはずなのに、だからこそ不安になって自滅していく女性の心理が、一見メルヘンチックなタイトルに見事に集約されていて感心した。

ウエハースの椅子には座れない。

それは主人公が決して手に入れられず安住も許されない盤石の幸せをさす、皮肉な隠喩だったのだろうか。

ある種の共依存のような出口のない関係を描いており、幸せに溺れ、ゆるやかに絶望していく主人公の姿に哀愁が漂っていた。

江國香織『落下する夕方』

8年同棲していた恋人・健吾に突如フラれた梨果のもとに、何故か健吾の意中の女性・華子が転がり込んでくる。

普通ならありえない組み合わせだが、正反対の2人の生活は意外と順調で……。

江國香織ならではの奇妙な三角関係を軸にした話。

華子のエキセントリックなキャラクターと最後の選択が強烈な印象を残した。

華子のように周囲をひっかき回すトラブルメイカーが身近に存在したらと考えると迷惑以外の何物でもないが、その常識に囚われない自由さに惹かれる健吾の気持ち、健吾を手放したくないが故に華子を受け入れざるえない梨果の流されやすさがリアルだった。

梨果が15ヶ月かけてゆっくり失恋していく話ともいえ、華子がある決断を下す、ラストの衝撃は忘れられない。

おわりに

江國香織特有のセンシティブな文章が紡ぎだすキャラクターの生き様は、滑稽で愛しくて、一般の常識や道徳から外れる行いをしていても不思議と純粋さを失わない。

興味を持った方は、ぜひこの記事で紹介している本やその他に刊行されている本に触れてほしい。

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