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『ペッパーズ・ゴースト』あらすじと感想【未来がほんの少し観える国語教師が挑む大事件】

未来がほんの少しだけ観える中学教師・檀千郷が巻き込まれたのは、教え子の父親の失踪事件。

その事件に関わる「サークル」という団体の存在と、謎のコンビ「ネコジゴハンター」。

檀は己の能力に無力さを感じつつも、事件に立ち向かっていく。

こんな人におすすめ!

  • 伊坂幸太郎初心者
  • 不思議な物語が好きな人
  • 心から楽しめる小説を読みたい人

あらすじ・内容紹介

中学校の国語の教師をしている檀千郷(だんちさと)には、父親から受け継いだ「先行上映」という能力がある。「先行上映」は、他人の咳やくしゃみなどをした飛沫が檀の体に入ることで発動し、その相手の翌日の様子を観ることができるのだ。それを彼は「感染」と呼んでいる。

ある日、たまたま放課後に呼び出したことがキッカケで「感染」した、受け持ちの生徒・里見大地(さとみだいち)の翌日の様子が観えてしまう檀。それは大地が新幹線の事故に巻き込まれるというものだった。

すんでのところで事故から大地を回避させたのだが、そのことがキッカケで彼の父親・里見八賢(さとみはっけん)と関わりを持つことに。

ある日、見知らぬ人から八賢が行方不明になっていると檀に連絡が入る。電話を寄越してきたのは「サークル」という団体の1人で、八賢はそのメンバーだったのだ。

そこに檀のクラスの布藤鞠子(ふとうまりこ)が書いた自作小説の登場人物である「ネコジゴハンター」なる2人組が加わり、事態は思わぬ方向へと転がり出す。

自分の能力に後悔ばかりしていた檀が、事件解決へと奔走する!

伊坂幸太郎が描く極上のエンターテインメント。

『ペッパーズ・ゴースト』の感想・特徴(ネタバレなし)

未来が観えても観えなくても

この物語の核は、中学教師・檀千郷が「感染」した相手の未来、正確には翌日の様子の一部を「先行上映」として「観る」ことができるというものだ。

彼はこの能力を父親から受け継いでおり、彼の父親もまたその父親から受け継いでいた。

檀が「先行上映」の能力を父親から聞かされたとき、彼自身がまだ能力についてさほど自覚がなかったため父親のことを「最期が迫り、頭がおかしくなった」と思っていた。

父親の死を機に檀は能力に目覚めていくのだが、相手の未来が観えることをあなたはどう思うだろうか?自分ではない人の未来が観えて、「ラッキー」と思える人は少ないと思う。

檀自身もこの能力をこれまで特別何かに生かしてはこなかった。

例えば同僚の教師が友人と牡蠣を食べに行くと聞き、その同僚が牡蠣にあたって苦しむ様子が観えればそれとなく注意する程度に留めていた。

しかし、注意された方もまるで占い師のご宣託のような檀の言葉をどう信じればいいのか分からないだろう。

「今日、君は牡蠣を食べに行くんだよね?あたるよ」なんて言われた日には、ただのお節介か単純に自分も食べたいから連れて行けという風にも取られかねない。

檀は未来が「観えた」としても、世間ではそれはまるで根拠のないことであり、「幽霊が見えるんです」と言っていることと同等なのである。

檀は「先行上映」を観たとしても、他人の未来を劇的に変えることはできない。そのため、一時期心療内科に通うまで病んでしまったこともある。原因となったのは彼が教師になって2年目に受け持った、ある問題児だった。

いつもつまらなそうにして嫌味な発言や皮肉を繰り返し、友人も少なかったらしい。檀は彼を何度か注意したが、しまいには次のような態度を取られてしまう。

私のことを鼻で笑い、「何にもできないくせに」と言ったことがある。

しかし、彼がそのような態度を取るのにはズタボロの家庭環境が関わっており、彼に「サイコパスな生徒だ」というレッテルを貼っていた檀は、後にその過酷な過去を聞き後悔することになる。

檀はこの生徒の「先行上映」を観れば何かを少しでも変えられたり、味方になれたかもしれないと激しく後悔する。

しかし、彼の過酷な家庭環境のその先にある未来を観たとして、いったい何ができたというのだろうか。

檀は「先行上映で観たかった」と後悔しているが、おそらく未来を観たあとも後悔すると思うのだ。

未来を観られずに受け持ちの生徒を救えなかった後悔と、肝心なときに「先行上映」の能力を使えなかった後悔と。

檀が「先行上映」という能力について、強い悔しさを覚えた出来事である。

作中作とつながる現実

本書では作中作として檀の教え子である布藤鞠子(ふとうまりこ)が書いた小説が登場する。「ネコジゴハンター」のロシアンブルとアメショーの活躍を描いた物語である。彼女は檀にその自作小説を書いたノートを渡して読ませる。

ちなみに「ネコジゴ」とは、「猫を地獄へ送る会」というのが正式名称で、猫を虐待する様子を動画配信するというとんでもない会だ。

また、「ネコジゴハンター」は、猫を虐待する動画配信をしていた張本人はもちろんのこと、その動画を見ながら「熱湯をかければいい」や「物干し竿に吊るせばいい」など、動画を扇動した人たちにも罰を与えるハンターのことだ。

檀もそうだが読者も最初こそ、この作中作を本当に「作中の中の物語」だと思って読んでいる。

「ネコジゴハンター」の悲観的担当・ロシアンブルと楽天的担当・アメショーが、次々に猫の虐待に関わった人を懲らしめていくというある種の勧善懲悪的な物語だと。

しかし、とある瞬間からこの物語は現実を侵食し始めるのだ。

読者はだんだんと檀が住む現実と、作中作の区別がつかなくなってくる。

檀の住む現実がもともと作中作の中なのか?

いや、檀が作中作に紛れ込んでしまったのか?

檀の未来を観る能力と「ネコジゴハンター」という謎めいた2人組。

SFのような設定とファンタジー色の強い設定が混じり合い、化学反応を起こしたとき、物語は加速を始める。

作中作はただの物語ではなくなり、否応なしに檀を物語の中心である大事件へと引きずり込んでいく。

檀の母が言っている、よく考えることを指す

ヘディングしなさい。

という言葉の通り、檀は頭をフル回転させてその事件に挑むしかなくなるのだ。

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主人公が挑む2つの事件

檀は「先行上映」で観た、受け持ち生徒の里見大地の窮地を救うことになる。その窮地というのが新幹線の事故のことだ。檀は大地が乗る新幹線が大事故を起こし、それに巻き込まれてしまうという「先行上映」を観てしまうのだ。

結果的にそれが大地の父親とのつながりを作り、さらに5年ほど前に起きた爆発テロ事件の被害者の会「サークル」との関わりを持つキッカケになる。

本書では2つの事件が檀を悩ますことになる。

1つは大地の父親・里見八賢の失踪事件。もう1つは、「先行上映」で観た「サークル」がとある医院で起こす大事件だ。

両方とも解決したい檀は己の能力をフルに使い、「ヘディング」しながら「サークル」が起こすであろう事件をなんとか止めにかかる。

この「サークル」は「カフェ・ダイヤモンド事件」という卑劣なテロ事件の遺族で構成されている。メンバーはみな、テロのせいで大切な人を失い、そこから時が止まってしまっている人たちだ。

「サークル」の悲願を達成するために起こすこの事件は、彼らが再び歩き出すための究極の、そして切ない選択だった。

このラストを望んだのは「サークル」の張本人たちであり檀も里見八賢も必死に「最悪の結末」を回避しようとしたが、結果的に大切な人を卑劣な犯罪で失うことで人が陥る無力さをまざまざと見せつけられる形となってしまう。

まとめ

本書は伊坂幸太郎初心者でも、久しぶりに著者の作品を読む人でも存分に楽しめる一大エンターテインメント作品である。

登場人物たちの軽妙洒脱な会話を楽しみ、著者らしい仕掛けの施された物語に酔いしれよう。

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