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いきものがかり×亀田誠治『今日から、ここから』の背景を読む

この企画は音楽と本の化学反応を書き綴るものであるが、今回読んだものはwebサイトの文章だ。

亀田誠治が主宰するイベント、日比谷音楽祭webページには『今日から、ここから 観察日記』と題された、いきものがかりと亀田誠治が楽曲を作っていくドキュメンタリーが綴られている。かなり読み応えのある貴重な記録だ。

本稿ではその企画を通して、いきものがかりの魅力を紐解いていく。

『今日から、ここから』が生まれるまでの経緯


発端は日比谷音楽祭が中止になってしまったことだ。

今の状況だからこそ生み出せるポップスを生み出すことがゴールとなる。

オンライン上で、メンバーが意見を交わしながら共作をするのは、いきものがかりにとっても、亀田誠治にとっても初めてのことだった。

 

初回では企画意図の説明や、ざっくりとした今の心境をお互い話し合い、本格的な曲作りは第二回のZOOMミーティングからスタート。いきものがかりのリーダー、水野良樹は自身の考えたことをまとめたスライドを作り、コロナ禍の社会のムードについて客観的に分析した。

各々がコロナに関して思うことを述べていると、アコースティックギターの山下が何の気なしに発した一言から空気が変わる。

「こないだ田舎のおじいちゃんの家に帰った夢を見たんです。近所に当時あった古本屋に入った夢だったんだけど。夢の中なのに匂うんですよ。懐かしい匂いが」

この夢に亀田が共感し、ノスタルジーを視野に入れることになり、ボーカル吉岡の発言が更に発展させる。

「今にスポットを当てるって、普遍性にも通じる気がする。その曲を過去に歌ってたとしても、30年後の未来に歌ったとしても、その時がスタート地点じゃないですか。」

そうしてテーマが”今”に絞られ、話題はメロディに移る。

各々がワンブロックほどの短いイメージを作り、それを膨らませていくことに。

水野が

…「今日から、ここから」って歌ってるだけで十分ですね。「今日から、ここから」って、ただ繰り返し歌ってるだけでも意味合いが出てきそう。

と溢すと、あくまでも仮だと前提し、その言葉で各々がワンフレーズずつメロディを考えることになった。

 

約2週間後、メンバーはデモ音源を持ち寄り、再度集合した。

吉岡はアリーナの景色が見えるような楽曲、山下は二曲、水野は同じフレーズを繰り返している楽曲を提案。それぞれのデモに共通しているのは、”広いところに向けて歌っている”ことだった。そのことが楽曲の方向性がまとまっていることを示す。

亀田は全ての楽曲が秀逸だとした上で、水野のメロディをサビに採用。

ここに亀田が平歌のメロディを付け、山下と吉岡が歌詞を書くことになる。

 

しばらく期間が開き、再度ミーティングが開かれたのは約3ヶ月後の2020年10月1日だった。

その間に、いきものがかりは結成20周年を記念した初のデジタルフェスを開催。

音楽業界全体で見ると、動員を減らしてではあるが有観客ライブも行われるようになっていた。企画スタート時とは社会のムードが変わりつつあるため、各々の意見を交換し、一度立ち止まることに。

亀田は

「言葉を紡いでいって、ここからの時間軸の中で完成させていくことに意味があるんじゃないのかなって思う。」

とこの曲にとって重要な点を挙げ、制作した平歌部分の歌詞に移る。

 

これまでにミーティングで出たキーワードを拾い、吉岡が歌詞を書き下ろした。

その会議のなかで、亀田は

失ってしまったことを嘆くんじゃなくて、一番大事なものに気付く

とこの曲に出来ることを挙げ、そこに行くまでの気持ちを、平歌の部分でセットアップしていくということが大事だと話しミーティングは幕を閉じる。

 

次の会議では、これまでを受けて山下が書いた歌詞が上がった。

新しい世界は毎日で
懐かしさ求めて歩いてる
当たり前の難しさ
母の作る味噌汁はやっぱり美味しくて
誰かが放った悪口と傷口
包み込める優しさと絆創膏
今日もいつものカフェに行ったよ
扉は閉じたり開いたり

水野は”母の作る味噌汁”のフレーズに対して

いろんな世代のいろんな人に楽しんでいただくことを考えると、親子関係に苦しんでる方もいらっしゃると思うし、家庭の味噌汁をハートウォーミングな題材にするのはあまり普遍性を持ったことではない気がする。

とコメントし、

個人的には、カフェに行くという行為はちょっと余裕がある感じ

と厳しめの意見も出した。

亀田も

サビの部分と平歌の部分は、質感は離れていても同じ土台であったほうがいいと思っていて。そうすると、カフェというのはちょっと異質

と語った。

 

次のミーティングでは山下の歌詞を受けて、吉岡が歌いやすくブラッシュアップした歌詞が発表される。

夕暮れの街 ひとり 歩いて
懐かしい景色 おもっている
「いつもの日々」よ
「愛しき今」よ
すり切れてる スニーカー

上記はその歌詞のサビ前のメロディである。

ほとんど合格と言いつつも、水野と亀田は「よ」より「と」に変えて

「いつもの日々と 愛しき今と」にした方が良いと指摘。

他にも細々とした改善点がいくつか挙がり、亀田も一部作詞をすることに。

何度かやり取りを行った後、吉岡が仮歌を入れた状態で最終調整に入っていく。

 

Googleドキュメントを使って歌詞のテキストを共有し、メンバーが思いついたことを書き込んでいき、リアルタイムで歌詞が推敲される。

議題に上がったのは”懐かしい景色 おもっている”の部分だ。

まず、亀田が”懐かしい気持ちでどこへいこう”と提案。

すると水野は「懐かしい気持ち」というのが曖昧だと指摘し、”懐かしい願い”を提案。

しかし亀田は「懐かしい願い」だとちょっと抽象的すぎるとコメント。熱い議論が繰り広げられていたが、山下が”懐かしい歩幅”と提案すると、ようやくまとまる。

 

紆余曲折あった作詞作業も終わりを迎え、亀田がアレンジを担当し、いよいよレコーディングに移る。

レコーディングに集まったメンバーはこれまで亀田のプロデュース作品や、いきものがかりのレコーディングにもたびたび参加してきたミュージシャンであり、日比谷音楽祭2021のスペシャルバンドとしても出演する面々。

楽曲に託した思いを演奏するメンバーにも共有し、データ上でしか存在しなかった楽曲に、命が吹き込まれた。

合計4テイクが録音され、その中からベストだったものにストリングアレンジが加わり、マスタリング。

約1年がかりで『今日から、ここから』が誕生した。

『今日から、ここから』のログから垣間見える、曲を作る面白さと苦悩

この企画はいきものがかりチームの人柄がよく滲み出ている。

水野の真面目な性格、吉岡のユーモラスな一面、山下の柔軟な性格に加えて、亀田の好奇心旺盛な性格と、様々なプロデュースに携わってきた経験によるディレクターとしての手腕が垣間見える。

良くない”としても真っ向から否定することなく、相手の気持ちを損なわず、更に上に導くトーク力が感じられた。

また、アーティストがスライド資料を作成したことにも驚かされた。そのスライドを見ることが出来る上に、採用されなかったデモ音源もしっかりと聴ける。

ここまで楽曲の裏側が覗ける機会なんて、ほとんどないだろう。会議中の絶妙な緊張感も伝わってきて、自分もミーティングに参加しているような刺激があった。

一曲を作るためには、これほどまでに気を使う必要があるのかと痛感させられる。

いきものがかりはポップスだ。ポップなもの、老若男女誰からも愛されるものは、尖りすぎず、気をてらわず、分かりやすいものである。

乱暴な言い方をすれば、ありふれたものとも言い換えられる。ありふれた普遍的なものを

誰もが振り返る魅力的なものにしなければならない。難儀で高度なバランス感覚が求められる。

”誰も”のために楽曲の角を削ぎ落とし、丸く仕上げていく。

何の情報もなければ、実験的要素の少ない、平坦なポップスだと思っていたものは、

実はかなり手が込んだ作業や一周回った深い考えがあることに今回気づかされた。

 

ミーティングにあったように、『今日から、ここから』にはどこか懐かしい質感がある。

歌詞だけではなく、メロディーからも泣きたくなってしまうような不思議な懐かしさが感じられた。ノスタルジックでありながらも、聴き終わると少しだけ前向きな気持ちにさせてくれる温かさがある。

その音からは、演奏を担当したメンバーにも4人の想いがしっかり届いたことが伝わってきた。

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