中村文則おすすめ作品10選【ミステリーを純文学で表現した希望の書】

卓越した文章と、闇深い表現が特徴の作家・中村文則。

彼は大学卒業後、フリーターとして執筆活動を続け、第34回新潮新人賞を受賞したことによって小説家デビューを果たした。

コンビニで働いていた時には、なぜこれだけ生活ができない人がいるのに、弁当を廃棄しなければならないのだろう、という疑問を持つほど、昔から、世の中に対して懐疑的だったという。

ベストセラーとなり、ピースの又吉直樹が紹介したことでも有名な『教団X』や、岩田剛典が主演した映画『去年の冬、きみと別れ』で彼のことを知った方も多いのではないだろうか。

闇を見ることによって、憂鬱になることもある。

それでも彼の作品の最後に訪れるのは希望だ。

今回はそんな中村文則の作品の中でも、読まなければ損をするほど、おすすめな小説を、10作品紹介する。

中村文則『銃』

ある日、雨の降る河原で、死んだ男と銃を発見する青年の物語。

普通の大学生が銃を手に入れたことにより、その日常が崩壊していく。

青年は銃を撃ちたいと思いながら葛藤し続けるのだが、その葛藤は、育児放棄をしている母親を見かけた時、ついにはっきりしだす。

 

青年の精神の揺さぶりから読者は、目を離せない。

この作品で中村文則は、第34回新潮新人賞を受賞し、デビューした。

さらにこの作品は、芥川賞の候補にも選ばれた。

中村作品の中でも比較的分かりやすい物語構造で、彼の作風を知るにはうってつけといえるだろう。

中村文則『土の中の子供』

主人公の「私」は、親に捨てられ、さらには孤児として虐待を受けた被虐体験を、27歳になってもなお、思い出すことによって苦しんでいる。

物語の序盤から、過激な暴力シーンがあったり、精神の暗部をえぐるような描写は、私たちに、今となっては忘れたことでも、実は心の奥底に眠っているものが

あるかもしれないということに、気付かせてくれる。

とことん闇を追求したこの作品であるが、最後にはふと、希望を与えてくれるのだ。

 

この作品で中村文則は、第133回芥川賞を受賞し、賞賛を集めた。

目の前のぼんやりとした光景を表現する力が素晴らしく、頁数も少ないため、あっという間に引き込まれて読み終えてしまう。

何度も読み返したくなる圧巻の作品だ。

中村文則『何もかも憂鬱な夜に』

施設で育ち、刑務官として働く主人公の「僕」は、控訴期限が目の前に迫る未決囚・山井と、巡回している時に話すことになる。

控訴期限が切れると彼の死刑は確定する。

山井は、控訴期限が迫ってもなお、何も語らず、死刑を受け入れようとするように見えるのだが、それでも「僕」は、山井が何かを隠していることに気が付く。

 

「僕」が施設で出会った「あの人」とのやりとり。

自殺した友人から送られた一冊のノート。

そこかしこに散りばめられた、犯罪と死刑について。

そして、生きることと死ぬことというテーマに、真摯に向き合ったこの作品は、タイトルにもあるように、憂鬱な雰囲気をまとっている。

しかし、芸術によって光が与えられる最後の描写は、圧巻そのものだ。

文庫版の最後にある、ピース又吉直樹の解説も面白いので、読んでみることをおすすめする。

中村文則『掏摸〈スリ〉』

巧みな技術で、次々とスリを繰り返す、天才スリ師の主人公は、他人の運命を操り、人生を支配する闇世界に生きる男・木崎と再会してしまう。

彼は木崎に、仕事を任され、断る隙もなく、失敗すればお前を殺すと言われる。

その後も何度か木崎の要求に応える彼だったが、それでも最後、「失敗しても成功しても、お前はここで死ぬと俺は決めていたんだ」と言われた彼に、一体どんな結末が待ち受けているのだろうか。

 

この作品で中村文則は、大江健三郎賞を受賞。

さらには、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の2013年、ベストミステリートップ10にも選ばれたことにより、その名を世界に轟かせた。

この作品の16章は、この作品の核だと本人も述べており、「光が目に入って仕方ないなら、それとは反対に降りていけばいい」という主人公の思いは、まさに中村文則の、少年時代の世界に対する態度なのだという。

ここでは紹介していないが、この作品の兄妹作品『王国』も是非読んでいただきたい。

そこに、主人公のその後が、描かれているかもしれない。

私たちは2作品において、目が離せないのである。

中村文則『去年の冬、きみと別れ』

ライターである「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告の面会に行くことになる。

被告は、2人の女性を殺した罪で、死刑判決を受けていたのだが、どうもすっきりとしない。

なぜか事件に関わる人物たちもどこかおかしいところがある。

主人公の「僕」は、事件を調べれば調べるほど、その事件の異様さを、知ることになる……。

そもそもなぜ彼は殺人を起こしたのだろうか。

それ以前に、これは本当に殺人といえるのだろうか。

事件の真相が明らかになった時、全ての読者が驚愕するだろう。

「僕」がなぜ事件の真相にたどり着けなかったのか。

この作品の結末から、私たちは目を逸らせない。

 

2018年に、岩田剛典や山本美月ら主演で映画化された本作。

ミステリー・サスペンスを、純文学として表現したこの圧倒的な作品は、難しいと感じる人もいるだろう。

そんな人は、是非、映画から観ることをおすすめする。

中村文則『教団X』

恋人のような関係だった立花という女性が、突然、主人公・楢崎の前から姿を消した。

立花を探して楢崎がたどり着いたのは、凄まじい思想を持つ奇妙な老人・松尾を中心とした、宗教団体だった。

しかしそこに立花の姿はなく、彼女を追い求めると、その先にはさらに、その宗教団体と敵対する、性の解放を謳うカルト集団・教団Xという存在があった。

四人の男女が中心となって、彼らの運命が混ざり合う。

教団は暴走し、自衛隊や機動隊を派遣するほどの、重大な事件を巻き起こす……。

宗教やテロ、貧困、さらには、性という欲望に焦点をあてた、まさしく現代における世界の問題が、詰まった作品になっている。

頁数は非常に多いのだが、松尾という老人が述べる、全ては粒子によって構成されている、などといった、哲学や思想には、引きつけられる。

何よりも興味深い会話場面が多く、すらすらと引き込まれるように読んでしまうため、頁数など気にならないだろう。

 

ピース又吉直樹が、アメトークの読書大好き芸人で紹介したこともあり、話題沸騰した。

神とは何か、光とは何か、そして運命とはどういうものなのか。

そういったことに根本的に立ち向かうこの作品は、中村文則史上最高傑作ともいえるだろう。

中村文則『あなたが消えた夜に』

コートを着た連続通り魔殺人事件の容疑者を追う、刑事の中島と、女刑事の小橋。

徐々に事件が紐解かれていくのだが、それが単なる事件ではないことが、明らかになる。

その事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかったのだ……。

コートを着た男とは一体、どんな人物なのだろうか。

この事件は、どこまで深掘りしていけるのか。

その光と闇の交錯から、私たちは目を離せない。

 

一見、暗い雰囲気のようにも感じるが、純文学とミステリーとしてのエンターテイメント性も優れていて、その複雑さの中に引き込まれ、ページをめくる手が止まらなくなるのだ。

この作品も頁数が多いが、ゆっくりと作品を嗜むか、何度か読み返すことによって、作品をさらに味わうことができるだろう。

このおよそ500ページにわたる小説を、中村文則は、先ほど紹介した600ページにもわたる、長編小説『教団X』と同時進行で書いていたというのだから、驚かずにはいられないだろう。

一度読んだら目を離せないこの作品を、ぜひ手に取ってみてほしい。

中村文則『私の消滅』

Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した作品。

「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。」

という言葉から小説が始まる。

この言葉は、ある登場人物が書いた手記で、この手記を読む「私」という人物が一体誰なのか、登場人物たちが複雑に絡み合うこの世界観で、読解するのは非常に困難だと感じる。

様々な男性から愛されるも、精神が崩壊してしまう「ゆかり」という女性は、病院を訪れ、そこの先生に、彼女の全てを委ねることに決める。

彼女の記憶の一部が欠如していること、さらには、登場する男たちの、記憶を操作すること、それらには、複雑で恐ろしい過去や復讐が絡んでいた……。

 

連続幼女殺人事件を起こした宮﨑勤の事件の真相に迫る文章もまた、私たちを虜にする。

圧倒的な知識と、世界観が特徴のこの作品は、中村文則自身、純文学として、これ以上、少しでも作品を複雑にしてしまうと、作品がめちゃくちゃになってしまうと述べているほど、極限まで登場人物たちを複雑に絡み合わせた作品となっている。

一度で全てを読解するのは難しいかもしれないが、何度読んでも損がなく、ページをめくる手が止まらなくなる作品だ。

中村文則『R帝国』

矢崎はある日、目が覚めると、なんと戦争が始まっていた。

近未来の島国・R帝国では、人々は人工知能が搭載された携帯電話・HP(ヒューマン・フォン)と呼ばれるものを持って生活している。

その国では、「抵抗」と呼ばれるものが排除され、“党”と呼ばれる組織や、謎の組織「L」によって、戦争の真実が隠されている……。

“党”の政府が持つ、秘められたものとは一体何なのか。

その真実が明らかになった時、果たして国民は「抵抗」するのだろうか。

「人々が本当に求めているのは、真実ではなく、半径5メートルの幸福なのだ」とはどういうことなのだろうか。

 

日本という国を、どこかかつてあったのかもしれない、架空の物語の中に登場する国として引き合いに出していたこともまた興味深い。

その物語では、日本が戦時中に犯した愚かな行為についても、中村文則自身の思想とともに記されてある。

この世界の「真実」とは、ということについて、徹底的に迫るこの作品は、様々なアルファベットによってつくられた国などと絡み合い、幸福と絶望の拮抗や狭間へと、私たちを連れて行く。

中村文則『逃亡者』

第二次世界大戦の日本や、長崎で起きたキリシタン迫害という歴史的な問題。

さらには、ユダヤ人の迫害など、現代だけに限らず、世界の社会問題を投影した小説。

「君が最もなりたくない人間に、なってもらう」という言葉はどういった意味なのか。

逃亡し続ける男は、ある女性との約束を果たすために行動するが……。

 

一体なぜこの世界では、努力した者や、強い者は勝利すると定められているのだろう。

迫害された人たちや、何の罪もないままこの世を去った人たちは、なぜ苦しまなければいけなかったのだろうか。

暗い現実を秘めたこの世界に、希望はあるのか、そういった根端に迫る壮大な作品だ。

 

中村文則は、「いつかはこの物語を書くと決めていた」と述べるように、相当な覚悟を持ってこの作品に挑んだということが伺える。

この記事を書いた2021年1月現在、彼の単行本の中で最新のものであり、作者としての集大成とも呼べるこの作品を、是非読んでいただきたい。

おわりに

中村文則の作品は、一見、気分が憂鬱になるため、抵抗を覚え、読んでみるものの、断念した方もいることだろう。

しかし中村文則の根底にあるのは、矛盾だらけの不条理な世界において、「真実」とは何なのか、生きることとは何なのか、その極限の問いに挑んだものであり、必ず希望を与えてくれるものなのだ

中村文則は、ほとんどの作品のあとがきの最後に、こう述べている。

「共に生きましょう」

この言葉の通り、私たちは、生きることを後押しされ、勇気が湧くことだろう。

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