太宰治おすすめ作品10選【美しき滅びを渇望した、孤高の天才アウトサイダー】

太宰治。日本人ならば誰もが一度はその名を耳にしたことがあるだろう有名作家だ。

没後70年を過ぎて、今なおその名が色褪せることない太宰治だが、彼やその作品に対して抱くイメージは「暗い」「退廃的」といったものがほとんど。

その背景には、彼が20代の頃から自殺未遂を繰り返し、ついには愛人と入水自殺を遂げたという衝撃的な経歴が大きく影を落としていることだろう。

しかし、実は『走れメロス』に代表される明るい作品も数多く残しており、その作風が存外幅広いことはあまり知られていない。

今回は、太宰治の作風ごとに「前期」「中期」「後期」に分類し、それぞれの時代において代表的な名作10選をご紹介する。

その世界観に没入できる長編作品はもちろん、太宰治入門編としても楽しめる短編作品も紹介しているので、ぜひ自分に合った作品を見つけてもらいたい。

太宰治『ロマネスク』

この頃の太宰治の人生を一言で表すのならば「悲惨」だ。

ずっと居場所のなかった実家からは勘当され、その疎外感から傾倒していった政治活動でも挫折を味わってしまう。

渇望してやまない芥川賞には落選し、薬物の乱用を経て、ついには精神病院に入院させられてしまうのだ。

これを悲惨と言わずしてなんと言おう。

この時期に書かれた作品『ロマネスク』には、仙術太郎、喧嘩次郎兵衛、嘘の三郎という、それぞれ人並み外れた能力を持つ三人の青年が登場する。

仙術でもってさまざまな動物に姿を変えられる仙術太郎。

喧嘩のためだけに腕を磨き上げた喧嘩次郎兵衛。

そして、「人間万事嘘は誠」を標榜する嘘の三郎。

この三人の青年の野望と挫折は、どこかユーモラスでありながらも、人間の欲深さと、それに対する罪を表しているように思えてならない。

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太宰治『ダス・ゲマイネ』

タイトルの『ダス・ゲマイネ』は、ドイツ語の「Das Gemeine(通俗性・卑俗性)」と、太宰治の出身地である津軽の言葉「んだすけまいね(だから駄目なんだ)」のダブルミーニングだとされている。

太宰自身は「卑属の勝利を書いた」と述べており、津軽弁の「んだすけまいね」を絡めたことは認めていない。

しかし、登場人物の印象的な台詞「頭がわるいから駄目なんだ。だらしがないから駄目なんだ。」からも分かるように、太宰が「んだすけまいね」の音を強く意識し、わざわざドイツ語のタイトルをつけたことは明らかと言えよう。

全4章からなるこの作品は、1~3章が主人公・佐野次郎(あだ名)の一人称で語られるが、終幕となる第4章は佐野の友人たちの台詞のみで展開される。

この奥深く前衛的な構成も見どころのひとつだ。

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太宰治『HUMAN LOST』

混沌とした太宰治の初期作品の中でも、とりわけ難解とされるのが本作『HUMAN LOST』だ。

この難解さが太宰フリークにはたまらないのだが、間違っても、太宰治初心者に最初の一冊としておすすめできるものではないのでご注意願いたい。

『HUMAN LOST』は太宰治自身が友人らの策にはまり、精神科に入院させられた時の経験を元にして書かれている。

もちろん、友人らは彼の荒みきった生活ぶりを心配して入院させたのだが、太宰が受けたショックは大きかった。

そうした心境や閉ざされた環境への愚痴を、狂った主人公へと託したのがこの『HUMAN LOST』だ。

後年には、太宰治の代表作である『人間失格』の元にもなったという本作。

太宰治作品にすっかり魅了されてしまった人は、ぜひこの機会に挑戦してみてはいかがだろうか。

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太宰治『走れメロス』

荒れに荒れた前期だったが、周囲の支えや結婚が転機となって、太宰治は安定した生活を送るようになる。

それと足並みを揃えるようにして、作風も穏やかで明るいものが多くなっていった。

本作『走れメロス』はその典型例とも言えるだろう。

有名な冒頭、「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」から始まる本作は、メロスとセリヌンティウスの友情を軸にした物語だ。

どんな苦難を前にしても決して折れず、友情のために走り続けるメロス。

分かりやすいテーマと、シンプルな勧善懲悪の物語である『走れメロス』は非常に読みやすく、国語の教科書にも多く掲載されている。

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太宰治『お伽草紙』

日本の昔話を太宰治が再解釈し、アレンジを加えたのが本作『お伽草紙』だ。

収録されているのは「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4作品で、いずれもよく知られた昔話をモチーフにしているため、太宰治初心者の人にも読みやすい作品となっている。

太宰の考えとユーモアがふんだんに詰め込まれた『お伽草紙』。

皮肉たっぷりの浦島太郎や理屈っぽい亀、小悪魔美女(兎)の尻を追いかけ回すやに下がった中年男(狸)など、太宰の独自解釈を心ゆくまで楽しめる作品だ。

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太宰治『津軽』

中期らしくのびのびとした筆致で書かれた『津軽』には、故郷・津軽半島を旅する太宰治と、土地の人々とのあたたかな交流が描かれている。

太宰作品に対してよくイメージされがちな「陰」の気配がまるで感じられない、伸びやかで明るい作品だ。

津軽地方の紀行文とも、太宰の自伝的小説とも取れる『津軽』。

行く出会う人々との爽やかな交わりが、明るくさっぱりとした読後感をもたらしてくれることだろう。

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太宰治『斜陽』

第二次世界大戦が終戦した1945年。

戦後の日本に絶望した太宰治は、ふたたび酒と薬物に溺れるようになり、作風にも深い影が差すようになった。

日本社会への絶望、人間への絶望、そして生への絶望。

遺言めいた内容が多くなってきた太宰後期作品において、決して外すことができないのが本作『斜陽』だ。

戦後の日本を舞台に、上流貴族が没落していくさまを描いた『斜陽』はまたたく間にベストセラーとなり、「斜陽族」という流行語も生まれた。

主人公である元華族令嬢のかず子を中心に、「最後の本物の貴族」である母、麻薬中毒の弟。

退廃した生活を送る小説家・上原ら四人の「滅びの美しさ」を描いた本作。

彼らがゆるやかな滅びの中にあり、その人生が好転することはきっとないと分かっているのにページをめくる手が止められないのは、太宰の描く「滅びの美しさ」がそれほど魅力的だからだろう。

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