誰もが知っている東京ディズニーリゾート。
そこでアルバイトとして働き始めた青年。
超がつくほどの有名な巨大テーマパークのバックステージを隅から隅まで読み渡すことが出来る。
登場人物達が織りなす人間ドラマを是非ご堪能あれ。
こんな人におすすめ!
- 他人の喜ぶ顔が見たい人
- 自分以外の誰かになりきってみたい人
- 東京ディズニーランド・シーで働いてみたい人
あらすじ・内容紹介
派遣社員の後藤。
東京ディズニーランドのキャストとして、本社の採用試験をパスして面接に来た青年。
たどたどしい台詞回し、引きつった笑いに寒いギャグと明らかに痛い印象を持たれた。
不合格かと思われたが、絶やさぬ笑顔とガッツで採用され、美術部スタッフとして働くこととなる。
しかし、ディズニーが好きで入社したにも関わらず、会社という現実を突きつけられる。
夢の国の住人としても扱ってもらえない組織の辛辣さに、後藤は断固として切り込んで、その深部へと踏み込んでいく。
『ミッキーマウスの憂鬱』の感想・特徴(ネタバレなし)
キャラクターイシューという仕事
後藤の仕事は、いわゆるキャラクターの着付け係だ。
しかも主要キャラクターではなく、サブキャラクターの着付けである。
後藤は意気揚々と主要キャラクターであるミッキー達の元へ駆けつけようとしたところ、トレーナーの尾野が後藤にクギを刺す。
美術部のステップ1が余計な口出しをするな
おとなしく美術部のリードやスーパーバイザーの言いつけを守ってろよ。垣根を越えて偉そうな口を叩くな
この会話からディズニーランドも会社だという現実を見た。
そして、正社員と派遣、階級の上下があることでディズニーランドも厳しい関係なのだろうと感じた。
ディズニーランドもすべてのアトラクションやパレードを滞りなく行っていくためには、それぞれに与えられた役目をこなしていくことが責務で、大きなテーマパークゆえの窮屈さも伺えた。
ミッキーの救出
ショーに使用するミッキーの着ぐるみが紛失し、準社員の女性が疑われ、後藤は本部の調査員への怒りを顕わにした。
組織の中で許可を取りあっていては、見つかるものも見つけられない。
止まっていたら誰も救えないし、ますます損害が大きくなってしまう。
要はディズニーランドの為にはならないということだ。
後藤だけでなく、ミッキーのキャスト役として出演している久川も後藤に続いて捜索に向かった。
同じくパレード用ミッキーのキャストとして出演している門倉に向かって、言い放つ。
おまえのミッキーは、俺にまかせておけ
こう言えることは、大人の男性としても働く者ともして憧れる。
素直にカッコいいと思える一言だ。
信頼している証拠なのだろう。
緊急事態に出くわすと、人間の本性が出てきてボロも出る。
まごまごして対処を考えあぐねるよりも間髪入れずに行動して事にあたる方が人としても尊敬できる。
夢の国の住人、そしてフィナーレ
幸いな事に、ミッキーの着ぐるみは配達員のミスでディズニーシーへ誤送され、ほとんど無傷に近い状態で発見された。
しかし、ビニールに包装はされているものの水没しかけている状態で発見される。
第一発見者の由美子は悲痛な声をあげながら、足がすくんでしまっていた。
駆け付けた久川、後藤もずぶ濡れになったりペンキをかぶりながらも見事救出に成功。
着ぐるみは無事だった。
これは事実として残る。
しかし、組織の中ではプロセスが重要であり、誰がミッキーの着ぐるみを救出したかが最重要なのだ。
正社員ではないからと卑屈になり、遠慮してしまう準社員と言われる者たち。
皆同じキャストであることには変わりない。
皆で夢と魔法の国を支えている一翼を担っている。
自分という人間が誇りを持ち、ここで働いていてよかった。
そのことに胸を張って仕事をしていってほしい。
登場人物の皆に「頑張れ」とエールを送りたくなった。
仕事は確実にこなさなければならないことだが、ただ歯車の様に働くだけで充実していると言えるのだろうか。
現実を見る事だけが仕事の全てではないはず。
こんな時、正社員の沼岡に向かって吠えた後藤の言葉が胸に刺さる。
僕たちはゲストの笑顔に接するのが好きです。そのためにこの仕事を選んだんです。ディズニーランドを支えるためなら、なんだってします。(中略)
たしかに規則を守ることは重要です。けれども、なによりも優先されるのはゲストのために働くことではないですか。ディズニーランドを永遠に素晴らしい楽園として維持していくことではないですか。僕らが愛しているのは会社じゃない、ディズニーランドなんです。あなたたちの立場を守るために働いているわけじゃありません!
まとめ
この小説はいわゆる青春小説と呼ばれるカテゴリに入るかもしれない。
台詞の一つひとつがむず痒くなる場面も多い。
しかし、仕事に対して誇りを持つこと、熱量をもって取り組めることは素敵だ。
テーマパークの働き方は機械的な一面もあるかもしれない。
しかしそれ以上にキャストの面々が暑苦しいくらいに圧倒的な熱量をもっている、そんな環境に憧れる作品だ。
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