年齢を重ねると、自分の生活が変わる出来事に何度も直面する。
仕事で責任あるポジションを任されたり、結婚して新しい家庭を築いたり。
はたまた親が倒れて介護を余儀なくされたり、病気になったりと。
私自身もそうだが、30歳前後いわゆるアラサーはまさに、仕事や恋愛・結婚、家族関係、健康などいろいろな悩みが出てくる年代だと思う。
しかも、複数の悩みが同時並行で出てくるので、感情が追い付かなくなる時もある。
山本文緒さんの『自転しながら公転する』の主人公・与野都もまさに、仕事、親の介護、恋愛そして結婚に悩んでいる。
等身大のアラサー女性が描かれたこの小説をご紹介する。
こんな人におすすめ!
- 幸せを探している女性
- アラサー女性の悩みが分からない男性
- 仕事・恋愛・結婚・親の介護などで悩むアラサー女性
あらすじ・内容紹介
32歳の与野都(よの みやこ)は、都内のアパレルショップを辞め、2年前に重度の更年期障害に悩まされる母の介護のため、実家がある茨城県牛久市へ戻った。
牛久のアウトレットモールにある、アパレルショップで契約社員として働きながら、休みの日には、父と分担しながら母の病院へ付き添っている。
仕事は、契約社員のため、アルバイトより待遇は良いが、正社員に比べると給料は低い。
取り扱いブランドに愛着はなく、職場の雰囲気はぎくしゃくしているし、本社から来ているMD(マーチャンダイザー)からは、セクハラを受ける。
一方、実家は金銭面では楽だが、母の容態が毎日安定しないため、目が離せず、1人暮らしをしたいと思っても、離れられずにいる。
また、ひょんなことから付き合い始めた、元ヤンの恋人・羽島貫一(はしま かんいち)は、人柄に問題はないが、中卒でしかも今は無職であるため、すぐに結婚を考えられない。
次々と沸き起こる問題に直面する都は、果たしてどう決断していくのか。
『自転しながら公転する』の感想・特徴(ネタバレなし)
矛盾する感情―揺れる都の気持ち―
仕事、家族の介護、恋愛で起こる問題に直面する都だが、彼女が抱える矛盾した感情がリアルであると感じた。
例えば、家族の問題では、実家にいると自由が利かないため、病気の母親を疎ましいと思うのが、いざ母親が居なくなると心配になっている。
仕事の面では、正社員の話が出ているのに、待遇が良くなると分かっていても、ブランドに愛着が持てず、正社員の話をのらりくらり交わしている。
そして何より、恋人・貫一との関係もはっきりさせない。
結婚はしたい。ここのところずっと考えたんだけど、私、結婚はしたいの。籍を入れるとか、事実婚だとかは相手と事情によるけど、特定のパートナーを持って一緒に暮らしたい。でもその相手が貫一でいいのか正直わからない。(中略)
自分の気持ちに自信がない。将来を誓うほどの覚悟ができてないの。
都のセリフは第三者からしたらイライラしそうだが、ライフステージを変えるほどの出来事を決めるには、失敗したくないから、自信と覚悟が必要だということが分かるだろう。
私自身も、かつて進学のことで悩んだし、仕事やプライベートについては現在進行形で悩み、決断できないでいることもある。
このように優柔不断な都の姿は、まさに現代に生きる人々を映していると思った。
都の恋人、羽島貫一という男
結婚願望があるのに、都が結婚を決めかねているのは、恋人・貫一の極端な二面性も影響している。
貫一は、中学卒業後、割烹のお店で修業していたが、都と出会った当時は、牛久のアウトレットモールにある回転寿司店で働くアルバイトだった。
しかも、元ヤンで喫煙者。
アウトレットモールの回転寿司店が閉店してから、職をなかなか探せずにいる。
都も始めは元ヤンゆえに警戒していたが、明治の文学作品や地球の公転の話を出す博識な面もあったり、東日本大震災の時には、現地に行ってボランティア活動を行ったり、介護施設に入所している父親の面倒を見たりと、元ヤンのイメージとはかけ離れた行動をしている。
そして何より、貫一が都の家を訪れた際に、急に倒れた都の父を慌てず、病院へと連れて行ってくれたのだ。
過去は元ヤンだったのかもしれないが、今の貫一の人柄に、都は引き付けられている。
それゆえ、都は何度も彼の嫌な面を見て別れを決断しようとしても、彼の良い面を見て、一緒に居たいと思ってしまい、また悩むのである。
都へはっきりダメ出しするそよか
貫一との関係に悩む都は、特に親しくしている友人2人に状況を説明している。
1人は婚活を経て結婚したが、子どもはいない絵里(えり)。
もう1人は高学歴のバツイチ彼氏がいる後輩のそよか。
2人には貫一とのアウトレットモールでの出会いから、直近の経済力がないのに高価なティファニーのネックレスをプレゼントされたことから始まったケンカに至るまで、詳細に話している。
絵里は中卒元ヤンで経済力がない貫一との交際を反対しているが、そよかは貫一ではなく、都にダメ出しをする。
せっかく素敵なプレゼントを彼がくれたのに、都さんは料簡が狭いと思いました。(中略)都さんに限ったことじゃないんですけど、お洒落な人って狭量な面があると思います。
一般的には絵里のように、その場にいない貫一の欠点を指摘して、都の交際を反対したりすると思う。
一方で、貫一の人柄に問題がないと思ったそよかは、面と向かって都の悪い部分を指摘する。
自分は人に気を使いすぎて言えないと思っていた都は、呆然としてしまう。
そして、自分の悩みは、拘りの強さから来ているのではないかと思い始める。
何かに拘れば拘るほど、人は心が狭くなっていく。
幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失くしていく。
年齢と経験を重ねて、視野が広がったと思っていても、拘りが強くなって寛容さや柔軟性が無くなっていることに気付かされたのかもしれない。
そよかの指摘は、心をえぐるような鋭さがある一方、悩む都を的確に表わしていると感じた。
まとめ
読んでいて、まるでジェットコースターに乗っているかのように、次々と悩みが出て来て目まぐるしかった。
しかし、都が直面した悩みは決して珍しいことではない。
読者である自分も悩んでいることだったり、またこれから直面するかもしれない悩みだったりする。
なので、都には少なからず共感を覚えるし、自分自身に重ねて読んだ部分も多かった。
直面する問題に、悩みに悩む都だが、ラストのシーン、特に「幸せ」について語るセリフでは爽快感を感じる。
「幸せとは何か?」を模索している人は必ず目を通してほしい。
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