夜毎に夢の中に現れ、しきりに家に誘おうとする女性。
廃屋から雛人形を持ち帰ったが故に、様々な恐怖に晒される者。
叔母からもらった祝儀絵を掛けていた男の周辺には、謎の女性の影が纏わり付き…。
7つの怪談が誘う、恐怖の世界。
こんな人におすすめ!
- 怪談が好きな人
- ホラー小説が好きな人
- 三津田信三氏の作品が好きな人
あらすじ・内容紹介
異業種との交流パーティに参加した、とある男性。
そこで知り合った女性と徐々に親しくなった彼は、しかし彼女の身勝手な発言の数々から徐々に距離を置くようになった。
そんなある日、彼は夢を見る。
夢の中で彼は、彼女の家へと招かれようとしてた。
夢は夜毎に進んでいき、ついに拒みきれなくなった彼は…(夢の家)。
廃屋に足を踏み入れた女性。
彼女は、廃屋の中にあった雛人形を持ち帰る。
その直後から頻発する、ペットや家族の不幸。
雛人形との関連を疑った彼女は人形を遠ざけようとするが、何をどうしても手元に戻ってきて…(ついてくるもの)。
ルームシェアをしている4人の女性。
しかし、その中の1人の部屋からは不気味な音が聞こえるようになる。
部屋に住んでいるのは、果たして人なのか…?(ルームシェアの怪)。
叔母から押し付けられ、壁にかけざるを得なくなった祝儀絵。
しかしその直後から、彼の周りには不審な女が纏わり付くようになる。
〈ペラペラだった〉と形容されるその女の正体とは…?(祝儀絵)。
入ってはいけないと言われる藪の中に、足を踏み入れた少年たち。
不気味な警告を無視し続けた彼らに襲い掛かる恐怖の、その正体とは…?(八幡藪知らず)。
メタホラーの名手・三津田信三氏が描く、実話怪談の姿をしたホラー短編集!
『ついてくるもの』の感想・特徴(ネタバレなし)
実話怪談の姿をした、7つの怪談
だから彼がどうなったのか、何も知らない。
今作は、著者である三津田信三氏やその友人・知人の方々が聞き集めた〈怪談〉、というスタイルで綴られている。
7つの短編が収められた、〈実話怪談ホラー〉とでも呼ぶべき作品だ。
その内容は実にバラエティー豊富。
〈夢の中で徐々に迫ってくるもの〉や〈何度捨てても帰ってくる人形〉などは、怪談の定番と言えば定番だが、そこは三津田信三氏の作品。
氏ならではの味付けがなされており、ありきたりさを見事に消しとばしている。
また『八幡藪知らず』などの〈伝承系(という表現が正しいのかは分からないが)〉は、氏の魅力が最大限に発揮されている。
〈禁忌とされた土地に立ち入る〉という、これも定番なシチュエーションに実在の伝承や因習が物語に組み込まれることで、(今作がフィクションであるならば)氏オリジナルの怪異〈モウドン〉の存在にリアリティを与えられている。
これにより真に迫った恐怖を煽る作風は、氏ならではのものだろう。
その他にも、ルームシェアをしていた女性4人の内の1人の様子がおかしくなり、その人物の部屋から不気味な音が聞こえてくるという『ルームシェアの怪』といった極めて現代的な怪談や、『祝儀絵』のような〈曰く付き〉の物に纏わる怪談など、実に多様な怪談が収録されている。
どの怪談も違った味わいの恐怖があるので、是非とも夜更に読んでみてほしい。
きっと、纏わり付くような恐怖を感じられるはずだ。
著者・三津田氏のホラー雑学
では、一体この「物」とは何か。
物語の中で、ホラー作品や怪談の紹介、過去に実際起こった怪現象の実例紹介、古くから伝わる因習の解説などが含まれるのも、三津田氏の作品の大きな特徴だ。
今作でも当然、その特徴は現れており、〈憑物筋〉や〈八幡の藪知らず〉といった伝承・因習の解説から、ジョン・ラッツ著『同居人求む』の紹介や江戸川乱歩作品への分析などが、多分に盛り込まれている。
三津田氏の豊富な知識量からくるこれらの要素は、氏の作品の大きな魅力だ。
過去の因習や風俗などの紹介・解説などは非常に勉強になるし、例えば〈因習に囚われた村〉系の物語を読む際などには、その舞台背景を理解する上での大きな助けとなる。
また、三津田氏がこれまでに触れてこられた作家や作品を紹介する際などは、〈ネタバレ厳禁〉な要素は巧みに隠しつつも、その魅力は簡潔に伝えてくれる。
きっと新たな作家・作品との出会いの場にもなってくれるはずだ。
その他にも、〈製作秘話〉のような要素が合間合間に挟まれるのも、氏の作品の特徴だろう。
(全てが事実であるとは限らないが)三津田氏の作品が生まれた背景などが語られるのは、氏のファンに取って嬉しいサービスではないだろうか。
加えて、上記のような紹介や背景を挟むことによって、物語に更なるリアリティが生まれるという効果もある。
どこまでが虚構で、どこからが現実なのかが曖昧な怪談の世界に、たっぷりと浸ることができること請負だ。
壮麗な表紙絵
しかし、改めて間近に眺めると、非常に気品の漂う容姿をしている。
イラストレーターの村田修氏が描く表紙絵も、今作の大きな魅力だ。
ミステリーやホラー、官能書籍を中心とした氏の描く表紙は、一目見て作品の魅力を伝えてくる美しさと力強さがある。
表題の『ついてくるもの』をモチーフにした、血涙を流す雛人形のイラストは、恐ろしさを感じさせつつも、つい見入ってしまうような魅力がある。
きっと、手に持っているだけで満足感を得られる1冊だ。
まとめ
実話怪談というスタイルで描かれる、7つのホラー短編を収めた今作は、メタホラーの名手である三津田氏の手腕によって、現実と虚構の境界線が曖昧になっている。
〈フィクションだろうと思いつつ、気づけば恐怖に囚われている〉という感覚を味わえるので、是非とも夜更過ぎに読んでいただきたいところだ。
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