自殺する間際、稀にメッセージを録音して残す人がいる。
とあるライターから、そんなメッセージを集めて記事にしないかと提案を受けた、編集者時代の〈三津田信三(みつだ しんぞう)〉。
テープの入手経路の不透明さを不審に思い、一度は断る三津田だったが、その直後に提案を持ちかけたライターは失踪。
さらに後日、三津田の元に1本のテープが届く。
ライターから送られてきたそのテープには、果たして何が収められているのか。
カセットやMDに保存された恐怖の体験談を文字に起こす時、果たして何が起こるのか。
読者にすら恐怖が迫り来る、6つの怪異譚。
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- ミステリー小説が好きな人
- 三津田信三氏の作品が好きな人
あらすじ・内容紹介
編集者時代の三津田信三の元に舞い込んだ、1つの企画案。
ライターの〈吉柳吉彦(きりゅう よしひこ)〉から齎されたのは、〈死の間際のメッセージをまとめて記事にしないか〉というものだった。
〈自殺する間際に、メッセージを録音して残す人がいる〉、という話に三津田は興味を惹かれるが、テープの入手経路があまりにも不透明だったことから、一度は断ることになる。
しかしその後、吉柳は失踪を遂げ、三津田の元には1本のテープが届いた。
吉柳から送られてきたと思しきこのテープには、果たして何が収められているのだろうか…(死人のテープ起こし)。
アルバイトとして、金満家の屋敷のアルバイトをすることになった女性、〈霜月麻衣子(しもつき まいこ)〉。
立派な屋敷で留守番をするだけという簡単な内容に、非常に割高な給料。
喜んで引き受けた麻衣子だったが、その屋敷で過ごす夜、彼女は想像を絶する恐怖の体験をすることになる…(留守番の夜)。
その他にも、カセットテープやMDに納められていた、全6つの怪談たちを収録。
それを1冊の本にまとめようとする著者・三津田信三氏と編集者・〈時任南海(ときとう なみ)〉に襲い掛かる、恐怖の正体とは。
三津田信三氏が描く、読者にすら恐怖が迫り来るホラー作品集。
『怪談のテープ起こし』の感想・特徴(ネタバレなし)
忍び寄る、6つの恐怖
ですから、このうち1作を移動させるだけで掲載順の問題はすむのではないでしょうか
6つの〈録音された怪談〉を文字に起こした、という今作。
1つのテーマに沿った作品でありながら、収録されている〈恐怖〉の中身は、非常にバラエティ豊かだ。
自殺者の末期の声を収めたテープを軸に物語が進んでいく『死人のテープ起こし』は、自殺に至るまでの陰々滅々とした経緯が語られることで、収録作の中でも特に暗い話となっている。
さらに、テープの内容に共通する〈とある要素〉が見えてくるに従い、死を選んだ者たちが最後に直面した悍しい恐怖が感じられ、非常に不気味な作品となっている。
打って変わって『留守番の夜』は、〈霜月麻衣子〉という女性がアルバイトとして留守番を引き受けた薄気味悪い屋敷で、恐怖の一夜を過ごすという如何にもな〈ホラー色〉の強い作品だ。
不気味な屋敷での体験は、何が真実で何が虚構なのかを見失わせるような不条理さを感じさせる上、彼女にアルバイトを持ちかけてきた屋敷の主やサークルのOGの存在も茫洋としており、得体の知れない気持ち悪さがある。
その他にも、ハイキングの中で遭遇した薄気味悪い体験を語る『集まった4人』や、恐怖の体験をうわ言のように繰り返す入院患者の言葉を綴った『屍と寝るな』、徐々に怪異が迫り来る王道の恐怖を味わえる『黄雨女』や『すれちがうもの』など、実に多様な〈恐怖の体験〉が収録されている。
どの話も、異なるベクトルを持った恐怖を味わうことができるため、きっとお気に入りの恐怖を見つけることができるはずだ。
また各話の最初には、テープを入手した経緯や作品の執筆に至ったきっかけなどが、三津田氏の十八番である〈ホラー知識〉を伴って語られる。
氏の作品のファンであれば、こちらも要注目ポイントであろう。
恐怖に纏わる雑学が豊富な〈幕間〉
他人の家の留守番をする
三津田氏の作品集の魅力は、収録されている怪談だけではない。
合間に挟まれる〈序章〉や〈幕間〉、〈終章〉では、今作を1冊の本として完成させるまでの過程が語られる。
各話の冒頭に挟まれたものとは別に、三津田氏の豊富な知識が盛り込まれた雑談が展開されており、それだけでも一読の価値があるだろう。
おそらくは、また別のホラー作品や怪談を嗜む際に、より楽しむことができるようになるはずだ。
さらに、本書を1冊の本として完成させる過程で、著者の三津田氏と編集者の〈時任南海〉氏に襲い掛かる、恐怖の体験からも目が離せない。
迫り来る怪異を治めるため、三津田氏がどのような解釈を披露するのかは、三津田信三作品のファンであれば毎度期待しているのではないだろうか。
今作でも、期待を裏切られることは決してないので、安心して楽しむことができるだろう。
〈テープ起こし〉という題材が纏う、リアリティー
とにかくカセットとMDを今すぐ送り返すこと
そもそもの話にはなってくるのだが、まずもって〈怪談〉を〈テープ起こし〉する、という行動そのものが、リアリティーを持った恐怖を味わえる要素ではないだろうか。
例えば実話怪談集の完成形とも言える『新耳袋』は、著者の中山市朗氏と木原浩勝氏が全国各地のフィールドワークを重ね、体験者に取材を行い続けることで作り上げられた作品だ。
両著者は、録音した取材内容を文字に起こす過程にも数多くの不可思議な現象を体験したと証言している。
そういった背景も込みで、〈怪談のテープ起こし〉というテーマを考えた際、その過程で怪異が迫ってくるかもしれないという恐怖には、よりリアリティーが生まれるようにも思う。
さらに新耳袋の例を挙げるとするならば、一夜で同書を読み切った読者にも怪異が降りかかったこともあるそうだ。
当然、今作でも同じことが起きないとは限らない。
読者にすら恐怖が迫ってくる恐ろしさを、是非とも満喫して欲しい。
まとめ
カセットテープやMDに収録された怪談を、テープ起こしして作り上げたと言う今作には、多種多様な恐怖の体験が収められている。
さらに、幕間で挟まれる三津田氏の雑学も恐怖を見事に彩っており、二重にも三重にも折り重なった恐怖が、読者自身にも迫ってくるかのような読書体験ができるはずだ。
是非とも、背後をしきりに確認したくなるような恐怖の物語の数々を、じっくりと堪能して欲しい。
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