家出した少年が、生きていくための手段として計画した空巣狙い。
計画を知って悪ノリした友人は、侵入先として近隣でも有名な幽霊屋敷を提案する。
流石に躊躇する少年だったが、友人からの〈家を隈なく周れば、金を出す〉と言う提案に惹かれ、幽霊屋敷へと侵入することになる。
整備が整っているにも関わらず、妙に生活感のない不気味な屋敷の中で、少年は背筋が凍るような恐怖の体験をすることになる…(誰かの家)。
日常と非日常に狭間に顔を覗かせる、6つの恐怖の体験談‼︎
目次
こんな人におすすめ!
- ホラー小説が好きな人
- 幽霊屋敷モノが好きな人
- ホラーや怪談に纏わる雑学を知りたい人
あらすじ・内容紹介
学生時代、必死にアルバイトを続けて買った念願のバイクに乗って、小旅行に出た〈高木(たかぎ)〉という男性。
貧乏旅行ながら、バンガローの主人の好意によって宿泊もできることになった彼は、意気揚々と海を見に出かける。
お盆が終わり、遊泳禁止となった海の浜辺で出会ったのは、〈汐漓(しおり)〉と名乗る美しい女性だった。
汐漓に言い寄られて悪い気がしない高木だったが、その夜、彼は悍しい恐怖の体験を味わうことになる…(ついてくるもの)。
幼少期、家族と深い関わり合いを持てず、いつも空想上の友人と遊んでいたとある男性。
家庭の事情で祖父母のもとへ引っ越した彼だったが、なぜか空想上の友達は一緒に来てはくれなかった。
〈空想上の友達〉の代わりに祖父母の家にいたのは、彼が後に〈あとあとさん〉と名付ける不気味な存在だった…(あとあとさん)。
金満家(大金持ち)の息子であり、小遣いにも不自由していない少年、〈鴻本眞(こうもと まこと)〉。
クラスで孤立していた彼の家に頻繁に遊びにいくようになった〈T〉はある日、鴻本邸で精巧に作られたドールハウスを見つける。
ドールハウスでの遊びに夢中になる2人の少年だったが、徐々に彼らの周辺には不気味な影が見え始め…(ドールハウスの怪)。
ホラーミステリーの名手、三津田信三氏が描く、日常と非日常の狭間に顔を覗かせる怪異と恐怖の数々‼︎
『誰かの家』の感想・特徴(ネタバレなし)
日常から非日常へと引きずり込まれる、恐怖の体験の数々
お願い。扉を開けて、私を中に入れて
ミステリーホラーの名手、三津田信三氏が描く、6つの怪奇短編が収められた今作。
単なる恐怖だけでなく、ミステリーというジャンルをも得意フィールドとする氏だからこそ、平凡な日常が非日常の恐怖に飲み込まれていくまでの過程が、丁寧かつロジカルに描写されている。
例えば、空想上の存在であったはずの何者かが、徐々に実態を持って迫ってくる恐怖を描いた短編『あとあとさん』。
この短編において、語り部たる〈私〉は空想上の友人(イマジナリーフレンド)のことを、あくまでも理知的に、〈非存在〉として扱っている。
にも関わらず、引っ越しに際して〈非存在〉であるはずのイマジナリーフレンドが、共に祖父母宅にくることを拒むという〈意志〉のようなものを見せることで、〈存在〉と〈非存在〉の境界が怪しく揺れる様を見事に描いている。
そして、共に来ることを拒んだイマジナリーフレンドにとってかわり、〈私〉の前には新たな〈非存在〉である〈あとあとさん〉が、少しずつ姿を見せるようになる。
さらにこの〈あとあとさん〉が、〈私〉の周辺に物理的な影響を与えることで〈非存在〉が〈存在〉として迫ってくる様子を臨場感たっぷりに描き切っている。
そのほかの収録作品も、語り部が理知的だからこそ、理知で割り切れない現象の恐怖が迫ってくる様子は真に迫っており、危機感を煽る。
是非とも、理不尽な存在に追い詰められる恐怖を、存分に楽しんで欲しい。
各話に挟まれる、三津田氏による〈雑学〉
ドールハウスの起源は、紀元前のエジプトにまで遡る
各話の最初には、三津田氏の作品ではお馴染みの〈ホラー・怪談雑学〉が語られている。
その内容は様々で、山海における怪異に関する短い語りから、〈東海道四谷怪談〉の成り立ちや〈お岩さんの祟り〉の解説、〈丑の刻参り〉に代表される呪術の、歴史や効果の解説と分析、さらにはドールハウスの歴史に至るまで様々だ。
三津田氏の豊富な知識から来るこれらの語りは、それらを纏めただけで1冊の本にできるのではないかという程、様々な知見を読者に与えてくれることだろう。
これらを読んでおくことで、より〈ホラー〉に対する造形が深まり、三津田氏の作品以外の作品を読む際にもきっと役立ってくれるはずだ。
文庫版の巻末には、三津田氏によるエッセイも収録
戸隠神社の中社近くの宿から、まず鏡池を目指す
こちらは講談社の文庫版のみになるが、今作の巻末には三津田氏による短いエッセイが収録されている。
『戸隠での不思議な体験』と銘打たれたそのエッセイでは、三津田氏が避暑のために訪れた戸隠で体験した、少し不思議な出来事が語られている。
恐ろしい話をたっぷり読んだ後の、ちょっとしたデザートのように楽しめるので、講談社のベルズ版で読んだことがある人も是非、講談社文庫版を手に取ってみて欲しい。
まとめ
ホラーミステリー作品の名手である三津田信三氏の怪奇短編集第3作目にあたる今作は、緻密に計算された恐ろしさと、豊富な雑学がふんだんに盛り込まれた作品であり、何度読んでも読者を飽きさせることはない。
さらに文庫版には、三津田氏によるエッセイも収録されるという豪華仕様だ。
上質な恐怖が堪能できるだけでなく、他のホラー作品を嗜む上での参考にもなる1冊なので、是非ともじっくりと読み込んでみて欲しい作品だ。
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