〈澤村電磁(さわむら でんじ)〉のペンネームで、ホラー小説の新人賞を獲得した〈香川隼樹(かがわ はやき)〉。
ペンネームを変更し、〈澤村伊智(さわむら いち)〉として作家デビューを果たした彼の隣には、最愛の美しい妻〈霧香(きりか)〉。
順風満帆だった彼の人生は、しかしとあるきっかけによって崩れ去ることになる。
彼が小説を書く契機となった、〈小説書くぞの会〉。
その参加者の1人、〈副島勇治(そえじま ゆうじ)〉は、彼のデビューに対する屈折した想いから作品を曲解。
香川に対して、執拗な嫌がらせを始める。
徐々にエスカレートする副島の嫌がらせに、徐々に消耗していく香川と霧香。
そして訪れる最悪の事態を迎え、香川は霧香に関する〈とある秘密〉を隠しきれなくなってしまう…。
『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした澤村伊智氏が描く、最悪の恐怖。
こんな人におすすめ!
- スプラッタ作品が好きな人
- メタフィクショナルな作品が好きな人
- 『ぼぎわんが、来る』を読了済みの人
あらすじ・内容紹介
宮部みゆき氏、綾辻行人氏、貴志祐介氏。
数多の名作を生み出し続ける、錚々たる作家陣が選考委員を務める〈日本ホラー小説大賞〉。
〈澤村電磁〉のペンネームで応募していた会社員、〈香川隼樹〉は、応募作〈ぼぎわん〉が対象を受賞したことを知る。
喜びに打ち震える香川の隣には、周囲に存在を隠している、最愛の妻〈霧香〉。
彼の人生は、順風満帆のはずだった。
しかしそんな彼の人生は、とある出来事を機に崩れ始める。
香川が小説を描き始める契機となった、〈小説書くぞの会〉。
参加者は、高校時代の友人〈梶山啓太(かじやま けいた)〉と、梶山の職場の先輩〈四方堂康平(しほうどう こうへい)〉、同じく梶山の大学時代の後輩〈竹井篤志(たけい あつし)〉、そしてこちらも梶山との繋がりで知り合った会社員〈副島勇治〉と、香川の5人。
祝杯を上げる彼らだったが、その最中で副島の様子が徐々におかしくなっていく。
香川のデビューに屈折した想いを抱え、香川の作品〈ぼぎわん〉を曲解し、徐々に執拗な嫌がらせを始める添島。
エスカレートし続ける嫌がらせに、香川と霧香は徐々に精神をすり減らしていく。
更に、存在を隠していた霧香の前に、副島が現れる。
最悪の事態を前に、香川は霧香に関する〈とある秘密〉を隠しきれなくなってしまい…。
デビュー作〈ぼぎわんが、来る〉で日本ホラー小説対象の最高評価を掻っ攫った新進気鋭の作家・澤村伊智が描く、狂気と恐怖の物語。
『恐怖小説キリカ』の感想・特徴(ネタバレなし)
著者の裏面が垣間見える、メタフィクショナルな構造
澤村電磁さんのご連絡先でしょうか
今作は、デビュー作『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たしたホラー小説家、〈澤村伊智〉こと〈香川隼樹〉、即ち著者自身が〈日本ホラー小説大賞〉を受賞するところから、物語が始まる。
その構造故に今作は、著者がホラー小説を書くに至った経緯や受賞後の様子など、謂わば〈舞台裏〉を垣間見ることができる作品だ。
勿論、今作が〈小説〉として描かれている以上、そこで明かされる舞台裏の全てが真実な訳ではない。
しかし、(筆者が調べたところによると)現実に即して描かれた描写もかなりあるようだ。
『ぼぎわんが、来る』に連なるホラー作品〈比嘉姉妹シリーズ〉や、王道のミステリー作品『予言の島』など、多数の名作を生み出してきた著者の裏側を知ることができるのは、ファンにとって嬉しい要素では無いだろうか。
移り変わる、恐怖のステージ
僕のヨメだ
更に上記の〈メタフィクショナル〉な設定は、今作で描かれる恐怖をより盛り上げる役割も果たしている。
〈日本ホラー小説大賞〉を受賞した香川に対する、友人〈副島勇治〉の嫉妬と暴走。
徐々に言動がおかしくなっていく副島の、香川に対する執拗な嫌がらせ。
更に、香川と霧香を直接傷つけようと迫ってくる副島の様子は、狂気に呑まれた人間の恐ろしさを十二分に描いている。
しかし副島の暴走は、今作が秘めた恐怖のほんの一部分に過ぎない。
彼の暴走によって香川が隠しきれなくなってしまった、霧香に関する〈1つの事実〉。
それが明かされた時、更なる恐怖が幕を開ける。
加速する狂気と、圧倒的な惨劇。
更にメタフィクショナルな構造が組み合わさることで、その恐怖は読者をも巻き込んでいくこととなる。
〈あとがき〉にまで徹底して組み込まれた恐怖のギミックを、存分に味わって欲しい。
また、講談社の特設サイトでは本書に対する〈最悪の書評レビュー〉が掲載されている。
読了後に読んでみると、更に作品世界が広がることだろう。
息もつかせぬ残酷描写
合っててよかっただろ?
作中で描かれる数々の残酷描写も、今作の大きな見どころだろう。
どのような経緯を経てそうなったのかはネタバレになってしまうため伏せるが、作中では多くの人間が殺人鬼の魔の手にかかる。
抵抗する者も必死に命乞いをする者も関係なく、ただ血の海に沈んでいく様は圧巻だ。
また、殺人鬼がターゲットに定める際の選考基準。
この基準が明確ゆえに、数々の惨殺の様子は、読者によってはある種の爽快感すら感じられるかもしれない。
息も吐かせぬ惨劇の様子を、是非とも楽しんで欲しい。
まとめ
『ぼぎわんが、来る』で鮮烈なデビューを果たした、著者〈澤村伊智〉自身を主役に据えた今作。
描かれる惨殺描写の爽快感はもとより、メタフィクショナルな構造を見事に活かした今作は、読者をも恐怖の只中に巻き込んでいく。
是非とも読了後、読者自身もネット上に書評レビューを書いてみて欲しい。
数日後、家のドアの向こうに〈誰か〉が待っているかもしれない。
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