甘い言葉に要注意!他人を完全にコントロールする”好青年”の手口とは?

『模倣犯』書影画像

人は皆、ギャップのある人物に惹かれるものだ。

仕事はバリバリこなすのに、時折少年じみた笑顔を見せる部長。

こざっぱりとした男前な性格なのに、二人きりになると甘えてくる年上女性。

学校でも札付きのワルが、降りしきる雨の中、捨てられた子犬を愛おしそうに抱きかかえる姿を見た日には、どんなJKだって恋に落ちるだろう。

宮部みゆき著『模倣犯』にも、そんなギャップを抱えた青年が登場する。

ただし、彼が持つギャップは、決して歓迎できる類のものではない。

なぜなら彼は、誰もが虜になる”好青年”という仮面をかぶった、おそるべき”マインドコントローラー”なのだから……

恐るべきマインドコントローラー「ピース」とは?

その青年は、幼少期よりずっと「ピース」というあだ名で呼ばれていた。

なぜなら彼は、いつもにこにこと笑っていたからだ。

そして、その笑顔が彼にとてもよく似合っていたからだ。

常に魅力的な笑顔を浮かべ、学業優秀、スポーツも万能なピースは、どこへ行っても人気者だった。

教師や周囲の大人からの覚えもよく、押しも押されもせぬ優等生であった。

ある日、ピースは転校先の小学校で栗橋浩美という男児に出会う。

ピースがやってくるまでクラス一の人気者だった浩美は、またたく間に裕美の地位を奪ったピースを毛嫌いし、距離を置こうとする。

しかしそのうち、二人は互いの能力を認め合うようになり、唯一無二の親友として絆を深めていくのだった――

ピースの手のひらの上で踊らされているとは気付きもせずに。

マインドコントローラーは人の自尊心をくすぐるのがうまい

当初は自分のことを毛嫌いしていた浩美を、ピースはどのように籠絡したのか。

それにはシンプルな3パターンほどの言葉があれば十分だった。

「やっぱり浩美はすごいな」

「僕にはとても真似できないよ」

「僕のことを分かってくれるのは浩美だけさ」

こうした言葉で浩美の高い自尊心をくすぐってやれば、それだけでよかった。

気付けば浩美はすっかりピースの虜となり、その忠実な駒となっていた。

もちろん、浩美は「親友」という対等な立場だと思っているし、ピースもそう口にしているのだが……

 

マインドコントローラーには、えてして魅力的な人物が多い。

言動は爽やかで、幅広い見識と深い思慮を持ち、いかにも「切れ者」らしい印象を抱かせる。

そんなすごい人物が、自分のことを認めてくれている。

そんなすごい人物が、自分のことを頼ってくれている。

「すごい人物に一目置かれる自分」。

その幻影は、自尊心が高い人にほどいっそう甘美に映るものだ。

そして、決してその幻影を手放したくないと願う。

だから、幻影を与えてくれる相手を大事に思うのだ。

機嫌を損ねないよう気を遣うのだ。

マインドコントローラーは「あなたは私と対応な人間なんですよ」と言う。

しかし、その裏側では「自尊心」という鎖に縛られた主従関係ができあがっているのだ。

あなたのそばの好青年にも、裏の顔はないだろうか……

栗橋浩美という駒を手中に収めたピースは、やがて女性ばかりを狙った劇場型犯罪に手を染めることとなる。

被害者に手を下したり、遺族やテレビ局をからかったりするのはもっぱら浩美の仕事だった。

ピースはあくまで裏方に徹し、自分が犯行に関わった証拠を可能なかぎり排除した。

いずれ自分たちに疑いの目が向けられた時、すべての罪を浩美にかぶせる心づもりだったからだ。

すべてが明らかになり、ピースという青年のグロテスクな一面が晒しだされるその直前まで、世間はピースを好青年と思い込んでいた。

騒動の中心人物として連日テレビに出演していながら、ほとんどの人が彼を疑いすらしなかったのだ。

マインドコントローラーは、魅力的な仮面をかぶって世間に潜んでいる。

そして、あなたが心地いいと感じる言葉を吐き、あなたの自尊心を巧みにくすぐってくるのだ。

もしもあなたが、マインドコントローラーの甘い言葉に誘導され、取り返しのつかない大きな過ちを犯してしまったとしたら……。

決して道を踏み外さないよう、甘い言葉には要注意だ。

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