私がBLというものを知り、腐海に入り浸るようになってから早十数年。先日、またもや尊い作品を見つけてしまいました。その名も、作家・三浦しをんの小説『月魚』(KADOKAWA)。友だち以上、恋人未満の関係… もうたまりません!
私のハートを鷲掴みにしたのは、本田真志喜(ほんだ ましき)と瀬名垣太一(せながき たいち)の微妙な関係。
真志喜は古本屋「無窮堂」の若き当主であり、瀬名垣とは1つ年下。いっぽう瀬名垣は“せどり屋”の息子で、現在は古本の卸屋を営んでいます。
2人は兄弟同然のように育った幼馴染でありながら、ある事件をきっかけに関係性が一変。
わだかまりが消えぬまま“親友ごっこ”を続けてきましたが、そんな2人に転機が訪れる… というのがおおまかなあらすじです。
彼らに何が起きたのかはさておき、今回注目すべきは真志喜&瀬名垣のやり取り。
たった数ページ読んだだけでも、2人の尊みが爆発しているのです。
たとえば物語の序盤にて、瀬名垣が真志喜のもとを訪れた時のこと。
瀬名垣が「おーい、真志喜。開けてくれ」と呼びかけると、店内から不機嫌そうな真志喜がやってきます。
渋々店の硝子戸を開けたかと思いきや、真志喜は開口一番に「煙草は吸うなと言ってるだろう」とぴしゃり。
ここまで聞くと真志喜が随分と冷めているように見えますが、その後の2人のやりとりにご注目ください。下記は真志喜の台詞から始まります。
「明日、吸い殻ちゃんと拾えよ」
「へえ、泊まっていっていいんだ」
茶化すような瀬名垣の言葉に、細い真志喜の首筋がうっすらと桜色に染まった。
え、あれだけ塩対応だったのに泊まること前提だったの?
しかも“首筋が桜色に染まった”って… もしや照れてる?
何なの、このそれとなく愛が溢れている感じ。すごくイイ。
わかりますか? 2人の愛に似た友情が言葉の節々から垣間見え、容赦なく腐女子心をかき乱していく感覚を…。
もはや腐海の住人じゃなくてもトキめくはず。
しかも先ほどの場面に至る直前には、こんな描写も。以下のシーンは、真志喜に煙草を咎められた直後の場面です。
「わかってるよ。ちゃんと消しただろ?」
そう言って、真志喜の白い額に落ちかかる淡い色の髪に触れる。
なぜそこで髪に触れるのおおおぉぉぉぉぉ!!?
意図してやってるのか知らないですけど、瀬名垣は惜しみなく真志喜への愛が溢れているから困ります(笑)。
しかも物語の終盤では、真志喜をバックハグ。もう心臓もちませんって…。
そして忘れてならないのが、2人は決して恋人ではないこと。
付き合ってはいないけれど、友だち以上の愛を築き上げているのです。
このどっちつかずの微妙な関係性がじつに素晴らしい。
そもそも作者の三浦しをんといえば、大のBL好きで知られる作家。
だからこそ腐女子心をくすぐりながらも、BLという言葉では測りきれない愛を描けたのではないでしょうか。
先生、美しくて儚くて… 尊い世界をありがとう!
この記事を読んだあなたにおすすめ!







書き手にコメントを届ける