古き良き昭和が舞台の作品には、私たちのノスタルジーをかきたてるレトロな風物がたくさん登場する。
あなたが平成生まれなら「へーこんなのあったんだ!」と驚くかもしれない。
今回は朱川湊人の『わくらば日記』から、昭和を象徴するアイテムやブームを引用してみたい。
トラックでやってくるパン売りおじさん
『わくらば日記』は、人や物の過去を視る不思議な力を持ったねえさまと、その妹の和歌子(愛称・ワッコ)が活躍する連作ミステリー。
本作において、和歌子たちが遊ぶ公園にやってくるのがパン売りおじさんだ。
彼は子どもたちが公園で遊んでいると、トラックでパンを売りにやってくる。
トラックの荷台にはラーメン屋が出前に使うような手提げ箱があって、その中に食パンが入っている。
一応クリームパンなど普通のパンもあるが、断然食パンが人気だ。
子どもたちはお駄賃を握り締めてトラックに群がり、自分が食べたいパンを注文する。
食パンに塗るものはジャム、ピーナッツバター、チョコレートソース、砂糖とマーガリンと各種取り揃えられていて、それぞれお値段のグレードが微妙に異なる。
サービス精神旺盛なおじさんは二段重ねで層を作り、チョコレ―トの上に平べったくマーガリンを塗ってピーナッツバターを塗る、なんて高等テクまで披露してくれるのだ。
当然このパフォーマンスに子どもたちは大喜び。
お値段は駄菓子と一緒で手頃、その上手軽に小腹を満たせるとあって、パン売りおじさんは皆の人気者だった。
コアラのようなポーズが可愛いだっこちゃん
新しいもの好きでおきゃんな和歌子は、だっこちゃんを欲しがっている。
だっこちゃんは1960年4月に販売され、若い女性の間で爆発的なブームになったゴム人形だ。
発売当初は木のぼりウィンキーや黒ん坊ブラちゃんとも呼ばれたが、やがて「だっこちゃん」の愛称で定着した。
見た目は全身真っ黒な人形で、両手足が輪っかになっている為、コアラのように腕にぶらさげて歩くことができる。
海水浴場では水着姿の女性が腕にぶらさげて歩く姿が目立ち、当時のニュース映像でも人気のほどがうかがえる。
ところがこのだっこちゃん、昭和63年に製造停止されてしまった。
ちびくろサンボと同じく、人種差別としてアメリカから批判が出たのだ。
元々の名前が黒ん坊ブラちゃんだったことを考えればやむなしだが、ちょっと寂しい。
ラブレターを代筆する恋文横丁
本作の続編である『わくらば追慕抄』にて、ワッコたちは記憶喪失の女性の過去を辿り、彼女が以前働いていた渋谷の恋文横丁へ行く。
恋文横丁とは進駐軍の兵士へのラブレターを代筆する店が並んだ通だ。
第二次世界大戦直後から朝鮮戦争中にかけて、日本には多くのアメリカ軍兵士が駐屯していた。
彼らと恋愛関係になった女性の大半は英語の読み書きができず、それ故ラブレターの代筆を頼んで気持ちを伝えたのである。
恋文横丁なるロマンチックな名前が示すとおり、当時の代筆屋はキューピッドだったのだ。
戦争が終わり、祖国に帰る兵士に別れの手紙を依頼する女性もいたらしい。
現在も史跡として残るこの横丁を訪れた際は、うたかたのように生まれては消えていった、儚い恋に想いを寄せてみてほしい。
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