夏目漱石おすすめ作品10選【人の心とエゴに迫る近代文学の巨頭】

日本近代文学の巨頭、夏目漱石。

2007年までに発行された千円紙幣には彼の肖像画が用いられていたため、日本人にとって最も顔馴染みのある作家のひとりと言えるだろう。

そんな夏目漱石の作風は、一般に「余裕派」と呼ばれている。

余裕をもって人生に臨み、高踏的な見方で物事を捉える――どこか達観した雰囲気を持つ、戦前の日本文学の流派だ。

当時の文壇は自然主義が主流であり、借金苦にあえぐ貧乏学生や、夫の目を盗んで不貞に溺れる妻などの姿を肉肉しく描いた小説が多かった。

そんな中、人生とはなにか、人間とはどうあるべきか、といった高尚なテーマを掲げた「余裕派」の一派は、ともすれば嘲笑の的となることも珍しくなかった。

しかし、「余裕派」の筆頭ともいうべき夏目漱石はヒット作に次ぐヒット作を生み出し、その多くが今も読書愛好家から絶大な支持を受けている。

この記事では、そんな夏目漱石の、言わずと知れた名作10選をご紹介する。

夏目漱石『吾輩は猫である』

夏目漱石の処女作である本作。

たとえ本作の内容までは知らずとも、その書き出しである「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」という有名すぎるフレーズは、きっと誰もが一度は目に(あるいは耳に)したことがあるだろう。

『吾輩は猫である』の主人公は、中学校の英語教師・珍野苦沙弥(ちんの くしゃみ)の家で飼われる名無しの猫こと「吾輩」。

猫である「吾輩」の目を通じて、珍野家をはじめとする人間たちの様子がユーモラスに描かれており、人間に対する痛烈な皮肉がいいスパイスとなっている作品だ。

『吾輩は猫である』の基本情報
出版社 KADOKAWA
出版日 1962/09/13
ページ数 578ページ
発行形態 単行本、文庫、電子書籍、オーディオブック

夏目漱石『夢十夜』

青空文庫で『夢十夜』を読む

タイトル通り、十の夜の夢からなる短編集。それが『夢十夜』だ。

第一夜から第十夜までの話に繋がりはなく、時代背景や主人公もそれぞれ異なる。

一話一話はさほど長くないので、夏目漱石入門書としてもおすすめだ。

『夢十夜』が、夏目漱石自身が見た夢をもとにして書かれたのか、あるいは完全な創作物なのかは定かではない。

『吾輩は猫である』や『こころ』などの長編小説と比べると異質な作品ではあるものの、漱石特有の美しい筆致は健在で、官能的であったり幻想的であったり、あるいは迫りくる恐怖に急き立てられるような焦燥感を味わうことができる。

夏目漱石『坊っちゃん』

後述する『こころ』と並んで世に親しまれている作品が『坊っちゃん』だろう。

初期の代表作とされる『坊っちゃん』だが、夏目漱石はこれをわずか10日足らずで書き上げたというから驚きだ。

本作の主人公は、江戸っ子気質で血気盛んな新任数学教師「坊っちゃん」。

四国の旧制中学校に赴任した「坊っちゃん」を待ち受けていたのは、わんぱくな生徒たち、そして底意地の悪い教頭(通称「赤シャツ」)をはじめとする教師陣だった。

赴任早々問題を起こす「坊っちゃん」だが、持ち前の無鉄砲さでこれらを解決していくさまは痛快で、胸がスカッと心地よくなる。

描かれる登場人物らは皆どこか滑稽で、夏目漱石作品の中でもとりわけ大衆向けの読みやすい作品だ。

『坊っちゃん』の基本情報
出版社 集英社
出版日 1991/2/20
ページ数 228ページ
発行形態 単行本、文庫、電子書籍、オーディオブック

夏目漱石『こころ』

ヒット作が多い夏目漱石作品の中でも、図抜けた知名度を誇るのが本作『こころ』だ。

2016年時点での発行部数は718万部(新潮文庫版)を突破し、名実ともに「日本で最も売れている本」といえる。

時は明治末期。鎌倉の由比ヶ浜で出会った主人公の「私」と「先生」は、東京に戻ってからも親しく交流をかわす。

やがて父親の病態悪化を受けて郷里に帰った「私」だが、ある日その手元に分厚い手紙が届く。

それが「先生」の遺書だと気付いた「私」は……。

『彼岸過迄』『行人』に続く、夏目漱石後期3部作の最後の作品である『こころ』。

前2作同様、人間のエゴイズムと倫理観の葛藤を深く表現した本作だが、とりわけ「先生」の過ちや後悔が詳らかになる第3章ではその趣が強く、漱石特有の美しい筆致で人間の苦悩が描かれている。

夏目漱石『こころ』書影画像夏目漱石『こころ』あらすじと感想 【人間の心に鋭く深く迫る、永遠の名作!】
『こころ』の基本情報
出版社 KADOKAWA
出版日 2004/05/10
ページ数 335ページ
発行形態 文庫、電子書籍

夏目漱石『草枕』

初期の名作と評価されている『草枕』。

書き出しの「山路を登りながら、こう考えた。」に続く「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」と嘆く冒頭部分が特に有名だ。

100年以上も前に発表された『草枕』だが、この嘆きは現代社会にも大いに通じるところがある。

舞台は日露戦争下のとある山中。

主人公の洋画家は、宿に出戻っていた「若い奥様」の那美と知り合う。

やがて主人公は那美に自分の画を描いてほしいと頼まれるものの、主人公は彼女には「足りないところがある」としてこれを断るのだが……。

本作で描かれる感覚美の世界は、漱石らを「余裕派」と揶揄した自然主義文学への批判が込められているとも言われている。

その他にも、人の世の生きづらさや(漱石風に言うのであれば「非人情」)、西欧化に揺れる日本において漱石が考える芸術論などが深く綴られた作品だ。

『草枕』の基本情報
出版社 新潮社
出版日 2005/09/01
ページ数 256ページ
発行形態 単行本、文庫、電子書籍、オーディオブック

夏目漱石『三四郎』

後述する『それから』『門』とあわせて前期三部作とされる『三四郎』。

主人公の小川三四郎は、初心で生真面目な田舎青年だ。

物語は、東京帝国大学に合格した彼が、郷里の九州から上京してきたことで始まる。

女性に対する免疫がまるでなく、誤って相部屋にされた人妻にも手を出せぬまま夜を明かし、別れ際に「貴方はよっぽど度胸のない方ですね」と詰られるほどの三四郎だが、東京で出会った美しく教養ある娘・美穪子に次第に心を奪われていく。

純朴な青年・三四郎にスポットを当て、明治末期の東京で成長していく青年の姿を描いた『三四郎』。

アイデンティティの確立に悩み、同級生に対する劣等感に苛まれ、恋の駆け引きに翻弄される三四郎の姿は、同年代の読者には親近感を、もう少し歳を重ねた読者にはかつての青春時代を思い起こさせることだろう。

『三四郎』の基本情報
出版社 新潮社
出版日 1948/10/27
ページ数 368ページ
発行形態 単行本、文庫、電子書籍、オーディオブック

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