次々とベストセラーを生み出し続ける売れっ子作家・伊坂幸太郎。
彼の作品にはどれも緻密な伏線が張り巡らされ、エンタメ色の強いミステリーとして完成されています。ユーモラスな登場人物やアクロバティックな物語は、読書の快感を教えてくれるはず。
今回はそんな伊坂幸太郎のおすすめ小説をランキング形式で28冊ご紹介します!
目次
- 1位『死神の精度』
- 2位『陽気なギャングシリーズ』
- 3位『砂漠』
- 4位『アヒルと鴨のコインロッカー』
- 5位『AX』
- 6位『重力ピエロ』
- 7位『チルドレン』
- 8位『ゴールデンスランバー』
- 9位『逆ソクラテス』
- 10位『ペッパーズ・ゴースト』
- 11位『マリアビートル』
- 12位『オーデュボンの祈り』
- 13位『バイバイ、ブラックバード』
- 14位『終末のフール』
- 15位『アイネクライネナハトムジーク』
- 16位『グラスホッパー』
- 17位『シーソーモンスター』
- 18位『クジラアタマの王様』
- 19位『魔王』
- 20位『マイクロスパイ・アンサンブル』
- 21位『オー!ファーザー』
- 22位『フーガはユーガ』
- 23位『火星に住むつもりかい?』
- 24位『ホワイトラビット』
- 25位『ガソリン生活』
- 26位『モダンタイムス』
- 27位『ラッシュライフ』
- 28位『フィッシュストーリー』
1位『死神の精度』
第57回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞
まさみ
主人公は人間に紛れた死神・千葉。彼の仕事は対象に一週間張り付き、可か不可の審判を下すこと。可と判定された人間は命を刈り取られる運命なのですが……。
音楽を愛する風変わりな死神と、癖が強めな調査対象の交流が独特のとぼけたタッチで描かれるファンタジー風味のミステリー。それぞれ独立した短編と見せかけ、最後で綺麗に伏線回収する手腕はお見事。
人間の生死に対し淡白なスタンスをとる千葉との関わりを経て、対象の価値観が変化していく過程も読みごたえがありました。特に最後の「死神対老女」は傑作!シリアスな場面も深刻になりすぎず、くすりと笑えます。読みやすく読後感が格別な短編集なので、伊坂幸太郎入門編におすすめです。
2位『陽気なギャングシリーズ』
映画化
まさみ
人間嘘発見機、演説の達人、天才スリ、正確無比な体内時計を持った女の四人が結成した強盗団。メンバー同士仲が良く、これまでの犯行は至って順調でしたが、ある日何者かに金を横取りされてしまい…。
それぞれ独自の哲学と特殊能力を持った面々が活躍する愉快痛快なクライムノベル。主人公の成瀬たちは強盗であるもののいたずらに他人を傷付けず、義賊のように颯爽としています。各々の個性を生かした犯罪計画の全容は、実に洗練されていて痺れました。成瀬たちを支えるユニークな家族にも自然と愛着が湧いてしまいます。
悪党であっても悪人ではない、陽気なギャングたちにぜひとも心を奪われてください。
ふみち
「とにかく面白い!」の一言に尽きます。
殺し屋シリーズとはまた違った味があり、ストーリーのテンポも良く、ラストのスッキリ感は、きっとどの作品よりも上をいくと思います。所々で出てくる「格言」に共感出来たり、納得してしまうことも楽しみの1つであり、惹きつけられる魅力です。
銀行強盗って悪いことのはずなのに、この本を通して4人と関われば何だか不思議と憧れてしまいます。
3位『砂漠』
まさみ
仙台の大学に進学した春は何事にも冷めた青年。しかし個性的な4人の仲間を得た事から充実した青春を送ります。麻雀や合コンに夢中になり、時に犯罪者を追跡する日々の中、春を取り巻く友人たちの関係性は変化していき……。
伊坂幸太郎の青春小説の金字塔。作者のホームタウンである仙台を舞台に、男女5人の大学生の日常を描きます。
用がないのに集まり麻雀したりだべったり、学生時代の記憶が甦るような描写の数々は郷愁をかきたてることうけあい。一方でモラトリアムの倦怠感や焦燥感も描かれており、将来の選択に悩む春たちの生き様に感情移入してしまいました。リアルで学生の方はもちろんですが、既に大人になり当時を回想したい読者にもおすすめです。
ahiru
砂漠に転げ落ちた大人として、忘れかけた大切なことを沢山思い出させてくれる作品でした。若い人にはぜひ読んでほしい…砂漠に押し出される前に。
人を諦めないだとか、信じるだとか…大げさなことじゃなく、小さな力の関わり合いこそが生きる大きな力になる。そんなことを感じてほしいと思います。
うぐはら
東西南北+アルファの中で一番「砂漠に雪を降らせる」ことを目的とし、無鉄砲で負けず嫌いな西嶋が大好きです。ゲームをしながら、大量に本を借りて、西嶋なりに鳥井のことを心配していたシーンにはほろりとしました。
「人間にとっての最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである。」学長の言葉を胸に刻んで、最高の仲間たちを築き上げていけたら良いですね。こんな青春を過ごしてみたかったなあ。
4位『アヒルと鴨のコインロッカー』
第25回吉川英治文学新人賞受賞/映画化
引っ越し先のアパートで悪魔じみた青年と出会った主人公。初対面にもかからず本屋強盗を持ちかけてくる彼に戸惑うものの、青年の目的は一冊の広辞苑で……?
現在と過去が交錯する構成に周到な伏線が張られたミステリー。冒頭の掴みと引きがばっちりで、本屋に強盗、しかも広辞苑?と困惑してるうちにどんどん引き込まれました。なぜ本屋を狙うのか、その動機が判明した時の衝撃は忘れられません。
読者の先入観を逆手にとったトリックもお見事で、気持ちよく騙されました。勧善懲悪でスッキリ解決とはいかない、モヤモヤした結末にも考えさせられます。伊坂幸太郎節炸裂のミステリーを読みたい方はぜひ読んでください。
違和感と爽快感。最後の悲壮感まで病みつきになる作品。
セクションごとに違和感を投げつけ、時間を行ったり来たりしスローペースに進む。しかし、バラバラだった人物や背景が繋がった瞬間、ストーリーはスピードを上げて走り出す。走り出した瞬間、読むスピードも上がりリーディングハイに!爽快感がたまらなく好きです。走り抜けた先に予想を裏切る展開が待っていますが、その悲壮感も心地よいです。
読み終えたらボブディランの「風に吹かれて」聴きたくなるかも…
5位『AX』
第6回静岡書店大賞(小説部門) 大賞受賞/フタバベストセレクション2017(フタバ図書) 第1位
殺し屋なのに、恐妻家。そのギャップがまた新しい!兜の「家族を愛する気持ち」はすごく微笑ましくて、とても温かい。素敵な夫で、素晴らしい父親だなと読みながら感じられます。
ストーリー後半の展開には驚かされるはず!そして、ラストはとにかく涙で、温かいものが心と体に広がり癒されます。
そこまで本好きでない私でさえ1日で読了!
外の顔は殺し屋なんだけど、家では優しいパパであり妻に気を使って生きてる主人公「兜」がコミカル。その上、インド映画並に全ての感情を引き出してくる伊坂幸太郎の筆力に脱帽しました。
ラストにかける伏線が神業すぎて、ページをめくる手が止まらなくなります。読み終わった数日間はきっと、兜のように魚肉ソーセージを食べたくなるでしょう(笑)
最強の殺し屋はー恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。
6位『重力ピエロ』
映画化
大学院生の泉水には、美形で絵の才能に恵まれた弟・春がいます。春は泉水の母親が強姦されてできた子どもで、二人は異父兄弟でした。ある日、彼らが住む仙台市内で連続放火事件が発生し、泉水と春は犯人を追い始めます。
遺伝の不思議と親子や家族の絆を絡めて描いた感動ミステリー。型破りな春と博識な泉水、好対照な兄弟の対比が秀逸で引き込まれます。春の過酷な生い立ちを救済するヒューマンドラマとしても読みごたえ抜群で、入院中の父が血の繋がらない息子にかけた言葉、「お前は俺に似て嘘が下手だ」にもらい泣きしました。
互いの幸せを心から願い合える家族の間には、血よりも濃い絆が芽生えると信じたい人におすすめです。
「春が二階から落ちてきた」という一行が今も忘れられません。
春は、女子高生を守るためにわざわざ悪人役になって、釘バッドを振り回しているんですよね。
重い内容を取り扱っているだけに、涙なしでは読むことは不可能なのですが、ピエロ(道化)になれば、重力さえも自由に操ることができるというセリフに、「不幸な人生も、自らの意思で操っていけ」という、伊坂さんらしい励ましを貰ったような気がしています。
7位『チルドレン』
やることなすこと破天荒だが憎めない、不思議な魅力を持った男・陣内。そんな型破りな彼が少年犯罪を担当する家庭裁判所調査官となり、大胆な行動力と自由な発想力で事件を解決していきます。
とにかく陣内の愛すべきキャラクターが素晴らしい!一見無茶苦茶なようで芯が通っており、こうと決めたらとことんやりぬく、ハートの熱さに痺れます。
テーマがテーマだけに胸が痛む展開も多いのですが、陣内のユーモラスな言動が緩衝材の役目を果たし、読後感は爽快。一方で世論が加害者や加害者家族をリンチする是非や、主観によって善と悪が裏返る、正義の本質を考えさせられました。
少年犯罪に興味がある方や陣内の魅力にハマりたい方におすすめです。
陣内の暴走気味でムチャぶりなキャラがいいですね。
あんなにやりたい放題、自分の言いたいことを言っているのに、嫌味が一つもない。
大切なことをズバッと言う。彼がいるだけで犯罪が減りそうですね。それはきっと伊坂さんが正直だからだと思います。
「そもそも大人が格好良ければ、子供はブレねえんだよ」
この言葉にしびれます。
8位『ゴールデンスランバー』
映画化
失業保険で暮らす冴えない青年・青柳雅春。暴漢に襲われたアイドルを偶然助けた事で一躍脚光を浴びた彼ですが、突如として首相暗殺の冤罪を着せられて……。
天国から地獄へ突き落とされた主人公の決死の逃亡劇を描いた傑作。孤立無援の状況下において、警察の執拗な追跡を躱し逃げ続ける雅春の姿にハラハラドキドキ。
雅春をヒーロー扱いしておきながらあっさり手のひらを返す大衆の身勝手さ、雅春を犯人と決めつけ叩く世論の残酷さにはやきもきします。しかし物語が進むと雅春を信じる者が増え始め、中盤以降の怒涛の伏線回収と相まって、実に清々しいラストを迎えます。
メディアに振り回されがちな方は、これを読んで自分を見直してみてはいかがでしょうか。
9位『逆ソクラテス』
小学6年生の加賀は転校生・安斎と仲良くなります。安斎はクラスで落ちこぼれ扱いされている草壁を気にかけ、彼を馬鹿にする担任教師を見返してやろうと、加賀たちを巻き込んだ作戦を立てるのですが……。
主人公は思春期の入口に立った少年少女で、日常の些細な理不尽やそれに対する不満、あるいは疎外感がとてもリアルに描写されています。大人向けのイメージが強い伊坂幸太郎ですが、児童文学の書き手としても優れていると、これを読んで考え方を改めました。
加賀たちが育む友情や草壁の頑張りも痛快で、善良な人間がきちんと報われる結末に拍手。後味がとても良いです。親子で読めるミステリーをさがしている方や、小中学生の伊坂幸太郎入門編としてもおすすめです。
10位『ペッパーズ・ゴースト』
中学校の国語教師・檀は一見平凡な人物ですが、少しだけ変わった能力を持っていました。そんな檀先生の教え子の少女は、こっそり小説を執筆していたのですが、この原稿とささやかな校則違反がきっかけで、檀先生は思いがけないトラブルに巻き込まれていきます。
ニーチェの格言が非常に効果的に引用されているのに注目。悪いニュースを優先し、普通に良い話は取り上げないマスコミへの批評など、鋭い社会風刺にドキリとしました。
檀先生と利発な生徒たちの絡みも面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。犯罪者がそうならざるを得なかった背景にも触れられるので、全登場人物に感情移入が捗ります。世の中の理不尽に疑問を持った方はぜひ読んでください。
11位『マリアビートル』
映画化
業界一ツキがない殺し屋・七尾は「ある人物の鞄を奪え」と命令され新幹線に乗り込みます。しかし車中には同じ殺し屋コンビの檸檬と蜜柑、息子を瀕死にした中学生に復讐を企てる木村も乗っており…。
複数の人物の思惑が錯綜し、展開が二転三転するオフビートなアクション小説。視点の切り替えを上手く使い、軽快なテンポを維持しています。キャラクターも非常に魅力的で、新幹線だからこそ起こり得るニアミスや、それがトリガーとなり勃発するバトルに興奮しました。ある者は復讐のため、ある者は仕事のため。走る密室に閉じ込められた各々の目的が流動的に絡み合い、クライマックスで綺麗に収束する構成はさすがでした。
疾走感あふれる殺し屋小説をさがしている方は必読です。
12位『オーデュボンの祈り』
第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞
コンビニ強盗に失敗し逃亡中の伊藤は、ふと気付くと知らない島に飛ばされていました。そこは、未来視ができるカカシが見守る場所でした。
翌日カカシがバラバラにされる事件が発生。犯人は誰なのでしょうか?
ちょっとおかしく切ない伊坂ワールド炸裂のデビュー作。不思議な事がごく普通に起こり得るシュールな世界観と、いずれ劣らずユニークな登場人物たちが最高です。
喋るカカシが殺される展開も衝撃的で、様々な人物の思惑が錯綜する奇想天外なストーリーにページをめくる手が止まりません。
全編通して軽やかなユーモアとシニカルな風刺が散りばめられ、自然破壊や人間関係に対する考えを改めるきっかけになりました。伏線回収も見事で、全ての謎が綺麗にとけるラストは爽快感MAX!
13位『バイバイ、ブラックバード』
ドラマ化
主人公の星野一彦は5人の恋人に別れを告げる決意をします。それというのも彼は、もうすぐバスでどこかへ連れていかれてしまうらしいのです。そんな一彦のそばには、彼の見張り役を務める粗暴な女・繭美が付いていました。一彦は無事5人の女たちと手を切れるのでしょうか?
「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」を塗り潰した辞書を持ち歩く繭美、5人の女と別れたい彦。「コイツは一体なんなんだ?」と疑問を投げかけたのち、巧みなストーリー構成で伏線を回収し、「そういうことだったのか!」と驚かせる手腕が見事でした。一彦と繭美の価値観の違いも興味深く、どちらに共感するかでラストの解釈が分かれそうです。
正反対の男女の会話劇が好きな方、損はさせません。
14位『終末のフール』
8年後に小惑星が衝突し、地球が滅亡すると予言された5年後。仙台北部の団地「ヒルズタウン」に暮らす住民たちは、諦念と倦怠が支配する終末の日々を生きながら、家族や恋人との付き合い方を見直そうとするのですが……。
遠からず終わりを迎える人々の、普通の生き方が愛おしくなる話。自暴自棄な振る舞いに及ぶ登場人物も少なからずいる中で、子供の誕生を喜び、ささやかな希望を見つけ、顔を上げるヒルズタウンの住民たちに勇気をもらいました。
天災や大いなる理不尽に対し、何もできない無力を卑下するより、日常を積み重ねる大事さが説かれています。自分や家族、大事な人が余命宣告されたらと、常日頃から考えがちな人に読んでほしいです。
隕石が降ってきて、明日自分が死ぬかもしれない。そのような状況に置かれてもなお、伊坂さんの登場人物たちは希望を捨てたりしません。「深海のポール」で、「死んでも死なない」を何度も連呼する未来が印象的でした。
15位『アイネクライネナハトムジーク』
映画化
これは出会って繋がる、伊坂幸太郎らしくて、らしくない短編集。
心温まる恋愛や出会いが描かれる6編は、登場人物が少しずつリンクしています。それだけなら割とありそうなものですが、リンクする人物の多さが尋常ではありません。おまけに年代も19年前だ9年前だと複雑です。しかしそれを苦にせず楽しめるのが素晴らしいところ。全て伏線となり、最後の物語へ連鎖していくのが何とも言えない魅力になっています。
音符が繋がって音楽を奏でるように、自分の言葉や行いが、誰かの背中を押していたら良いなと思える作品です。故郷を離れる人のはなむけに、大切な存在になってほしいあの人に贈ってみてはいかがでしょう。斉藤和義さんファンならぐふふとなるお話もあったりして。
伊坂さんにしては珍しい、ほんわか恋愛短編集。斉藤和義さんに作詞を頼まれたことから生まれた作品で、音楽と文学のコラボを楽しめます。
短編とはいえ、最後は事細かな伏線が繋がり超爽快。「世の中捨てたもんじゃないな」と思わせる、心地よ読後感も好きでした。
最近良いことないなという方の日常に贈りたい、優しい1冊です。
16位『グラスホッパー』
映画化
鈴木は妻を轢き殺した若者に復讐を誓い尾行するも、犯人は目の前で突き飛ばされ車に轢かれてあっさり死亡。その後、犯人を始末した男の正体が「押し屋」と呼ばれる殺し屋であると判明し、鈴木は殺し屋たちの死闘に巻き込まれていきます。
エキセントリックな殺し屋たちの駆け引きとスタイリッシュなアクションが魅力の小説。視点がテンポよく切り替わり、全員主役級の存在感を持ったクレイジーなキャラクターたちが交錯する展開は、先が読めずスリリング。殺しのブローカー・岩西と凄腕ナイフ使いの部下・蝉のユニークな主従関係にも注目です。
裏社会で生きる殺し屋に憧れる方は、本作を読んで胸を躍らせてはいかがでしょうか。
17位『シーソーモンスター』
バブル期の昭和日本。一見平和に見える北山家では、米ソ冷戦より殺伐とした嫁姑戦争が繰り広げられていました。しかも姑の過去には秘密があるようで……。
昭和が舞台の『シーソーモンスター』と2050年の近未来を舞台にしたSF『スピンモンスター』、両者の接点が明らかになる瞬間の驚きが素晴らしい二部構成の意欲作。昭和の空気を呼び起こす『シーソーモンスター』は嫁姑のコミカルな対立に笑い、『スピンモンスター』ではAIが支配するディストピアにぞっとしました。
ラストのどんでん返しも健在。もとは不仲な2人が紆余曲折を得て団結する、バディものとしても楽しめます。昭和と近未来を股にかけた新しいタイプの小説が読みたい方におすすめです。
18位『クジラアタマの王様』
製菓会社の広報担当の岸。ある日商品への異物混入が発覚し、苦情が殺到します。クレーム対応やマスコミの叩きに消耗しきった彼は、おかしな夢を見始めて……。
どこにでもいそうな会社員の青年が、自社製品の異物混入発覚後に保身に走る上層部や、マスコミの過熱報道に振り回される前半は、現場で頑張る岸を猛烈に応援したくなりました。岸が見る夢と現実がシンクロし、だんだん仲間が増えていくストーリーも面白く、王道RPG的な展開もあるので、ゲーム好きな読者にはたまりません。
誰かを悪者に仕立て上げなければ気が済まない社会の歪みも風刺され、自分の在り方を見直すきっかけになりました。RPGを愛する方におすすめです。
19位『魔王』
安藤は腹話術と呼ばれる特殊な能力を持っていました。これは対象を自分の思い通りに喋らせることができる力です。一方、世間ではカリスマ的指導力を持った政治家・犬飼が台頭。その思想に危機感を持った安藤は、腹話術を用い犬飼を止めようとするのですが……。
メディアの印象操作に流されがちな、大衆心理の危うさに警鐘を鳴らす一冊。安藤は犬飼に戦いを挑むものの、それは虚しい悪あがきに過ぎませんでした。世論を味方につけた指導者に対し一個人など無力だと痛感せざるえない展開は、私たちが生きる現実と密接にリンクしており、背筋が寒くなります。
自分の頭で考え、善悪を見極めることの大切さを知りたい方におすすめの小説です。
20位『マイクロスパイ・アンサンブル』
失恋の痛手を背負った社会人1年生と元いじめられっ子の新米スパイ。上手くいかない現実をどうにかやりくりするうちに、思いがけない形で人生がすれ違い…。
社会人とスパイ交互の視点で進む構成が面白く、不器用で実直な主人公たちを応援したくなります。
一見何の接点もなさそうな2人ですが、どちらも職場の人間関係や仕事課題に苦労しており、組織の矛盾にぐるぐる悩む姿に共感。
彼らが起こすささやかな行動の波紋が他者を巻き込み、時をこえて干渉してくるストーリーに運命を感じました。実際の歌詞と物語をリンクさせる試みも素敵で、美しい音楽の描写にうっとりします。
読後は、楽しい事だけじゃないこの世界を精一杯生きる、どこかのだれかの幸せを祈りたくなりますよ。
21位『オー!ファーザー』
高校生の由紀夫は四人の父親と同居しています。彼らは由紀夫の母親が妊娠発覚時に四股をかけていた男たちでした。タイプの異なる父親たちと仲良く暮らしていた由紀夫ですが、ひょんなことから町内のトラブルに巻き込まれていき…。
それぞれ突出した個性と特技を持った四人の父親が活躍する、伊坂流ホームコメディの傑作。母親の不在を補うように抜群のチームワークで息子に愛情を注ぐ父親たちと、それにこたえる由紀夫のやりとりがコミカルに描かれていて、一気読みしてしまいました。ミステリーとしても秀逸な出来栄えで、見事な伏線回収に唸ります。
気持ちよく笑える小説をさがしている方は、ぜひ手に取ってください。
22位『フーガはユーガ』
2019年本屋大賞10位
常盤優我と弟・風我の双子は不思議な力を持っています。それは誕生日の数時間だけ、相手がいる場所と自分がいる場所を交換できるというもの。優我たちはこの力を活用し、人生における難局を打破してきたのですが……。
双子の絆に泣けるちょっと不思議なミステリー。家庭内虐待や貧困、子供が犠牲になる残虐な犯罪が描かれ胸が塞ぐ一方で、2人で支え合いタフに生き抜いていく優我と風我コンビの活躍が痛快です。それぞれ大切な人と出会い、彼女たちを救うため奔走する双子の雄姿はとても感動的で、だからこそ終盤の展開には衝撃を受けました。
伊坂幸太郎が描く個性的な兄弟が好きな方、風変わりな双子が起こすとびっきりの奇跡を見たい方、必読です!
「僕の弟は、僕より少し元気だよ」
クソみたいな大人、クソみたいなクラスメイト。双子の風我と優我には不思議な力があった。それを使って、少しだけ人の為になってみよう。
この本はあまり前情報を入れずに読んで欲しいというのが私からのお願いです。
双子の兄弟、不思議な力、人の為。これがキーワード、そしてどんな想像をしても、きっとこの結末は予測できないはず。
後半は一気読み間違いなし、読みおわった後の独特のその余韻に、是非浸っていただきたい。
23位『火星に住むつもりかい?』
仙台が安全地区に指定され、「平和警察」が危険人物を取り締まる世界。隣人の密告により逮捕された人々に公開処刑が下される中、全身黒ずくめの正義の味方は市民を守るために奔走します。
相互監視社会と化したディストピアを描いた話。序盤は市民、中盤は警察、終盤は犯人の視点で構成され、立場の異なる視点から物語を楽しめます。平和警察の採用条件がサディスト傾向の有無であるのも皮肉が利いており、私たちが信じる正義がいかに移りげであやふやなものか噛み締めました。魔女狩りに熱狂する大衆心理や、それをコントロールする体制の構造にはぞっとします。
世間の風潮に一石を投じる問題作です。今の社会に不満を感じてる方はぜひ読んでください。
平和警察に支配されるぐらいなら、私は自ら死を選ぶでしょう。彼らが行っているのは、「正義」という名の暴力です。
この物語の世界がフィクションだと思いたい。しかし、現実に生きる我々の社会にもなり得るんじゃないかと思います。そういった社会の中に陥った場合、我々はどうするのか?タイトル『火星に住むつもりかい?』は、読者である我々に問いかけている言葉でもある。考えさせられるとともに、衝撃的な一冊でした。
24位『ホワイトラビット』
舞台は民家立てこもり「白兎事件」。
人質になった親子を救おうとするSIT課長の緊迫のネゴシエーションを経て、犯人の悲哀、ヒーローの活躍が…描かれません。いえ、コメディではないのです。登場人物が抱える闇や隠された真実がある、堅固なミステリー小説です。
しかし犯人たちはどこか抜けており、至って真剣な分滑稽さがジワります。そして度々「神の視点」で地の文が出現するのですが、そのタイミングや塩梅が絶妙。読み手がまさに「オイッ」「?」と思ったことを淡々とツッコんでくれます。
目まぐるしく変わる場面と複雑な人間模様も、愛すべきボケと熟練ツッコミの漫才をみているようなエンターテインメントで、ただただ読むのが楽しい。オチも含めてさすがの伊坂幸太郎です。
25位『ガソリン生活』
実は全ての車が人格を持っているとしたら?そんな妄想が伊坂ワールドで具現化されると、ただのファンタジーでは終わりません。
主人公といえる緑のデミオの持ち主は仙台で暮らす望月家。一家は女優の事故死や怪しい記者の接触など、何故か事件に関わってしまうため、デミオも否応なく巻き込まれてしまいます。
この小説はクセの強い小学生・亨の活躍や、事件の真相解明もさることながら、車たちの生態が何とも愉快です。
人語を完璧に理解する彼らは、車内で油断した人間の言葉に耳をすませ、駐車場では世間話に興じるオバチャンさながら車同士の情報交換にいそしみます。
また車両のコミュニティにもヒエラルキーがあり、「タイヤの数が多い方が格が高い」という謎の基準も個人的にツボでした。
26位『モダンタイムス』
怖い作品を読んだ、そう思います。
システムエンジニアの渡辺が仕事先で見つけた不可解な暗号。それは特定のワードを検索した人間を見つけ出し、攻撃するためのプログラムでした。
誰が何のために作ったのか探らずにいられない渡辺は、ある事件の真相に近づくことで、自身も危険に晒されていきます。
恐ろしいのは、「検索=監視」の図式が現実であろうこと。分業化が進んだ社会では、与えられれば人を傷つける事さえ仕事であり、人間は良心を失った「部品」になってしまうこと。
物語は21世紀半ばの近未来に時間軸をおいていますが、現在の自分たちの姿ではないと誰が言えるでしょう。作中で主人公は何度も「勇気はあるか?」と問いかけられます。「見て見ぬふりも勇気だ」とも。
27位『ラッシュライフ』
この小説には5人の主要人物が登場します。それぞれの視点を行き来しながら、描かれる人生は知らぬうちに交差し、離れ、1つの物語を形作ります。
読書の楽しみ方は人それぞれですが、この本を読む醍醐味の1つは作者との頭脳戦でしょう。意地悪な作者が綿密に練った手順で出されるヒントから、パズルを解くように読み進める楽しさがたまりません。
ミスリードの罠を見破って、あるべき場所にピースを配置していく爽快感!焦らされながら、完成した時にどんな絵が現れるのか想像する楽しみ。
そして最後のピースがはまった時の快感!冒頭からラストまでアドレナリン過剰な時間を堪能しましょう。たとえ、やっと見えた完成図が「だまし絵」だったとしても、です。
28位『フィッシュストーリー』
最後のレコーディングに臨むパンクロックバンド。彼らが想いを託したテープは、巡り巡って未来の人々を救います。
伊坂幸太郎の音楽愛が凝縮された短編集。売れないまま解散したバンドが遺したテープが、異なる時代に生きる人々を救い、大団円を招くストーリーが見事。たとえ今は報われなくても、全力で仕上げた作品は必ず誰かに届くと信じたくなります。伊坂作品お馴染みの粋な小悪党も登場し、思いがけない不運に見舞われ、逆境から抜け出そうとあがく登場人物たちに愛着が湧きました。
家族愛をテーマにした話も多く、特に「ポテチ」は号泣必至!テンポよいストーリーと軽快な会話を織り交ぜ、ラストの逆転ホームランでしっかり泣かせてくれます。
ありえなさそうだけど、ありうるかもしれないストーリーに、自分も何か人の役に立つことをしたい、と思えるようになりました。
おわりに
伊坂幸太郎のおすすめ小説を紹介しました。
伊坂幸太郎作品の魅力はその設定の奇抜さと、独自の美学や哲学を持ったキャラクターたちにあります。登場人物の一風変わった人生訓や、作者の教養の深さを感じさせる蘊蓄も見所です。
あなたもぜひ奇妙奇天烈な伊坂ワールドにハマってください。
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